たんぽぽの夢・1 | 孤独な音楽家の夢想

たんぽぽの夢・1

■「第38回 足唱コンサート」市民プラザ音楽祭2024

〜あなたに捧ぐ、歌の花を。〜

【日時】2024年6月9日(日)開演15:00

【会場】あしかがフラワーパークプラザ(足利市民プラザ)文化ホール

【チケット】500円(全席自由)

【問い合わせ】あしかがフラワーパークプラザ 0284-72-8511

 

【曲目】

●第一部

オルフ:カンタータ《カルミナ・ブラーナ》より 第1部「初春に」 1. PRIMO VERE

 〈春の愉しい面ざしが〉 Veris leta facies 

 〈万物を太陽は整えおさめる〉(独唱) Omnia sol temperat

 〈見よ、今は楽しい〉 Ecce gratum 

木下牧子:合唱曲集《地平線のかなたへ》より

 〈春に〉 詩:谷川俊太郎

クレマン・ジャヌカン:

 シャンソン〈美しいこの五月に〉 A ce joli mois

小林秀雄:合唱曲集《落葉松》より

 〈あなたと わたしと 花たちと〉 詩:峯陽

ドビュッシー:歌曲集《艶なる宴Ⅰ》より

 〈ひそやかに〉(独唱) En sourdine  詩:ヴェルレーヌ

クレマン・ジャヌカン:

 シャンソン〈鳥の歌〉 Le Chant des Oiseaux

村井邦彦:〈翼をください〉(編曲:黒田賢一) 詩:山上路夫

初谷敬史:〈楽譜を開けば〉 詩:加藤春貴

 

●第二部

J.S.バッハ:教会カンタータ《深き淵の底より、われ汝に呼ばわる》BWV38より

 6.〈コラール〉(日本語訳:初谷敬史)

 

新実徳英:合唱組曲《花に寄せて》 詩:星野富弘

 1.〈たんぽぽ〉

 2.〈ねこじゃらし〉

 3.〈しおん〉

 4.〈つばき・やぶかんぞう・あさがお〉

 5.〈てっせん・どくだみ〉

 6.〈みょうが〉

 7.〈ばら・きく・なずな〉——母に捧ぐ——

 

【出演】

合唱:足利市民合唱団

ピアノ:田部井美和子

指揮・独唱:初谷敬史

 

 

 ***

 

「たんぽぽの夢」(プログラム・ノートより)

 

 詩画作家・星野富弘さんの小さな作品たちのように、本日は、小さな歌たちを花と共に、わたしの好きな「あなた」に捧げたいと思います。一生懸命で、そして温かな、わたしたちの歌を・・・。それが「あなた」に希望をもたらしてくれるように、と願いながら。・・・そう、このコンサートは、ひとつの大きな願いなのです。

 

 プログラムは、合唱組曲《花に寄せて》の第1曲〈たんぽぽ〉から発想を得て組んだものです。

 「たんぽぽ」は、不思議な生命力を持った植物です。他の植物が生きていくことのできないような過酷な場所に咲いていることがあります。わずかな隙間から地中に深く根を張って、土やコンクリートの上に葉っぱを広げます。当然、そこから動くことはできません。その代わり、太陽に向かって懸命に茎を伸ばし、やがて太陽と同じ色の花を咲かせます。・・・しかし、ここで驚くことが起こります。花を咲き終えると、それが「綿毛」へと変えられるのです。この劇的な変化が起こることを、「たんぽぽ」はずっと夢見ているのです・・・。根の生えた場所から動くことのできなかった「たんぽぽ」が、風という神秘の力を借りて大空に舞い上がり、どこか遠くの世界へと飛んでいくことができるのです。大切なものをひとつだけ持って・・・。

 ・・・ここで浮かび上がってくるテーマは、不可能を可能とするような異次元的な「移行」です。そこには、何か特別な力が働かなければなりません。「不自由」から「自由」へ、「絶望」から「歓喜」へ、「冬」から「春」へ、「此岸」から「彼岸」へ・・・。

 この「たんぽぽ」の「綿毛」に象徴される神秘の「移行」を、わたしたちは次の言葉からスタートさせたいと考えています。

 

 「深い淵の底から、主よ、あなたを呼びます。主よ、この声を聞き取ってください。嘆き祈るわたしの声に耳を傾けてください。」(『詩篇』130章1-2節)

 

 これは、星野富弘さんが、ご自身の壮絶な体験の中で見出された聖書の言葉です。そして、この言葉に対応する言葉、即ち答えを、更に聖書の中から見出されました。

 

 「疲れた者、重荷を負う者は、だれでもわたしのもとに来なさい。休ませてあげよう。」(『マタイによる福音書』11章28節)

 

 これが、星野富弘さんの救いとなる「たんぽぽの夢」なのでしょう。不自由な身体を超えて、今、星野さんの魂は「綿毛」に乗って自由となり、「信仰」というただひとつの大切なものを持って、イエス・キリストのもとへ旅立っているのです。・・・このことは、少なからず、わたしたちに勇気や希望を与えてくれるものとなるでしょう。

 

 このコンサートを通じて、わたしたちは、この苦しい現在を、どのように生き抜くのかを考えるきっかけとなるのではないか・・・と考えています。そして何よりも、わたしの好きな「あなた」に、この「たんぽぽ」の「綿毛」の神秘を伝えたいのです。春を待つ「たんぽぽ」の気持ち。憧れ、そして夢・・・。

 

 

・・・つづく・・・

 

by.初谷敬史