その昔、男好きな奥様がおりました。
美佐子と云う。
初婚は離婚、半年後に子を引き連れ新たな男と同棲を開始。
永く続くもその男性は美佐子の嫉妬心と金の亡者ぷりに辟易とし、三下り半をつきつけその家を飛び出して行きました。
困った美佐子は次なる男を見定めていきます。
ど・れ・に・し・よ・う・か・な
見つけました。電気屋社長の後を継ぐは、硝子屋社長の息子です。さほど整った顔つきではありませんでしたが、頭上にきらり光る禿でありました。
シュッとした顔を好んでいた美佐子でしたが、そうも云ってはいられない年齢になってきたのでしょう。
まずは、金。
美佐子の実際を知らない硝子屋の息子は、美佐子にどんどんのめり込んで行きました。
また美佐子も裕福であろう硝子屋の息子の金にどんどん惹かれ、一年という月日が流れました。
なんとなし、硝子屋の息子はこの人ならいいかもしれない、と結婚を申し込んだのであります。
美佐子もまた、硝子屋の息子の申込みに快諾しました。
これで片手団扇だと。
数日後美佐子は25も過ぎた我が子に、硝子屋のまぁくんと結婚しようかと思うの、と恥ずかしげもなく報告をしました。
美佐子の子はどうぞどうぞ、お好きなようにしなさって下さいましと母美佐子に伝えたのでありました。
そうしたところ、なにやらまぁくんがこの後あんたを誘って蕎麦を食べに行こうと云っているから来て欲しい、と美佐子が子に云うのです。飯くらいならば構いませんがと美佐子の子は返事を返します。
結婚報告の場所は、美佐子の自宅の居間でした。ちょいと昔には美佐子の子も寝食していた場所でもあります。
美佐子はひとしきり報告が終わると、ちょっと薬局まで買い物に行くから留守番を頼むねと我が子に伝え、ひょいと出て行きました。
美佐子の子は数年前までこの部屋で寝食していたものだから、押し入れに確かアレあったよな、来たついでにアレ持ち帰りましょうと急に思い立ち、しゅっと押し入れの引戸を開けたところ、
ドサドサドサ
思いもよらぬ大量の写真が落ちてきました。
美佐子の子は「あぁあ、片付けるの面倒だな」と思いつつ、辺りに散らかった写真を拾い集めようとしましたが、手に取ればしぜん写真を見てしまう訳で、プライベートは見ないようにと思っていた美佐子の子でしたが、手に取った写真と辺り散らかった写真を美佐子の子は何度も何度も見直してしまいました。
手に取った写真は、濡れ髪振り乱した美佐子がお口に何かを咥えています。ナニを咥えた美佐子の額前には硝子屋息子と思わしき少々皺寄った腹も写っております。辺り散らかっている写真はどうかというと、美佐子と硝子屋息子のムスコと、時に笑顔で・時に切ない表情を浮かべているではありませんか。
硝子屋の息子とムスコ、美佐子。
美佐子の子は冷や汗の垂れること凄まじく、これは、これは早々にまとめて元にあった場所に戻さなくては、と我が身震わせながら今見たものは無かった事にするという使命に駆られたのです。
前戯からフィニッシュまでの順番を揃える余裕も無いまま、冷や汗の拭うも忘れ、美佐子の子は懸命に写真を拾い集めました。
ようやっと、まとまりましたので写真をしまいましょうと押入れに手を掛けたところ
ドサッ
うぃんうぃんうぃん ブブブブブ
・・・しぜんそちらに眼が行きます。
脂汗たらたらと流れ落ちるは凄まじく、口をあんぐり開けておりました。
目下にある2体の怪しい生き物は、不自然な音を鳴らしながら一昔前に流行した、ダンシングフラワーの如く激しく踊っているのです。
一つはピンクのウズラの卵、一つは棒形状の、少々頭をもたげたゴム製でサイドにはちょっと小さなカモノハシがあつらえてありました。
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
美佐子の子はもうそれしか言葉を発する事ができません。
これは、これは、これはもう早いところ片付けてしまわねば。そう思った美佐子の子は、先程まとめた写真を数枚取り出し、それでウズラとカモノハシを挟み込み、ベッド横のティッシュでくるみました。
写真、ウズラ、カモノハシ、ティッシュ。
前戯、合体、ピーク、フィニッシュと全てをコンプリートした美佐子の子は、思い出よ永遠なれとそれらを円盤投げしました。
数分後、何も知らない美佐子が帰宅し、美佐子の子は「お前薬局で一体ナニ買ってきたんだよ」と聞きたい気持ちを堪え、吐き気も堪えてこう云いました。
本日はとても鴨南そばを食す気にはなれません。
大変恐縮ですが延期でお願いいたします。
数ヵ月後、美佐子は硝子屋の息子に「親の介護をするのはイヤ」と云い、結婚を蹴りました。