「ここが家・・・本当にいいの」

 

「もちろん、親からも全力でサポートするようにって言われてるからね、類まれなる才能を潰すわけにいかないからね。」

 

あの世界一座談会から約4か月後の2月末、蒼は東京大学理科一類に無事、推薦で合格。そして問題の学費はなんと大谷トラストグループが新たに設立した給付型奨学金の奨学生という形で、大谷トラストグループが全面的に支払う形で解決したのだった。家族に相談した後、学費が払えないとわかった蒼は聡太に相談、親会社である大谷トラストグループが解決に動き、新たに類まれなる才能を持った高校生を対象に、給付型の奨学金制度を新設、その1期生として蒼が選ばれたのだった。大谷トラストグループがサポートしたのは学費だけではなかった。東京で住むための家も提供したのだった。大谷トラストグループが所有するマンションの一室。もちろんオートロック付きで、一番下の階であるが、大学生が住むには十二分に広すぎる場所だった。

 

そして実は、奨学金制度の1期生は蒼だけではなかった。

 

「お、蒼も来たんだ。」

 

「蒼も本当大変だったね。ウチもだけど。」

 

「蒼、これからよろしくね。」

 

「えっ、涼太君も翔吾君も八雲君もしかしてここ??」

 

「それにしても4人とも東大に無事入学することができて、本当よかった。」

 

「大谷君、ご家族の皆さん、本当にありがとう。この恩は一生忘れない。将来学者になって返せればと。」蒼は聡太に感謝の意を述べた。

 

「それにしてもひどい話だな・・・ふつうは無理してでも親が学費払うよね。俺からしたら父親がいるだけでも羨ましいのに・・・」そう言ったのは涼太。実は涼太の両親は、まだ涼太が幼稚園の頃に離婚して、以降は母親が保険会社のセールスマンとして働きながら、シングルマザーとして涼太を育てたのだ。そんな涼太は幼少の頃から理科、とりわけ化学の分野に強い興味を持つようになった。好きな化学物質はベンゼン。あのベンゼン環の美しさにひかれて、有機化学マニアというべき専門的な知識を持つようになったのだ。そして国際化学オリンピックで2年連続で金メダルを獲得、高校3年生時に総合得点世界一の栄誉を獲得したのだった。

 

「本当、蒼の気持ち痛いほどわかる。俺の父さんもそんな感じだし。」翔吾の父親は大学卒業後、就職したもののなかなかなじめずにすぐに退職、その後も職を転々としているとのことだった。その理由の一つが昔から数字に異常なまでにこだわる性格で、それが原因で、周りの人間とトラブルを起こして退職、というのを繰り返しているのだという。そんな父親を母親は離婚せずに健気に支え続けているのだ。そんな家庭の希望が翔吾だったのだ。その父親の性格が理科の才能という形で翔吾に受け継がれたのだ。早くから化学・生物学の才能に秀で、高校2年の時に国際化学オリンピックで銀メダルを獲得、そして高校3年時に国際生物学オリンピックで世界一の成績で金メダルを獲得したのだ。

 

「俺も地元の人や変わった目で見られたり、親戚の人からも頭が良すぎてよく思われなかったりしたけどね。両親はなんとか良い高校までいかせてくれたけど。」

八雲の実家は隠岐の島にあり、これま島で八雲のような天才はいなかったために、周囲から好奇の目で見られたり、八雲もなじめずにいたが、両親がそれならとレベルの高い学校に行かせようということになり、中学入試で岡山白陵高校に合格し、それ以降ずっと寮生活を送っていたのだ。そして幼少の頃に行った地元の鳥取砂丘の美しさにひかれ、地球科学の分野に興味を持つようになり、その過程で国際地学オリンピックに挑戦するようになり、高校3年の時に国際地学オリンピックで世界一の得点で金メダルを獲得したのだった。

 

そして今回、聡太との縁で4人は同じ都内の大学生にはあまりにも広すぎるマンションで新生活をスタートすることになった。これには大学卒業して大学院生からの研究者になることも視野に入れてのはからいなのだ。

 

「これから長い付き合いになると思うけど、よろしくね。」

 

こうして4人は紆余曲折ありながら、スタートラインに立ったのだった。