1話 https://ameblo.jp/hayaken80/entry-12333968405.html

 

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7名の合格者が発表されるとすぐに

道玄坂テレビジョンの会議室では今後の運営方針が話し合われていた。

 

事務所が運営している撮影会スタジオがあったので

まずは撮影会を中心に活動を始めていくこと。

 

デビューLIVEを10月30日に行うこと。

 

グループ名を『Q-pitch(キューピッチ)』とすることなど

具体的な部分が決められていった。

 

 

ここまでは事前の会議でもある程度決まっていたこともあり

滞りなく決まったいったが、今回合格者が決まったことで

リーダーを誰にするのかという話題になったときに意見が割れた。

 

 

アイドル経験があり知名度もある槙田あやを推す声がある中で

自己主張が強い槙田ではまとまらないのではないか

という声が出てきたためだ。

 

たしかに槙田は他のメンバーを統率するタイプではないが

他に適任者がいるのかといえば特に挙がるメンバーもおらず

話しは平行線を辿った。

 

 

結論が出ない状態を見かねた社長の鈴本は

マネージャーの高田に意見を求めた。

「高田はどう思うんだ?」

 

それまで沈黙を貫いていた高田は少し間を置いてから話し始める。

 

「そうですね。ずっと考えていたんですが・・・」

 

 

 

 

合格発表を終えたメンバーは運営スタッフから

今後のスケジュールと後日事務所で契約を交わすことが伝えられ

今日はオーディションも終わったばかりということで解散を告げられた。

 

事務所をあとにしたあやりんは渋谷のスクランブル交差点にいた。

ちょうど交差点を渡りきったところで足を止めた。

 

聞き慣れた楽曲が耳に入ってきたからだ。

 

振り返り街頭ビジョンを見上げると

かつて泣き虫センセーションで一緒に活動していたメンバーが

新たなグループでメジャーデビューするというCMが流れていた。

 

今でも連絡は取り合う仲だし、けして嫌いなわけじゃないけど

素直におめでとうと祝福する気にはなれなかった。

 

かつては同じスタートラインにいて同じ舞台にいたはずなのに

いつの間にかこんなにも差をつけられてしまった。

気がつけば彼女はメジャーデビューをしていて

私はまだ地下アイドルのオーディションを受けている。

 

 

あやりんの中でこみ上げる

こんなはずじゃなかったのに・・・

という思い。

 

 

あのままアイドルを続けていたら私の人生はどうなっていたんだろう。

そんなふうに思うことも一度や二度ではなかった。

 

でもそれと同時に

このまま終われない

という気持ちがあった。

 

だって私はまだ何も成し遂げていないのだから。

 

 

大学への進学と同時に一度は諦めたアイドルの世界。

 

 

それでも諦めきれない思いがあったから

大学を休学してもう一度アイドルをやろうと決意した。

 

だからこそ一刻も早く結果を出して

追いついてやろうという思いが強かった。

 

夢の続きは必ず次のグループで叶える。

 

そんな思いを抱いていた。

 

「私は絶対に負けないから。」

そう呟くと再び渋谷の駅に向かって歩き始めた。

 

 

 

 

会議室でマネージャーの高田は話し始める。

 

「そうですね。ずっと考えていたんですがリーダーは槙田あやがいいんじゃないでしょうか。」

 

「なぜそう思う?」社長の鈴本は問いかける。

 

「面接をしたときに聞いたんです。

アイドル経験はあると聞いていたので、なぜ再びアイドルをやりたいと思ったのか。

それにアイドルの経験があるのなら新規立ち上げのグループでなくても即戦力として既存のグループに加入することだってできたはずでしょって。

そうしたら彼女は言ったんです。私にはアイドルとしてやり残したことがあるって。」

 

「やり残したこと?」鈴本はその言葉に引っかかった。

 

「ええ、以前活動していたときは子供の頃からの夢だったアイドルになれたことでどこか満足してしまう自分がいて、楽しさよりもつらい気持ちのほうが強くなっていたと言います。

でもアイドルを一度辞めて大学に通ううちにアイドルとして活動できていた時間の大切さに気づいたようなんです。

その話を聞いていたときに彼女の中でアイドルとして完全燃焼できていないんだなと思ったんです。それが彼女にとってのやり残したことでしょう。

今回うちのオーディションに来たのはもう一度心機一転0からやり直したいということのようです。一度こういう思いを経験している子はそう簡単には投げ出さないと思います。」

高田は面接のときの様子を思い出しながら熱く語った。

 

 

「なるほどな。そういう思いがあったのか。

みんなが心配している槙田の性格についてはどうだろう? 

リーダーとしての資質に関わる問題だろう。」

鈴本が核心に迫る。

 

「そうですね。

正直言ってリーダーに向いているかと言われたら向いていないのかもしれません。

ですが、なぜ彼女が周りにきつく当たるかといったら早く結果を出したいという気持ちが強すぎるからなんだと思います。気持ちに余裕がないから着いていけない子を待つことができない。

たしかに問題はありそうですが、完璧なメンバーはいないことも事実なんで任せてみてもいいのかなと思っています。」

高田もオーディション会場で槙田が揉めている姿を見ていたが

それもある意味でグループに必要な闘争心になってほしいと思っていた。

 

 

高田の発言以降、槙田あやをリーダーにすることに対して

異議を唱える者はいなくなった。

 

 

 

 

あやせとひなたはオーディションが終わると

事務所から少し歩いてBunkamuraの方まで来ていた。

 

合格祝いも兼ねてご飯を食べて帰ろうということになったのだ。

 

「ワイは絶対にあやせちゃんは合格すると思ってたよ。この子は何か違うなって感じるものがあったんだよね。」

合格して上機嫌なひなたは笑顔でそう話した。

 

「ほんとに? ひなちが審査員やってくれればよかったのに。」

あやせはそう言って笑った。

 

二人はひなたがよく行くという石垣島のハンバーグ屋さんに入ると

店員さんが持ってきた水で乾杯した。

 

二人は今日初めて会ったとは思えないほど意気投合した。

 

あやせは不思議な感覚だった。

初めて会ったときは自信なさげでずっと挙動不審だったひなたが

こんなにも楽しそうに話してくれている。

たった数時間で人ってこんなにも変わるんだな

と思った。

 

話はオーディションの面接の話題になった。

 

 

あやせは面接を迎えるにあたって

自分はどれだけアイドルになりたいと思っているかという気持ちだけは

絶対に伝えようと決めていた。

 

集団面接だったので1人あたりの時間は限られている。

限られた時間でどれだけ熱意が伝えられるかをずっと考えていた。

 

面接官に聞かれた。

「なぜアイドルになろうと思ったんですか?」

 

 

志望動機は必ず聞かれると思ってずっと用意していたのに

いざ面接会場で聞かれると考えていたことなど忘れてしまった。

 

「私は子供の時からアイドルになるのがずっと夢だったんです。

でも青森に住んでいたこともあるし親の反対もあってアイドルのオーディションは受けることができませんでした。

今になって思うと全部言い訳にすぎなかったのかなと思っています。

看護師の学校に通うために東京に出てきてそのまま看護師になることも考えたんですが、やっぱり一度きりの人生だから後悔はしたくないなと思って今回オーディションを受けることにしました。」

そう熱く語った。

 

それ以降は正直自分でも何を語ったのかは覚えていない。

とにかくアイドルになりたいという情熱を伝えたいの一心だった。

 

ひなたはそんなあやせの話を真剣に聞いていた。

ひなた自身は、自分がなぜ合格できたのか不思議と言っていたが

あやせはひなたの無邪気で憎めない魅力が合格に繋がったんじゃないかと思った。

 

二人はそのまま語り合い気がつけば3時間が経過していた。

 

あやせとひなたは渋谷の駅で別れ電車に乗った。

しばらくすると、あやせは車中で現実に戻されていた。

 

合格発表を終えて契約に関する書類の中に

まだ19歳だったあやせには親権者の同意が必要なものがあったからだ。

 

 

今まで何度話してもダメだった親を説得できる自信はなかった。

でもせっかく合格したのにこんなところで立ち止まるわけにはいかない。

黙ってやろうとしたってどうせいつかはバレる。

看護学校を卒業してから以降のことも考えると

親の協力はどうしても必要だった。

 

 

最寄りの駅に着くと意を決して母に電話をかけた。

普段それほど電話をするタイプではないので

まずは世間話から始まった。

 

日頃の生活の話からお盆に帰省するのかといった話だ。

和やかな口調で話は続いた。

 

うまく言い出すタイミングを見つけられずにいたが

やっぱり言わなきゃ

と思い話し始めた。

 

「あのね、実は今日アイドルのオーディションがあってね。私、合格したんだ。」

心臓の音が自分でも聞こえる。

オーディションのときより緊張した瞬間だった。

 

母はしばらく無言だった後に言った。

「学校はどうするの?」

 

「行くよ、もちろん。ちゃんと両立しながら」

あやせがそう言った瞬間

「できるわけないでしょ。」

母親の声が遮った。

 

「看護師っていう仕事は患者さんの命を預かる仕事なのよ。それをアイドルやりながらやるなんて無理に決まってるでしょ。」

 

あやせも引き下がらない。

「実習の期間はお休みもらって土日に活動するとかやり方は絶対にあるはず。実際に看護学校に通いながらアイドルを続けている子もいるんだから。」

 

母はそれでも反対した。

「土日に活動するって言ったって土日も勉強するぐらいじゃないとできないのが看護実習なんじゃないの。」

 

「もちろんそれは分かってる。その分、平日にやれることはやって学校にもアイドルにも影響がないようにがんばるつもり。」

あやせの熱量に押されたのか再び母は沈黙した。

そしてこう言った。

「私はあんたをアイドルにするために東京に送ったんじゃないからね・・・」

 

母の言葉は重かった。

たしかに母の言っていることはもっともだと思った。

でも諦めるわけにはいかない。

ただ、なんと言葉を返していいのか分からなかった。

 

 

「そういうわけだからこっちに帰ってくるときはまた連絡するんだよ。」

そういうと母は電話を切った。

 

「あ! ちょっと待って。」

あやせがそういったときにはもう切れていた。

 

どうしよう・・・

結局、母を説得できなかった。

 

気がつけば駅から歩いて自宅に到着していた。

再度電話を架ける勇気もでないまま自宅のドアを開けた。

 

 

 

翌日、母に再び電話をしたが仕事に出ている時間ということもあり電話は繋がらなかった。

 

どうしたらいいか分からなくなったあやせは

前日もらっていたマネージャー高田の名刺を取り出した。

 

とりあえず書類の提出を待ってほしいと伝えようと思ったのだ。

 

電話を架けるとすぐに高田は出た。

「はい、高田です。」

 

「お忙しいところすいません。昨日のオーディションでお世話になった榎本です。」

 

「あー、榎本さん。昨日はありがとうございました。どうしました?」

明るい声で高田は受け答えをした。

 

「えっと・・・昨日もらった書類なんですがもう少しだけ提出を待ってもらえないでしょうか?」

 

「ん! 何かありました?」

不穏な空気に高田の声のトーンが変わる。

 

あやせはもう隠してもしょうがないと思って

昨日親にオーディションのことを話したこと

親は反対していて承諾してもらうには時間がかかること

などを話した。

 

高田は一通りの話を聞くと

「分かりました。また架け直すのでちょっと待っててもらっていいですか。」

そういうと高田との電話は終わった。

 

あやせは合格の取り消しという最悪の結果を想像した。

せっかくの合格をこんな形で逃してしまうのはやるせなかった。

20歳を超えてからまた違うオーディションを受けよう・・・

 

そんなことを考えながら高田からの電話を待った。

 

30分ほどすると高田から着信があった。

「はい、榎本です。」

あやせは何を言われるのだろうと不安になった。

 

「お待たせしました。先ほどはお電話いただきましてありがとうございました。お話ししいただいた内容を受けまして社長とも話してきました。」

 

あー、やっぱりダメなんだとあやせは思った。

 

「ぜひ青森の親御さんのところに行って直接お話しさせていただきたいと思うんです。いかがでしょうか?」

 

「え! 青森まで行くんですか?」

あやせは最初何を言っているのか分からなかった。

 

「ええ、もちろん親御さんが会ってくれることが前提になりますが私ともう一人マネージャーの佐竹も一緒に行く予定です。どうですか?」

 

あやせは予想もしなかった展開に戸惑いを隠せなかったが断る理由なんてなかった。

「あ、はい。お願いします。」

 

 

そういうと高田との電話を終えた。

合格取り消しという最悪の事態を想定していただけに

安堵の気持ちがある反面

事務所の人が青森まで直接行くという事態に

動揺が止まらないあやせだった。

 

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この物語は実在するアイドルグループQ-pitchを題材にしていますが、

物語はフィクションでありグループ及びメンバーとは一切関係ありません。

 

Q-pitch