自民党“裏金”が脱税にならないワケ 国税担当記者が問う「政治は誰のためのものか」
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自民党の派閥の政治資金を巡る収支報告書への不記載事件は、国会議員3人と会計責任者ら7人を立件したことで、捜査は終結した。
自民党も“裏金”作りが常態化し、不透明なキックバックを受けていた39人に対し、「離党勧告」や「党員資格停止」などの処分を下した。
しかし、これで一連の問題は、決着が着いたと言ってしまって良いのだろうか。 (社会部司法担当 織田妃美)
一斉処分はしたけれど…収まらぬ納税者の不満
税務関係を取材している私は、普段から多くの納税者から、疑問や不満の声を耳にしてきた。
その声を最初に意識したのは、2月16日。確定申告の初日、税務署に申告のため訪れた人たちに話を聞いたときだった。
「私は正直に書類に記載してきた。だから、裏金が処分されないのは納得できない」
「議員は裏金を自由に使えてやりたい放題なのに、どうして私たちは確定申告しないといけないのか」
確定申告が必要な人は、収入や経費などを自分で把握して申告を行っている。もし誤った申告をして、それが国税当局に疑義を持たれると税務調査に発展する場合もある。しかし、今回の問題で国会議員に税務調査が行われたとは耳にしない。
税金の面からもっと追及すべき責任はないのだろうか。疑問に思った私は、税法の専門家や国税、検察の関係者らに話を聞いた。
政治活動に使っていれば個人所得でも「非課税」に
そもそも、政治資金として適正に記載してこなかった資金は、税法上どのような扱いになるのだろうか。
政府税制調査会専門家委員会の委員や青山学院大学の学長も務めた租税法の専門家である、三木義一氏に問いを投げかけてみた。
―――実際は“裏金”は課税されていない。なぜ「非課税」なのか
三木義一氏
政治団体にお金が直接入ったのであれば、非課税となる。ただし収支報告書に記載する必要がある
―――“裏金”と呼ばれる資金は、課税対象となる可能性はあるのか
もし政治家個人として受け取っていたら、個人の所得に該当するので課税の対象となる。
大前提として、政治団体に入ったのであれば、その時点で政治活動に使われる資金だとみなされるので非課税となる。
今回、問題となっている派閥からキックバックされた資金については、政治団体への寄付として各議員が収支報告書を訂正した。そのため非課税になっているというわけだ。
しかし、この事件では派閥からキックバックされたお金がそもそも隠され、 どこにも記録がなされずに不透明なままになっていたことが常態化していた。
三木義一氏
政治団体が寄付を受け取ったときは、政治資金として明記しておかないといけない。それがないのであれば、政治家個人に渡ったのだろうと推測される。政治団体の資金として証明すらせず、不透明なままだから国民は自分たちとは違うと怒りがこみあげてくるのだろう。
裏金が政治資金であるなら、本来であればその証明を国会議員がするべきなのだ。
さらにその証明が本当に正しいのかどうか、三木氏は「国税当局が判断すべきだ」と指摘する。
ただし、個人収入と判断された場合でも、それを政治活動に使っているのであれば「経費」となり、全額が課税対象となるわけではない。
例えば、5000万円を個人の所得として受け取っていても、4000万円を政治活動に使った場合、課税対象となるのは1000万円のみとなる。
納税者のひとりである国会議員個人も、納税の必要があれば確定申告で自身の収支の内訳を示して、その年に納める税金の額を明らかにするのがルールだ。
しかし納税額に対して疑いが生じた場合、調査に乗り出すのが国税当局となる。