ここをクリックすると第1話に飛びます
 文末のつづくをクリックしていくと順番に読めますです


 まだ見ぬ土地も映像として頭に浮かび、いつしか僕はそこを自転車で走っているのである。
 超高層ビルの谷間を、磨きたての愛車(自転車だけど)で走っている自分。
 僕の夢想力は、なまなかなものではなかったようだ。
 やがて、これはと思う物件を見つけることができた。
「バス停二分、東向六畳、銭湯近、環秀、早勝」
 中野区江古田(えごた)というところだった。
 一階には大家さんが住んでいるという。
(それはいいな。何しろ初めての東京だから、大家さんが近いほうが安心だな)
 こういう発想は、今だったら絶対に考えられないことである。
 大家さんなどという立場の人は、北海道とか沖縄に住んでいるのが望ましい。
 何ならハバロフスクやアジスアベバなどという、容易には連絡も取れないようなところに住んでいるほうがいい。
 しかし、初めて一人暮らしをしようとしている当時の僕は、そんなことは思わなかった。

 つづく