東京大学の合格発表はインターネット上で合否を発表する仕組みになっていて、東京大学のホームページ上で合格者の受験番号を公開する仕組みになっている。
運命の合格発表当日、哲雄はパソコンの前に座り、どこか落ち着かない様子でパソコンの前に座っていた。試験の出来は数学・国語・化学はよくできたが、英語・物理があまりできなかった。でも受験生みんなできていないだろう。だから合格できてるのではとという思いがあったのだ。
ただそれでも本当に合格が決まるまではドキドキ、心臓の鼓動が早く、はっきりと聞こえるのが自分にもわかった。そんなことは初めての経験だった。合格して数学の分野で大谷聡太と研究対決したい、気が早いが、そんな思いもあった。
そして運命の合格発表の時間、東京大学のホームページに合格者の受験番号が掲載されると、さっそく哲雄は自分の受験番号と合格者の受験番号を照合していく。やがて自分の受験番号が近づくにつれ、ドキドキが最高潮になっていくのを感じた。そして。
「あれ・・・えっ・・・・ない・・・」
受験は時に残酷である。番号がない、それはすなわち不合格を意味した。無情にも哲雄の前後の受験番号は掲載されていたが、その間の番号はなかったのだ。
「えっ、嘘だろ、おい。」哲雄は目を疑った。何回も何回も受験番号を確認した。しかし何度見ても哲雄の受験番号はなかったのだ。まさに絶望の答え合わせ。
「なんで、俺が不合格なんだ!!くそー!!」それは今までの人生で一番の絶叫だったかもしれない。
「どうしたの!!」2階からものすごい絶叫が聞こえたので、1階から真澄が2階に駆け上がってきた。
「なんで俺はいつもいつも不合格なんだよ!!」
「えっ、不合格?」
「また東大不合格なんだよ!!」
「不合格?今回は合格できそうじゃなかったの?」
「そのつもりだったけど、また不合格なんだよ!!」
「不合格って、また1年浪人・・・でも、なんで・・・」真澄はそう言うと、なぜか涙がこぼれてきた。今まで中学入試に始まり、今に至るまで入試は全て不合格。かたや聡太は中学入試・大学入試と全部合格。東大にいたっては推薦入試で合格している。
なぜ哲雄だけが、こんな目に合わなければいけないのか、そう思うと涙がこぼれてきたのだ。
「お母さん・・・」真澄が涙を流してるのを見て、哲雄はわれに帰ったのだった。
「お父さんになんて説明したらよいか・・・」真澄は絞り出すように言った。守からは今年受験に失敗したら、就職も考えるようにと言われていたのだ。
「もう今更就職なんてできないじゃん。来年こそは東大に合格するからって頭下げて土下座するしかないか・・・」
「土下座しても許さないかも。お父さん頑固だから。」
「でも、もう3月。今更4月からなんて無理じゃん。アルバイトなんて・・」
「もう大谷君にこだわって東大目指すのはいいけど、来年は他の大学も受験しなさいね。何も東大や大谷君が人生の全てじゃないんだから。」哲雄は東大以外は入っても意味はない、あくまでも東大に入って聡太と対決する、そのことしか頭になく、今年度も滑り止めで他の大学を受験していなかったのだ。
「それは嫌だね。東大一本、これしか頭にない。今年は塾にも行くから。とにかく何がなんでも東大に合格する。」
「また不合格だったのか・・・」その日の夜、仕事から帰ってきた守は哲雄から不合格の話を聞かされたると、深いため息をついた。
「もう就職しなさいと言われてももう働き口がないし、もう1年。来年こそは東大に合格、東大に合格できなくても、必ず他の大学に行きなさい、どこの大学でもいいから。他に数学の研究ができる大学があるだろうに。それと大谷君にこだわるのはやめなざい。もう勝てない。遠くの世界に行ってしまったのだから。風の噂で聞いた、今海外の著名な数学者の下で指導受けてるんだろ。そんな子、もうかてっこないよ。」
「そんなこと言わないで。来年こそは東大に合格するから。でもさすがに来年東大ダメだったら、他の大学に行くわ。でも打倒大谷、これは絶対に果たす。」
またしても哲雄は1年の浪人生活を送ることになってしまったのだ。
「でもなんで俺だけ、不合格なんだよ!!くそーいつも俺だけ!!」
「ちょっと哲雄!!」て哲雄は2階の自分の部屋に戻るないなや、またしても絶叫した。真澄が向かおうとするが・・・
「いや、もうあいつの好きなようにさせよう。今はそっとしておいてやれ。」守が真澄をなだめた。
「本当、どうしてうちの子だけ、いつもこんな目に・・・これも全部大谷君のせいだよね。」
「おいおいおい、お前が変な癇癪起こすなよ。」
「いや、癇癪起こしたくなるよ・・・せめて何か一矢でも・・・」
「そうだな・・・一矢でも二矢でもやりますか・・・」