これはジブリ映画なのだろうか?
そこに込められたメッセージが、あまりに重くて、厳しくて・・
上映後、映画館を出た後もしばらく口をきくことが出来なかった。
これまでの子供にも好かれるファンタジーは鳴りを潜め
(とはいえ、全作観ているわけではないんだけど・・)
とても苦々しい後味の大人の物語。
宮崎監督の、これまでとは全く異なる、シビアな視線を感じました。
ジブリらしからぬ生々しいシーンもあったりね。
同時に監督が、この作品を最後にすると覚悟を持って作ったのだということが、ひしひしと伝わってきたように思います。
※部分部分、内容に触れます。ご注意ください。ネタバレはないと思います。
「美しい」ものをひたすら追求した、それしか目になかった二郎。
結果的にそれが何を招いたのかについて、彼がほんとうのところどう思っていたのかは、きっちりとは描かれません。
彼の生き方は、エゴイスティックと言えば、エゴイスティック。
でも、よくよく考えれば人間なんて皆、エゴイスティックな生き物なんですよね。
わたし個人のことで言えば、服やバッグを買うのは楽しいけれど、その行為が環境破壊などにつながっている部分も否定はできない。
でも、それが頭の片隅で分かっていても、買いたいという欲を、止めることはできないし
これからも経済事情の許す限り、わたしは買い物という行為を、止めることはないでしょう。
こういう天才的な人物と一緒くたに語ってはいけないかもしれませんが、
多かれ少なかれ人は、二律背反する現実や、理不尽さと隣り合わせで生きている。
それをまざまざと見せつけられた気がして、なんかすごくキツイな・・と思ったのと同時に切なくもなった。
そもそも、二郎がこうした夢を見られる時点で、とても恵まれた境遇にあるとも言えます。
これが生きるか死ぬか、明日をも知れぬ貧しい境遇に置かれた人間には、夢を見ることすら許されない。
作中、二郎が貧しい姉弟に対し、シベリアというお菓子を差し出し、拒否られるシーンがありますが、このシーンが象徴的でした。
人の人生は平等ではないという、ある種の矛盾がここにも感じられます。
それから、ヒロイン菜穂子の存在。
美しいものが好きな二郎に、美しいところだけ見せて、彼の元を去って行く彼女。
それはそれは健気で、これが宮崎監督の理想の女性像なのかしらん、と思ってしまいました。
二郎には二郎なりに彼女への思いがあったのでしょうが、結局のところやっぱり彼は彼女に対しても、エゴイスティックだったように思えてなりません。
菜穂子の一途さに、心動かされなかったわけではない。でも
二人の姿を、これぞ純愛という風にみることは、わたしにはできないな・・
と、ここまでがわたしの当初の感想なんですが、
いくつか、これは監督の素直な欲望をむき出しにした作品である、というような事を言っているレビューを読みました。
天才のためにはある程度凡庸な人間がその犠牲になるのはやむなし、という監督の本音が
描かれた作品である、と。
なるほどそういう視点で見ると、この作品、そんな風にも思えるんですよね。
作品の中で「ピラミッドのある世界とない世界、どっちがいいと思う?」
といったようなセリフがあるんですが、それが象徴的なセリフであると。
で、先週のリーガルハイが、たまたまこれは明らかに宮崎監督だよな、っていう人物に関する
訴訟についてだったのですが、それを見ていて、これらのレビューのことを、思い出してしまったのです。
リーガルハイの中でもピラミッドの例えが出てきたの、偶然なんでしょうか。
リーガルハイ、面白いです。
初回はまあまあかな、と思ったけど、徐々にはまりました。
ちょうど夕方に1の再放送もやっていて、録画してハチサンと同時進行で観ました。
堺雅人はこの作品について、「なんの含蓄もないドラマ」
と言っていたけど、本当にそうなのかな。
様々な社会現象をおもしろ可笑しくパロディ化してて、いろんな人物や有名作品のオマージュが
あちこちに仕掛けられていて、おもろいんだけど、
同時に結構痛烈な社会批判も垣間見えるような。
今日も楽しみ♪
最後はリーガルハイの話になってしまったが
映画の話に戻して。
ユーミンの歌がまた良かったです。歌詞と言い、この作品にマッチしすぎ。
このBGMで迎えるラストは、なにはどうあれやはりとてもグッときます。
それにしても感想書くのにだいぶ時間が経ってしまった。
他にもいくつか観たまま放置してます。年内中にはアップしないとな。
風立ちぬ
監督:宮崎駿
声の出演:庵野秀明、瀧本美織 他