こういう基本があって、

大人の症状に繋がる、知ればやたら怯える事もなく対策できるADHDについてです。

 

 

ADHDは、現時点の医学では、脳の機能的な発達の問題と考えられている。

馬車に喩えれば、馬と御者はいるが、両者を結ぶ手綱がつながっていなかったり、御者の手綱さばきが未熟で、おまけに居眠りばかりしていたりという状況に似ているだろう。御者のいない馬は、ニンジンを見れば横道にそれ、そっちの方に突っ走ってしまうのである。

 

もっと年齢が上がって、大脳皮質と下位の脳を結び合うネットワークが完成してくると、

御者の手綱さばきもしっかりしてきて、一貫した行動を、道草を食ったりせずに行えるようになる。

したがって、脳の発達という要素が大きいのである。その時期をなんとか乗り切れば、段々落ち着いてきて、大部分は自然に収まってしまうのである。

しかし、

実際に問題が深刻なケースでは、脳の問題だけというより、むしろ、心の問題がからんでいる。

 

そして、心の問題とは、子どもの場合、その子が置かれている環境や愛情の問題を映し出したものである。

例えば、サン・テグジュペリ少年のケースで見ても、彼の問題行動を強める要因が、養育や教育の環境にあったことがわかる。

サン・テグジュペリの父親は、戦争で早く亡くなり、母親は父親の忘れ形見でもあるサン・テグジュペリ少年に、すべての愛情を注ぎ込んで大切に育てた。周囲の目には、それがとても「甘やかしている」ように見えたという。父親のいない分の愛情を補おうとして、つい行き過ぎるということは起こりがちなことだ。それをいいことに、サン・テグジュペリ少年は、どんどんわがままをエスカレートさせる。

自分には父親がいないということに気付くにつれ、サン・テグジュペリ少年の心に微妙なねじれを生じ、余計反抗的で乱暴になった面もあったようだ。

 

そんなサン・テグジュペリ少年が通うことになったのは、規則の厳しい修道会付属の学校で、その学校で過ごした時期は、彼にとって人生最悪の体験となった。当然、彼はトラブルを起こし、押さえつけようとする教師に反発して、事態はこじれる一方だった。

 

状況が好転したのは、少年の望みを受け容れて、母親がサン・テグジュペリ少年を、まだ新設されたばかりの、

もっと自由な空気の学校に転校させてからだった。彼はそこで、導き手となる教師に出会い、生活も落ち着くと同時に、文学にも目覚めて、詩や短編小説を書くようになる。

 

「トットちゃん」の場合も、お母さんが、問題の所在が本人よりも、むしろ環境との不適応にあることを見抜いて、素早く的確な対応をとったから、問題をこじらせることなく、本来の長所を伸ばすことにもつながったのである。

 

●しかし、現実のケースでは、しばしばあべこべの対応がなされることも多いのである。次の事例は、陥りやすい間違った対応がとられてしまったケースである。

●問題がどんどん悪化するケースでは、発達上の問題と愛情や養育、教育現場の問題がからまりあっていることが多い。

本人の抱えている問題の正しい理解がまず必要である。

 

その場合、ただ発達の障害として取り扱うことは、片手落ちになる。むしろ、背後にある環境面の問題が改善されると、子どもは劇的に落ち着くのである。

 

 

恵まれた家庭に多いパターン

落ち着きのない子が、どんどん問題を膨らませるというケースは、一見もっと恵まれた家庭においてもみられる。そうしたケースも、少し踏み込んでみると、子どもの気持ちがないがしろにされている状況が明らかになってくる。

 

坂道を転がり落ちないために

ADHDだけがあっても、ほどよい厳しさと十分な愛情でもって、本人を大切に見守っていけば、大抵はいい方向に落ち着いていくものである。いろいろだが、ある時期がくると別人のように成長していく。

 

ところが、変な方向にこじれてしまうケースは、必ず愛情や養育に歪みを抱えている。

 

もっとも典型的なのは、この二つのケースでもみたように、愛情不足や押さえつけ虐待がある場合と、過保護や甘やかし、過大な期待がある場合である。

 

ADHDの子どもの一部は、親や大人に対して反抗的な態度をくり返す「反抗・挑戦性障害」(ODD)に移行すると言われる。さらに、その一部は、非行を繰り返す「行為障害」(CD)に移行する。

このように「破壊性行動障害」(DBD)が悪い方に進行することを、「DBDマーチ」と呼ぶが、将来そうした事態にならないためにも、愛情と厳しさの両方を忘れずに、子どもに接することが大切である。(非行については、後の章を参照)

 

 

 

 

 

 A 本人への接し方

① 本人を受け止め、悪循環を断つ

 トラブルを頻発させることで、周囲から否定的に扱われ、どんどん劣等感や対人不信感を募らせるという負のスパイラルに陥っている。また、このタイプの子では言語化して自分の気持ちを言う能力が乏しい。そのため、行動で周囲を振り回すことにもなりやすいのである。まず、本人の特性を理解し、その気持ちを受け留め、自分をわかってもらえている、認めてもらえるという安心感を回復することが第一である。

② 本人に考えさせる

 このタイプの子の場合、叱りすぎに陥りやすい、むしろ、少しでも頑張ったことを認め、褒めることを増やすこと重要だ。ただし、、いけないことはしっかりと叱れることも大事だ。メリハリのある対応が求められる。叱る場合、感情的になったり、体罰を与えて思い通りにさせようとするのではなく、本人に何がいけないのかを考えさせ、語らせるようにするのが成長を促しやすい。子どもだけの問題とするのではなく、親やかかわる大人の問題としても受け留め、ともに悩み、ときには一緒に悲しむことが、本人に気持ちを切り替えさせるきっかけとなる。

 成長したい思いを引き出す。

 自分に対して自信をなくし、周囲を困らせる方向で自分を示すようになるのは、非常に痛ましいことである。だが、そうした子も、本当はもっと前向きな形で自分を発揮したいのである。その子が望むことを試みてみたり、その子の得意なことを伸ばすことで、状況が変わることは多い。その子の成長したい思いを引き出すことで、大きな変化が生まれるのである。

B 薬物療法

 知能や脳波に問題がなく、生活や学習面での支障が大きい場合には、薬物療法の対象になるが、

その傾向が認められるという程度で、きちんとした発達検査も行なわず、

問診やチェックリストの検査だけで、薬物の投与が行われるケースが急増している。

 

明らかに過剰診断や誤診のケースも、多く経験している。

成長に影響したり、依存性の問題もあり、長期間に服用が及ぶことが多いので、慎重な判断が必要だろう。
 むしろ予後を左右していたのは、家庭環境や本人にあっ道に進めたかといったことであった。家庭環境や両親の夫婦関係に問題がある場合には、一時的に改善しても、一年後以降急激に崩れてしまう傾向がみられている。
 

薬で症状を抑えていても、その効果はいつまでも得られるものではなく、その間に、本人へのかかわり方や本人に適した居場所を作れるかどうかにかかっているということを心得ておいたほうがよいだろう。
 

C 周囲の理解と環境調整

 家庭や学校で居場所がなくなっている場合、本人の問題を説明し、周囲に理解をもってもらうことが非常に重要である。

自分が受け留められていると思うだけで、方向が変わりやすい。

 

岡田尊司『子どもの心の病を知る』より