幼児期のお子さんで、幼稚園や保育園の先生から「最近話をしていても視線が合いずらいんです」と言われたり、家で「名前を呼んでも目を合わすことが少なくなった」と感じたりして、不安を感じておられるお母さん、お父さんもたくさんおられるのではないでしょうか。

 

よくインターネットや本などで、自閉症の特徴として「視線が合わない」と言われていることが多いですね。今回はそれは全く関係がない、という説明です。

 

自閉症については、1970年代からイギリスを中心に認知心理学の人たちが、その原因について研究を盛んに行っていて、その中で1990年代にイギリスのウタ・フリスという女性の認知心理学者が「自閉症の謎を解き明かす」という本を出されました。そこでは、自閉症の原因について、次のように述べています。

 

「人間は脳に視覚や聴覚、嗅覚、触覚などのいろいろな感覚からいろいろな情報が入ってきて、それを一瞬のうちに統合して処理し、意味ある情報にして、それを基に人と話をしたりコミュニケーションをしたりしている。自閉症の人たちは、それぞれの感覚からは正常に情報を入力しているが、最後のそれらを統合して意味ある情報として処理する機能のところに障害があるのではないか。」

 

療育教室 楽しい広場の「発達療育」でも、この理論を基本にしています。では、この理論と「視線が合わない」との関連です。この理論から言いますと、自閉症の人でも視線は合います。私もこれまで、人とのかかわり方やコミュニケーションの仕方から、多分自閉症であろうと思われた中学生と高校生の二人にお会いしたことがありますが、二人とも視線はきちんと合いました。では、何が問題かと言いますと、自閉症の人は「アイコンタクトができない」ということです。言い換えますと「目でコミュニケーションができない」ということです。

 

具体的に言いますと、例えば「目くばせの意味が分からない」あるいは「お母さんは顔は笑っているけれど目は笑っていない、という意味が分からない」ということです。つまり、言葉では言わないけれど、目や表情や動作、しぐさ、雰囲気などの各感覚からの情報を一瞬にして統合し、その意味を読み取るということが障害のために難しい、ということです。療育教室 楽しい広場では、常々「視線が合わないのは自閉症の特徴である」と広く流布されているこの説を「自閉症の迷信の一つである」と説明しています。理由は上記の通りです。