「エミール」は1758年頃に着手され て、1760年に完成したジャン=ジャック・ルソーの代表作で,近代教育学の古典の一つに数えられている。
1762年5月末の出版と同時に教会と政府の追及を受け,晩年の放浪生活の機縁となった。文明社会によってゆがめられない自然人の理想を目指して,エミールという架空の生徒がどのように育てられていくかを物語風に展開した。
子供の時期を,理性の未熟さと感覚依存のゆえに,理性を本性とする人間にとって根源的不幸とみたデカルト以来の伝統に対して,子供に自然の善性を認め,それを文明社会の悪影響から守り育てようとする教育理念は,画期的なものであり,ルソーは子供の発見者とまでいわれた。
またルソーは具体的教育法として,特に体育と情念教育を重視した。モンテーニュ,ロックの流れをくむ彼の全人格的教育の理想は,カントにも大きな影響を与えた。
『エミール』は単なる教育論ではなく,背景にあるルソーの宗教観,社会観,道徳観を含んだ,彼の哲学の頂点をなす著作である。
ルソー(1712〜78)はフランスの思想家・文学者で、近代文化の全ての領域に大きな影響をおよぼした。放浪生活の後に1741年にパリへ出て、文明の進歩に対する否定的見地から、自然状態への復帰を説いた。
人間の生き方についてルソーは語っている。
「どんなものでも、自然という造物主の手から出るときは善であり、人間の手に渡ってからは悪となる」