[mixi より転載]

前の日記で予告したように、1月7日に近くのシネコンで映画「武士の一分」を観てきました。原作;藤澤周平、監督;山田洋次、主演;木村拓哉。

藤澤周平×山田洋次の時代劇3部作の最後を飾る傑作との呼び声の高い作品です。残念ながら前2作品は観ておらず、「キムタク」人気に便乗した映画かと思いましたが、さにあらず。いい作品でした。主演の木村拓哉がタレントのキムタクでなく、役者の木村拓哉でした。

この映画は時代劇ではなく、江戸時代に設定を借りた現代劇と言っていいのではないかと思います。現代の日本人が失いかけているものが、たくさん詰っているような気がします。

----あらすじ他(ネタバレは無いつもり)------

時代は江戸時代末期、270年近く続いた徳川政権も、その長さ故か閉塞感が漂うのは、敗戦60年後の現代と重なるようにみえる。NHKの大河ドラマのような派手さは微塵もない。スポットがあてられるのは、石高わずか30石の下級武士(三村新之丞)。仕事は海坂藩(モデルは庄内藩)藩主の毒見役の一人である。器量良しの妻の加世と2人暮らし。そこに先代から仕える中間の徳平が毎日通ってくる。貧しいが平和な生活がそこにはあった。

しかし、事件が襲う。新之丞が毒見の際に貝毒に中り失明するのだ。人の手を借りないと生きていけない自分に新之丞は苛立ち、焦る。役に立たない武士の行く末は、おおかた石高を減らされて飼い殺しである。しかしながら藩主からは「今後も30石を引き継ぎ与える。養生に精を出せ。」とのお達しが下る。

そのお達しの下る前に、今後、誰が新之丞たちの面倒を見るかについて親族会議が開かれていた。その折、妻加世が顔見知りの島田(新之丞の上士。剣の達人にして藩主の覚えめでたい)が「困った時は相談に乗る。」と言われたことを話すと、親族からは安堵の声が上がった。

島田を訪ねた加世は、「新之丞の進退を悪いようにはしないよう藩主に進言する」という言葉巧みな罠に落ちてしまう。新之丞は妻が自分のためとはいえ島田のものになったことに怒り、離縁を申し渡す。さらに、藩主のお達しは島田の進言が効いたのではなく、藩主自らの温情だったことが友人の武士から伝えられる。

加世は弄ばれただけであった。新之丞は「武士の一分」を守るために果し合いを申し込む。「盲目だと思って侮られること無きように。」という言葉を添えて。徳平を御伴に、死を覚悟して果し合い場所に向う。果たして…。

-----------ここまで---------------------------

主演の木村拓哉は抑えた演技が良かったです;テンションが上がった時はキムタク節が少し出ていたけれども。庄内弁も自然で違和感無く使いこなしていました。また、彼が子供時代にやっていた剣道が殺陣にも生きて、迫力ある立ち回りになっていると思います。結構、奥が深く、引き出しの多い役者だなと感じました。

加世役の壇れい(元宝塚主演娘役)は、映画初出演ながら、夫思いで芯の強い武士の妻を好演。立ち居振る舞いも美しく、これからが楽しみな女優さんです。

3人目の主役:徳平役の笹野高史は暗くなりがちの題材にほのぼのとした暖かさとユーモアを付け加えてくれていました。山田監督の映画には欠かせない俳優だそうです。

初めての敵役:島田を演じるのは、坂東三津五郎。2枚目なのに憎らしい役を演じきっています。最近、時代劇で頻繁に見たので、悪役ぶりは新鮮でした。

ちなみに、パンフレットは800円もしますが、かなり読み応えのある厚さです。