[ハワイ)#82 帰国。 意識不明の父に見せた赤い振り袖姿。 | 婆様のハワイ日記

婆様のハワイ日記

ハワイの片隅で生きるアメリカ人爺夫と日本人婆妻の老夫婦デコボコ日記です。

アロハ



父が心臓発作で倒れ、

意識不明だと電話があったのは、

爺とまさかの再婚して3年たった頃。

17年前。

この頃は、超極貧生活で、

チケット買う余裕なぞなかったが、

何とか必死でお金をかき集め、

娘と2人、急遽帰国した。

心臓発作 ? 意識不明 ? そんなわけない。

あんなに元気だったのに。

まだ74才じゃん。

豪快に笑う父の顔が浮かぶ。

空港から病院に直行した。

3年ぶりに会う父が

ベットに横たわっている。

お父さん、帰ったよ!!帰ってきたよ!!

と、叫ぶと、うっすら目を開けた。

何か言いたそうに口を開いたが

言葉にはならない。

ちょっと待って.....

これって、ドラマでよく見るシーンじゃん。

こんな事、現実にあるわけないし、

自分の身に起こるはずはない。

自分の親はずっと元気でいて、

何があっても、いつ帰っても

自分たちを待っててくれる、守ってくれる、

そうでしょう?そうだよね?と、

心のなかで叫ぶ。



受け入れ難い目の前の現実に、

胸が痛くなる。





3週間の滞在中、

母と娘とずっと病院に寝泊まりし、

手を握り、足をマッサージし、

声をかけ続けた。

回復する兆しもみられない毎日に、

家族は落ち込み、疲れ憔悴していった。




ある日、振り袖が着たいと、娘が言った。

成人式だし、振り袖着て

おじいちゃんに見せる!と。

おぉ❗

そう言えば二十歳になったこと、

すっかり忘れてた、、、。

こんな時に振り袖って、そんな気分にも

ならず、乗り気じゃなかった婆に、

どうしても着る。

着ておじいちゃんに見せたいと、

娘は譲らなかった。


さっそく着物をレンタルし、

髪の毛もセットしてもらった。

サーフィンで焼けた黒い肌に、

赤い振り袖がよく似合ってた。

おじいちゃん!おじいちゃん!

20才になったよ !振り袖着たよ、見て~!!

この頃には、

もうほとんど反応しなくなってた父が、

娘の呼び掛けに、突然目を見開いた。

大きく目を開けて、じっと娘を見ていた。

その目には、うっすら涙が滲み、

少し笑ったようにも見えた。

ずっとどんよりとして、暗かった病室が、

娘の赤い振り袖で明るくなり、

家族で久しぶりに笑った。

笑って、また泣いた。

続く。

(昨日のサンセット)