催眠のカタレプシーと受動意識仮説

前回の投稿に続き、きょうも問い合わせでいただいた質問について回答していきたいと思います。ちなみに、今回の質問はうちの生徒さんからではなく、一般の方からの問い合わせです。

内容は「……（省略）……しかし、催眠関係のYouTubeで面白いことを言っている人がいるんです。無意識は常に受け身で、意識と無意識が引っ張り合いをすることなどないと言っています。このグループはこの理論を催眠に取り入れ実行しているそうです。この話を鵜呑みにしても宜しいのでしょうか？林先生のご意見をお聞かせ願えたら幸いです……（省略）……」というものです。

これは、受動意識仮説のことを言っているのだと思われます。

慶應義塾大学の前野隆司氏や東京大学の渡邊正隆氏をはじめとする意識と無意識の研究を続けている科学者たちは、「物事の判断から何かをしようとする思考や行動まで、すべて無意識が決めていて、意識は無意識が決断したことを0,3秒から0,５秒遅れて認識しているだけだ」と述べています。

これと似たような見解は催眠の世界に100年以上前からあります。

催眠の世界では昔から良く言われている「人は悲しいから泣くんじゃない、泣くから悲しんだ」というものです。

大昔に行われた催眠の実験に次のようなものがあります。

被験者を深い催眠に入れて「あなたが目を覚ましたあと、私が咳払いをすると、あなたはこの部屋の窓を開けます」と暗示して催眠を解きます。

被験者が目を覚ましたあと、誘導者が咳払いをすると、被験者は文字通り窓を開けに行きます。

そこで「なぜ窓を開けたのですか？」と聞くと、催眠の後催眠暗示で窓を開けたにも関わらず、被験者は「部屋が暑かったからです」と答えるのです。

このようなことから、「人は自分が行った行動に後から理屈を付ける生き物だ」といった考えが催眠の世界には昔からありました。

しかし、「意識は常に受動的で、無意識の決断や行動を意識は受け取っているだけだ」という考察では、催眠のカタレプシーが成立しないのです。

「意識は無意識が決断したことを0,3秒から0,５秒遅れて認識している」といった実験結果から「受動意識仮説」を立て、「意識は常に受動的で、無意識の決断や行動を意識は受け取っているだけだ」というのは少し話が飛躍し過ぎているように思います。

ちなみに、先ほど出てきたこの「受動意識仮説」の理論を催眠に取り入れているグループですが、彼らがこぶしのカタレプシーをかけているのを何度か見たことがあります。

被験者に手を握らせて、「親指の爪とシワどっちが見やすいですか？……では、そのシワをじーっと見て……こぶしをギュッと握って……シワを見ているとあなたの意識はどんどん集中してきます……そのままあなたの手はどんどん固まる、どんどん固まる、どんどん固まる、ガッチガチに固まる、ガッチガチに固まる、手が開かない、開こうとすればするほどますます固まっていきます……ガッチガチに固まって手が岩のように固まって開くことができない……どうですか？」といったお決まりのセリフを早口でいうだけのものです。

このような一発勝負のようなかけ方では多くの人にカタレプシーをかけることはできないでしょう。でも、このグループは「カタレプシーは生まれたときからかかる人とかからない人が決まっている」と言っています。

とんでもない話です。

この人たちがカタレプシーをかけられなかった被験者も、きちんと手順を踏んでかければほとんどの人にかけることができます。

自分たちがかけられなかった被験者に対し、「かかるかどうかは生まれたときから決まっている」という前に、正しい手順でカタレプシーをかける方法を学んだほうが良いと思いますよ…

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