日本語では、トルコ共和国で話されている 狭義のトルコ語が <トルコ語>と 呼ばれる一方、ウイグル語、ウズベク語、アゼリー語(アゼルバイジャン語)など 狭義のトルコ語と類縁関係にある 広義のトルコ語は <テュルク諸語>と 呼ばれて 一応 使い分けられますし、英語でも Turkish language、Turkic languages と 使い分けられるようです. ところが、私の知る限りでは トルコ語には そういう区別はないようなんですね、どうも. じゃ、<テュルク諸語>を どう呼ぶのかというと <トルコ語>です :D.
狭義のトルコ語以外の<トルコ語>を 区別する必要があるときは それらの<トルコ語>は 方言(lehçe)と 呼ばれます. ただし、トルコ共和国内の方言(ルメリ方言、アンカラ方言など)と どう区別するのか よく知りません. lehçe という言葉のほかに もっと 小さなグループを指す şive という言葉もあるようですが、ルメリ方言、アンカラ方言などについては 多分 şive でなく、lehçe だと思います.(さらに言えば、Lehçe と 大文字で書けば ポーランド語の意味になるので ややこしい.)
ただ、皆トルコ語とは言っても、カザフ語、キルギス語は トルコ語のうちに入らないという意見の人もいました. 私が聞いても、アゼリー語、ウズベク語、ウイグル語などは トルコ系の言語であることが 響きというか イントネーションで 感じられますが、カザフ語などでは そういう近さが あまり感じられません.
一方、アゼリー語は トルコ語に近い言語として よく知られています. 70%~80% 理解できるといいう人もいます. 私でも ところどころ わかりますから 近さのほどが知れます. また、アゼルバイジャン人や イラン国内のアゼリー人は トルコ語を 上手に話します. アゼリー語特有の発音と言い回しの癖は あるようですが. 余談になりますが、イランの総人口の 1/4 ないし 1/3 は トルコ系の民族であるアゼリー人だと 言われています.
もともと、ある言語を 独立の言語とするか より大きな言語の方言とするかは、言語学だけでなく 政治なんかも 絡む話ですが、トルコ語とアゼリー語は 日本語の共通語と沖縄方言よりは はるかに近い、いや 昨今のように 方言が共通語化する以前の時代なら 津軽弁や薩摩弁は 言うに及ばず、大阪弁や博多弁と共通語の距離より近いとすら 感じられます. アゼリー語の場合は 本当に トルコ語の lehçe (方言)という感じです.
アゼリー語で、よく引き合いに出されるジョークに 以下のようなものがあります. トルコ語では 飛行機が降下する・・・というとき inmek という動詞を使いますが、アゼリー語では düşmek という動詞を使うらしいです. ちなみに düşmek は トルコ語では <落ちる>という意味です.
Sayın yolcularımız, uçağımız inmeye başladı. 「ご乗客の皆様、当機は 降下を開始いたしました.」というところを アゼリー語のように düşmek を 使うと・・・
Sayın yolcularımız, uçağımız düşmeye başladı. 「ご乗客の皆様、当機は 墜落を開始いたしました.」ということに なってしまいます(例文は いずれもトルコ語).
トルコ語では ズボンのことは pantalon と 言いますが、アゼリー語では şalvar というらしいです. トルコ語で şalvar と言えば、伝統的な モンペのような だぶだぶのズボンのことですね. 「星の王子様」のトルコの天文学者の話を 思い出します.
Bu buluşunu hemen Uluslararası Gökbilimi Toplantısında büyük bir heyecanla sunmuş, ama adamcağız şalvar, cepken ve fes giyiyor diye onun söylediklerine hiç kimse değer vermemiş. Büyükler böyle işte. (Küçük Prens, çevrimen Fatih Erdoğan)
トルコ語とアゼリー語については こんな食い違いの笑い話が 他にも まだまだ あるようです.
ここに書いたのは ウイグル語を別として 独立国家の公用語となっているような ある程度大きな言語についてですが、中国から東欧に至る広い範囲で 少数民族の言語として 存在している テュルク諸語も たくさんあります. 中国のサラール族の言語、サラール語は 狭義のトルコ語と 同じグループに属すらしく、ある程度の意思疎通も可能とか.
反対に 東欧モルドヴァに住む ガガウズ人は トルコ系の民族でありながらキリスト教徒(正教徒)なんですが、ガガウズ語も 狭義のトルコ語と 同じグループに 属すようです.
それぞれ いろんな歴史が あったんでしょうね.
いずれにしても、<トルコ語>という言葉、日本人がイメージする 狭義のトルコ語と トルコ人がイメージする広義のトルコ語は だいぶ 違っているであろうことが 察せられますね.
Wikipedia - Turkic Languages
Wikipedia - テュルク諸語
猫とおじさん
