サズは トルコの楽器? | あぶくさぶく

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トルコ語あれこれ

サズは トルコを代表する楽器ですが、世界的には long-necked lutes と呼ばれる楽器群に属し、日本の三味線、三線の遠い親戚です. short-necked lutes の楽器群には、ウード、リュートなどがあり、琵琶も このグループに 属します. ちなみに、「リュート」という名前は アラビアの楽器 ウードの定冠詞 al をつけられた形 al ud から変化したんだとか.

サズの起源については ネットで調べても いろいろですね. 中央アジアの Kopuz という楽器が 元祖という説、ペルシャから来たという説、いやいや 古代バビロンやシュメールに 似たような楽器があったという説・・・など. 「サズ」という言葉自体は ペルシャ語から来ているらしいのですが、その意味は「組、セット」とか「楽器」とか、これにも いくつか説があるようです.

大本が どこにあるにせよ、直接的には トルコ人の祖先が 千年以上前から 使っていた Kopuz という楽器から 発展したという話が どうやら 本命っぽいですね. 以前は 皮張りだったようですが、アナトリアに入って 金属弦が使用されるようになったため ボディも木製のものに 強化されたそうです. 現在、ボディ(Tekne)の作り方には 2種類あります. 太い木(桑、栗の木など)を 刳りぬいたもの(Oyma)と 薄い板を 張り合わせたもの(Yapraklı)です. 恐らく、刳りぬきの方が 古いんだろうと 思いますが、材料が希少であることなどから、今は 張り合わせが 主流です. 張り合わせには、多彩な木材が使える、複数の木材を 組み合わせて使えるなどのメリットがあり、質が 刳りぬきに劣るというわけでは ありません.

サズには、小さいものから 大きいものまで種類があり、人によって 分類の仕方に違いはありますが、大筋 こんな感じです.(小さいものから 大きいものへ)Cura, Üçtelli saz, Çöğür saz, Tambura, Bağlama, Bozuk saz, Meydan sazı, Aşık sazı, Divan sazı, Bas sazı
弦の数も いろいろですが、一番ポピュラーなサズである bağlama では、6本か 7本の弦が張られることが多いです. 7本の場合、低音から高音へ 2本、2本、3本のセットで 調弦され、セット内の弦は 基本的に同じ音に調弦されます(一部 オクターブ低). マンドリンや 12弦ギターなんかと同じです. こういうのを複弦といいます. ですので 結局 サズは 複弦構成の 3弦楽器であるとも言えます. 要するに <トルコ三味線>です. 小型のサズでは 単弦構成の 3弦、つまり 文字通りの<トルコ三味線>もあるようです.

Bozuk saz は ギリシャに渡って ギリシャの国民楽器 Buzuki になったとされています. トルコの楽器サズから ギリシャの楽器ブズーキへの変化の中で 一番 大きいのは フレットです. サズのフレットは ナイロンの糸をネックに巻いて作る巻きフレットですが、ブズーキのフレットは ギター同様の固定フレットです. もう一つの大きな違いは フレットの数と位置です. ブズーキは ギターと同じく 半音ごとに フレットが あるわけですが、サズには それに加えて ミファ、シドの半音部分を除き、本来の音と♭(♯)音の間に 中間音が 入ります. これを 微分音といいます. トルコ音楽には 微分音があるのに、ギリシャ音楽には 基本的に微分音がない・・・というのが 両者の大きな相違です. もっとも トルコでも ギターなど西洋楽器が サズより 人気があるぐらいですので、トルコ人も 微分音のない音楽に 違和感は 持っていないようです.
また ギリシャにも、マイナーでは ありますが、サズが あって タンポウラスなどと 呼ばれるようです. この場合には 当然 微分音が 使われると思います.

この微分音、1音を 9分割した単位である koma が 基礎になっています. ただ、サズでは 一音の中で 微分音は 1つしか 使われません. タンブールという楽器には たくさんの微分音フレットが びっしり 巻かれていますが、サズでは こういうことは ありません.

サズの調弦には いろいろ種類があります. 代表的な調弦である Kara Düzen(Bozuk Düzen)では、低音側から ソレラ、Bağlama Düzeni では ラソレとなります. 個々の弦を 示せば 以下のようになります(7弦、kara düzen の場合).
低音側から 示しています(-をつけたものは オクターブ低く調弦され、通常巻き弦です).
G-
G
B
B
A-
A
A
ただし、サズは 必ずしも 西洋楽器のように 絶対音(A:440Hz など)に 調弦されません. 人にもよりますが、歌う人の声に合わせるという場合も 多いです. ここでは <絶対音感>は たいした意味がありません. <絶対音感>を 持った人は 音に 色がついて見えるそうですが、微分音は どう<見える>んでしょうか、興味があります.

bağlama には ロングネック(uzun sap bağlama)のものと ショートネック(kısa sap bağlama)のものがあり、フレットの数が違います. 演奏法にも違いがあるようです. フレットの数は ロングネックで 23個、ショートネックで 19個前後です. サズでは 微分音のフレットを 一部 省略する場合があり、フレット数は 場合によって異なります.

サズが <トルコ人の楽器>であることは 疑いないことなんですが、街で聞くと「サズは トルコ人の楽器じゃない、あれは クルド人の楽器だ」なんていう人がいます. サズが 政治的ニュアンスを持って 演奏されたり、特定のグループに 愛好されることがあり、そのため 一部のトルコ人には 政治的な、あるいは 守旧的な楽器と 受け取られているのです. アメリカで カントリー音楽が 南部保守層の音楽と 受け取られて これを嫌うアメリカ人がいるのと 似ています. 日本で 今のところ、こういう現象が 見られないのは しあわせなことです.

参考リンク
http://forum.memurlar.net/konu/840328/
http://en.wikipedia.org/wiki/Saz_%28musical_instrument%29
http://www.turkuler.com/baglama/tarih1.asp

ギリシャのサズ、タンポウラス
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ギリシャの国民楽器 ブズーキ
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