熱帯性恋気圧-小説篇- -3ページ目

#003 恋に落ちた瞬間

喫茶店で、ぼくたちはいろいろな話をした。

彼が4年つき合った男と2ヶ月前に別れたこと。

ダイビングやスノボが好きで、水泳もしていること。

でも、映画も良く観に行くらしい。

女ともデキるから、結婚を考えたこともあるとか。

年齢はぼくよりも13歳年下で。

恋をするなら、追いかけるよりも追いかけられた方が安心するとか。

スロースターターで、ひと目惚れはまずないとか。

ぼくも彼に自分のことを話す。

前の彼のこととか。

自分の仕事の内容とか。

恋愛観とか。

目の前に座っている彼があまりにもかっこ良いから、ぼくは何度も「かっこいいよね」を連発する。

すると彼は、「そんなことないよ、自分だってかっこいいじゃないですか」と照れながら言う。

「なんで、お互いに褒め合ってるんだよ!」

とぼくは笑った。

最初ぼくを見たとき、頼りがいがありそうに見えたと彼は言った。そんなこと言われるのは初めてだったから、ちょっと意外だった。

ぼくは正直に彼に「ごめん、単なる筋肉バカだと思ってたけど、全然違うからびっくりした」と打ち明けた。それに対して彼は「そう?」とちょっと意外そうな顔をする。

「遊んでるんでしょ?」と言ったら、実は彼はものすごい真面目なんだという。

確かに彼の恋愛観を聞く限りでは、とても堅物そうだ。

でも、やはり外見的なことから、相当遊んでいるように周りからは思われているというのは否めない。

でも、そこが、ぼくの気に入った。

遊び人ぽく見えるけど、実はすごく真面目、だなんてまさにぼくのタイプではないか。

彼の前の男は束縛をする人だったらしく、携帯をチェックされたり、殴り合いのケンカもしょっちゅうだったらしい。

今までつき合った男と殴り合うまでケンカをしたことのないぼくは、なんだか少し羨ましく思った。

だって、それだけお互いに本気でぶつかり合い、愛し合っていたってことだもん。

プライドが高くて臆病者のぼくは、今までそれがなかなかできずに、良く相手から怒られていた。

ふと、なんとなく、今自分の目の前にいる彼とだったらそんなぶつかり合いのケンカができるんじゃないか、そんな気がした。

多分、その瞬間、ぼくは恋に落ちてしまったのかもしれない。

#002 意外な展開

「お腹空いた-。何食べたい?」

「なんでもいいけど…」

「ぼく、お肉がいいなぁ」

「あ、肉、オレも好き」

「じゃあ、ねぎし行こうか」

「いいよ」


そんなありきたりな会話をしながら、ぼくたちはねぎしに向かった。

週末のねぎしは混んでいたけど、運の良いことにぼくたちは比較的落ち着いて話せる4人がけの席に通された。

その時、一体どんな会話をしたのか、正直ぼくはまったく覚えていない。

ただ、食事だけでは話し足りなかったから、その後カフェに行ったわけだから、きっとすでにその時、ぼくは彼に興味を持ち始めていたのかもしれない。


体を鍛えているイケメンによくありがちな、頭の中までまっちょな男だろうと彼を外見だけで見くびっていた自分を恥じながら、ぼくは彼をお茶に誘ったのである。

#001 再会=出会い

彼と知り合ったのは、あんまり堂々と人様に言えるような場所ではない。

いわゆる、業界用語ではハッテン場と呼ばれるような、ゲイ同士が快楽に耽ることをメインに設けられた場所だったから。その場限りで終わるような体の関係を持つにはうってつけの場所。普通の男と女には到底想像できないような場所だ。


その日も、ぼくは、そんなお気楽なセックスを楽しむ目的でそこに行った。

土曜日のお昼過ぎに行ったぼくは、すでに3人の男と遊び、ひとりにイカされ、ふたりをイカせた。

でも、今ではその男たちがいったいどんな男だったのか、まったく思い出せないけれども…。

散々遊んだはずなのに、ぼくはなぜかすぐに帰る気になれなかった。

サウナに入り、お風呂に入り、のんびりと過ごしていた。


そんな時にぼくは彼をみつけたのである。

浅黒い肌、絶対に鍛えていると確信できるような美し肉体。ちょっと色気のある顔。

間違いない。あの男だ。

約二ヶ月前に同じ場所で会った男…。


その時、彼は友だちと来ていると言って、なかなかぼくの誘いには応じてくれなかった。

それでもぼくはどうしても彼に抱かれたかったから、半ば強引にシャワールームに連れ込んで彼をイカせ、そして自分もイッたのだ。


その時の彼がサウナに入ったのを見計らい、ぼくも後についてサウナに入った。

ふたりきりだった。ラッキー、と思ったぼくは、おずおずと声をかけた。

「ひさしぶりだね」

彼は最初ぼくのことは良くわからないみたいだった。

「二ヶ月ぐらい前、友だちと来てたでしょ?」

と言ったら、やっと、あぁ…と気づいてくれた。

「今日も友だちと来たの?」

「いや、ひとりだよ」

ぼくは、彼をこの前のように誘った。

でも、彼は「来たばかりだから…」と躊躇した。

きっと、彼はぼく以外の男と遊びたいんだなと思った。

こういった体だけの場所では良くある話だ。

でも、すでにぼくの股間は欲情していた。

「君は何もしなくていいよ。ぼくは君の体を見ながらひとりでイクから」

ぼくの熱心な誘いに根負けしたのか、彼は「いいよ」と言って、ぼくらはシャワールームに行き、そしてぼくは彼の美しい肉体を見ながら果てた。


きっと別の男と遊ぶであろう彼と別れて、ぼくはシャワールームで体を洗い、大きな浴槽に身を浸してから、バスタオルを巻いたままの姿でテレビのある大部屋で一服していた。

帰るにはまだ少し早かった。

テレビでは、ある激安ファミリーレストランの人気メニューの味をプロの料理人たちが検証するという番組が流れていた。

いつものぼくだったら、もう散々遊んだんだから、大満足して、とっとと着替えて帰っただろう。

でもその時は何となくその番組を最後まで見てしまったのである。

そして、番組が終わる、さぁ帰ろうと、ロッカーに行くと、帰り支度をしている彼をみつけた。

思わずぼくは声をかけた。

「さっきはどうもありがとう。誰かとやったの?」

「うん、まぁ…」

「そっか、もし良かったら一緒に食事でもしない?お腹ぺこぺこでさ…」

きっと断られるだろうと思いながら、すごく軽い気持ちで食事に誘っていたのだ。

ダメモトっていう気持ちが強かった。

だから、彼が「あ、いいですよ。行こう」と応じてくれた時はちょっと驚いた。


もちろん、その時、まさかぼくはその後こんなことになるなんて、これっぽっちも思っていなかった。

きっと食事だけして、ハイ、さようなら。ってことになろうだろう、ぐらいにしか考えていなかったのだ。

#000 はじめに

まるで、熱帯の、あのねっとりとした空気の中を歩いているような。

そんな気持ちになるほど苦しい恋を、

まさかこのトシでするなんて思いも寄らなかった。

きっと、こんな想いをすることは、これから先もそうそうないだろう。

だから、しっかりとこの気持ちを書き記しておきたい。

たとえ、この恋が結果的にうまくいかなくなったとしても、

後で読み返した時に、今のこの自分の気持ちを愛おしく思えるように…。

後悔をしない恋をしたい。

そんな想いをこめて…。


2011年7月1日(金) 武田一樹

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