「いらっしゃいませ。お久しぶりです。皆さん。」

 

「今日はよろしくお願いします。」

 

ここは長野県軽井沢市にあるとあるレストラン。聡太の家族が聡太の東大の入学祝いにと予約していたのだが、このレストランはまさに唯一無二というべき存在で、普段はケーキやパンなどのお菓子を販売しているが、年間で50日程度、春と秋の限られた期間だけ、レストランとして営業するのだ。春は山菜を中心に、秋はキノコをメインにしたここでしか食べることができない料理を食べるために世界中の美食家が訪れる超のつく名店なのだが、営業期間が限られているため、予約は3年待ち。そんなお店になぜ予約することができたのかというと、もともと大谷トラストグループとこのお店の店主が懇意なうえに、聡太が高校に進学した時点で、大学進学祝いをしようと両親が予約を入れていたのだ。

 

「今日は本当に楽しみにしてました。」聡太が店主に挨拶をする。この店主はテレビ番組に取り上げられるなど、ちょっとした有名人なのだ。

 

地元長野の食材を店主自ら調達し、それを唯一無二の料理に仕立てるのだ。

 

まず最初に出てきたのは、地元長野で捕れた鹿肉に軽くフィレを入れ、周りに地元産の山菜・フレッシュチーズ・地元産のキャビアをあしらった料理。

 

「いただきます。」

 

「さすがにおいしさ。待ったかいがあった。本当なかなか予約できないから、」茂が驚嘆したように言った。

 

「ありがとうございます。聡太くんに山菜どうかな?」

 

「本当においしいです。自分は好き嫌いないんで、山菜も全然大丈夫ですけど、今までに食べたことがない料理で、なんか感動してます。」一品目からもちろんおいしいのはさることながら、今までに体験したことのない食の体験ができるのもこのお店の特徴なのだ。

 

次に出てきたのは水と野草でブイヨンを取り、そこに自家製の発酵バターを溶かしてスープを作り、ヨモギを練りこんだラビオリの中に鮎と山椒を入れた料理。店主曰くこれはウクライナ料理なのだそうだ。これもまさに唯一無二の味わい。

 

「本当に食べたことがない、感動してます。」

 

次の料理はオムレツだが、オムレツの上にのっている山菜を引き立てるため、あえて味が強くない初産の卵を使用するというこだわりぶり。

 

野生のアスパラというシオデという山菜と地元の白馬で獲れた鱒・藁でいぶした自家製のチーズをクレープ生地で包み、上からピスタチオのクリームをかけて焼き上げた逸品

 

地元で獲れた豚肉と山菜の女王様と言われるコシアブラの揚げ物。揚げているところを見て聡太が気づいた。

 

「火加減が弱いのは、もしかして標高が高いからですか。」

 

「さすが聡太くん、よく気づいたね。軽井沢は標高高いから、なかなか火力が強くならないのよ。」

 

「そうなんですか。」

 

「もちろん、それは想定済みで」

 

豚肉とコシアブラの揚げ物はベストマッチ。さらに山ウドと地元産の鳩の春巻き。とすべてがパワーワードで唯一無二の絶品料理が続く中、店主が「外に出ましょう」ということで、これからは外に出て食事をすることになった。

 

経産牛で作ったハンバーグを藁でいぶす。そのいぶしたハンバーグに赤ワインを煮詰めたソースを塗り、包丁で細かく刻む。それを店主特製の自家製チョコレートを練りこんだパンの上に刻んだハンバーグをのせていただく。

 

「今まで、全部凄くおいしかったんですけど、これが今日一でおいしいです。」

 

「やっぱり聡太君は肉が好きだね。」

 

「昔から基本的になんでも食べるけど、肉が特に大好きなんで。」茂が聡太の食の嗜好をさらす。

 

大根と凍らせたお餅と山菜・イノシシ肉を使った鍋ものに、山菜とイワナ・根曲がり竹のビリヤ二、山菜と鳩肉を添えた冷麺と後半も唯一無二の絶品料理が続いた後、最後のデザートはアマゾン産のカカオを使った自家製チョコレートを使ったジェラートと放牧牛で絞ったミルクとスミレで作った自家製シロップをかけたかき氷にアマゾン産のカカオから作ったチョコレートケーキにアマゾンで採取したハチミツを添えたデザート。

 

とにかくいままで聡太が経験したことのないおいしさと食の体験。店主の話を聞き、勉強になった、視野は広がって有意義な時間だった。

 

「本当においしかったです。ありがとうございました。今度は秋ですね。」

 

「秋にまたお待ちしてます。」

 

「すいません、大学卒業する時に卒業記念でここに来たいので、予約してもいいですか。」

 

「もちろんです。」

 

「聡太、このお店気に入ったか。」

 

「特別な体験ができたので、ぜひともここに来たいです。」