不良医師奮戦記 | 叙情夜話ブログ

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コバルト文庫・破妖の剣について語っています。ネタやレビューや考察など色々。
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著者: 小野 不由美
タイトル: 屍鬼〈1〉

最近読み返してまた嵌まりました。ハードカバー版もあるようです。

静信さんの小説がなければもっと短くまとまったのではないかというのが主な感想です。

それと尾崎先生が素敵。診察してください。


すみません真面目に書きます。

このお話のモチーフと言われている『呪われた街』は未読ですが、閉鎖された村や吸血鬼、甦る死人などの設定は他の文学作品にも多く見られるもので、何も屍鬼に限ったことではありません。

物語の前半は、人々の屍鬼に対する恐怖を描き、後半では沙子たち屍鬼の視点から、蜂起した人間の恐ろしさを語ります。

追い詰められた村人達は様々な選択を強いられます。挑む者、戦いを放棄する者、屍鬼に下る者、狩りを楽しむ者…。

相手は異形の化け物ではなく、人間の姿をしています。大切な人たちが生前の姿そのままで襲い掛かってきたら、果たしてどこまで抵抗できるのでしょうか。

物語の中枢を担う2人の男性は、あまりにも極端すぎる思考の持ち主で、そのぶん脇役の村人達の素直な反応に安心したり、逆に甲斐性のなさに苛立ったりと、つい感情移入してしまいます。そしていつのまにか外場の住人になったつもりで、尾崎医師に反発したり、静信に怒りを抱いたり…。

欲を言えば沙子の葛藤がもう少し欲しかったと思います。(そのぶん静信さんの禅問答を削って下さい)

大量の屍鬼を操って自信満々だった沙子と、最後の方で急に被害者意識を持ち始める沙子がうまく結びつかず、大川さんに襲われた時もいまいち同情できませんでした。むしろ、奈緒さん達のシーンの方が悲劇です。

散り散りになった村人たちのその後も気になりますが、屍鬼がまだ日本のどこかにひっそりと生息しているのかと思うと背筋が寒くなります。とりあえず雨戸はしっかり閉めましょう。夜中に窓の外でコツンと音がしても開けないように。