アロハ
父が心臓発作で倒れ、
意識不明だと電話があったのは、
爺とまさかの再婚して3年たった頃。
17年前。
この頃は、超極貧生活で、
チケット買う余裕なぞなかったが、
何とか必死でお金をかき集め、
娘と2人、急遽帰国した。
心臓発作 ? 意識不明 ? そんなわけない。
あんなに元気だったのに。
まだ74才じゃん。
豪快に笑う父の顔が浮かぶ。
空港から病院に直行した。
3年ぶりに会う父が
ベットに横たわっている。
お父さん、帰ったよ!!帰ってきたよ!!
と、叫ぶと、うっすら目を開けた。
何か言いたそうに口を開いたが
言葉にはならない。
ちょっと待って.....
これって、ドラマでよく見るシーンじゃん。
こんな事、現実にあるわけないし、
自分の身に起こるはずはない。
自分の親はずっと元気でいて、
何があっても、いつ帰っても
自分たちを待っててくれる、守ってくれる、
そうでしょう?そうだよね?と、
心のなかで叫ぶ。
受け入れ難い目の前の現実に、
胸が痛くなる。
3週間の滞在中、
母と娘とずっと病院に寝泊まりし、
手を握り、足をマッサージし、
声をかけ続けた。
回復する兆しもみられない毎日に、
家族は落ち込み、疲れ憔悴していった。
ある日、振り袖が着たいと、娘が言った。
成人式だし、振り袖着て
おじいちゃんに見せる!と。
おぉ❗
そう言えば二十歳になったこと、
すっかり忘れてた、、、。
こんな時に振り袖って、そんな気分にも
ならず、乗り気じゃなかった婆に、
どうしても着る。
着ておじいちゃんに見せたいと、
娘は譲らなかった。
さっそく着物をレンタルし、
髪の毛もセットしてもらった。
サーフィンで焼けた黒い肌に、
赤い振り袖がよく似合ってた。
おじいちゃん!おじいちゃん!
20才になったよ !振り袖着たよ、見て~!!
この頃には、
もうほとんど反応しなくなってた父が、
娘の呼び掛けに、突然目を見開いた。
大きく目を開けて、じっと娘を見ていた。
その目には、うっすら涙が滲み、
少し笑ったようにも見えた。
ずっとどんよりとして、暗かった病室が、
娘の赤い振り袖で明るくなり、
家族で久しぶりに笑った。
笑って、また泣いた。
続く。