古くからお付き合いいただいているスペースマーケットの重松大輔さんが2026年9月6日に投稿した「40〜60代男性のサードプレイス問題」は、数時間で、いいね2,000件超、引用200件近くという反応がつきました。
40〜60代男性の「サードプレイス必要問題」がこれから大爆発すると思ってる。…
— Daisuke Shigematsu 重松/スペースマーケットCEO (@masurao99) September 6, 2026
この手のテーマにしては異例の伸び方です。今回はこの熱量を受け、主に仕事一筋で結果を出し、経済的にも比較的余裕がある層の、後半生の人生ステージの過ごし方をテーマとして掘り下げます。
「リタイア後、どう過ごすか」ではなく、まだ現役で働いている50代のうちに、会社以外のどこに身を置いておくべきでしょう?という話にしたいと思います。
仕事仲間しかいない状態は成功者ほど起きやすい
長年、事業を伸ばし、役員や創業者として結果を出してきた人ほど、私生活の付き合いを後回しにしてきた時間が長くなります。取引先や部下との関係は濃密でも、それは役職や利害があってこそ成立する関係だったりします。
役職を外れた途端に連絡が来なくなる相手は、友人ではなく仕事仲間だったと退任後に気づくケースは珍しくありません。
内閣府の調査でも、孤独感が「しばしばある・常にある」割合は男性5.3%に対し女性3.7%、男性は50代で最も高く出ています。趣味のサークルにも地域活動にも縁がないまま50代を迎えると、選べる居場所の選択肢自体がすでに乏しくなっているという事情もあります。
定年してから探すのでは遅いという研究の指摘
ここで重要なのは、居場所づくりに着手するタイミングです。オーストラリアの心理学者らが2023年に発表した縦断研究では、退職後1年以内の労働者170人を追跡し、退職前に複数の所属集団を持っていた人ほど、退職後も既存の所属を維持したり新しい所属を得たりしやすく、それが結果として心身の健康や生活満足度の高さにつながることを確認しています。
社会的アイデンティティ変化モデル(SIMIC)と呼ばれる枠組みで、退職前の所属そのものが直接引き継がれるというより、退職前の所属が退職後の所属の土台になるという構図です。
日本でも近い指摘があります。立教大学の和秀俊氏は、男性退職者が現役時代は家と会社の往復で地域のことを配偶者任せにしてきたため、退職後は地域どころか自分の居場所すら持てないと指摘し、日本社会福祉学会で研究発表を行っています。
内閣府の「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」でも、日本の60歳以上で「親しい友人がいない」と答えた割合は調査年により25.9%から31.3%で推移しており、同時期のアメリカ・ドイツ・スウェーデンが軒並み10%台にとどまるのに比べて突出しています。
定年してから探すのではなく、50代の現役中に土台を作っておくべきだ、という主張には相応の裏付けがあります。
コメント欄に並んだサードプレイス案が普通に楽しい
重松さんの投稿への反応で面白かったのは、アクティブにコミュニティに参加できている人たちからの具体例がやたら豊富だったことです。
45歳から始めたギター、柔術、コミュニティ型BBQ、イタリア製スーツを買いに行く店(素材や仕立ての歴史を語り合える教養コミュニティ化している)、保育園や学童の保護者会、日本酒の会、読書会、ビブリオバトル…。
仕事以外でも「何かを一緒にやる場」には男性でも参加しやすい、という指摘は複数の投稿で重なっていました。
英国で盛んなMen’s Sheds研究でも、作業場でshoulder to shoulder、つまり真正面ではなく横並びで作業することが、対面で話すことに抵抗のある男性にとって会話しやすい環境になると報告されています。
面白い例としては、VRChatで、美少女アバターをまとえば肩書きも年齢も外れるため、これが中年男性のサードプレイスとして機能しているという声まで出ていました。スナックについても「誰もおじさんの話を聞きたくないが、スナックだけは受け入れてくれる、もはや福祉」「その役割はいずれ個人VTuberに移る」という、笑っていいのか分からない鋭い指摘もありました(笑)
出禁問題と、安いオープンな場が経営者層に向かない理由
その一方で厳しい声も目立ちました。「居場所を求めている40〜70代男性は、自分本位で出禁になる率も高い」という反応です。
新宿のバー店主による投稿の整理が的確で、社会では職業や所属が信用の先払いとして機能するが、サードプレイスで問われるのは肩書きではなく「他者を侵害しない人かどうか」だけだ、という定義でした。
コミュニティ運営で一番難しいのは集客ではなく、この排除と安全設計だという指摘は重い一言です。
社会学者レイ・オルデンバーグが定義した第三の場所は、安価で、誰でも入れて、地位を持ち込まないことを条件としています。
ところがこの条件は、経営者や富裕層、社会的評価など何某か失うものを持つ男性たちにとってはリスクにも繋がりがちです。肩書きを隠して参加しても、相手の知的水準や意図が分からない環境では、営業目的の接近や情報の持ち出しを警戒し、心理的な武装を解くことができません。
先程の出禁問題を裏返すと、審査で最初に選別してしまうコミュニティというのも、ひとつの現実的な解決策になります。
Hamptonは現役のうちから入れる審査制ピアグループ
その代表的な存在である米国のHamptonは、創業者やCEOを対象にした会員制コミュニティです。退職者向けではなく、現役でまさに会社を回している人向けの設計である点が重要です。
年間売上100万ドル以上、または資金調達300万ドル以上、または過去のExit経験のいずれかを条件に審査を行い、合格率はおよそ8%とされています。合格者は8人単位のCoreグループに配置され、エグゼクティブファシリテーターの進行で月次のミーティングを重ね、事業だけでなく家族や資産といった話しにくい領域まで共有します。
こういう経営者コミュニティって、日本にもいっぱいありますよね。
厳選されたメンバーによる、直接的な仕事絡みのないお付き合いだけという、気楽なものであれば、今回の趣旨に即しているのかもしれませんが、そうではなさそうです。
ただし、一定規模の事業売却などの実績を残し、メンターなど後輩育成に携わっているシニアには、継続して参加も許されており、仕事によって世の中との関わりを維持していきたい、生涯現役的なタイプには打って付けかもしれません。
YPOとWPO、卒業しても居場所を失わない設計
より長い歴史を持つのがYPO(Young Presidents' Organization)です。1950年に設立され、現在は130カ国以上に3万人規模の会員を抱え、加盟企業の年間売上高は合計で9,000億ドルを超えるとされています。
もともと若手経営者を対象にした組織のため、年齢や在任期間の節目で会員資格を卒業する設計になっていますが、1970年には元会員がWPO(World Presidents' Organization)を設立し、卒業後も同じ形式のピアグループを続けられる仕組みを作りました。
両組織は2007年に統合され、ビジネスからのリタイア後も、引き続き参加が認められているそうです。現役のうちに参加し、節目を迎えても同じ帰属先を失わずにいられる。この「積み上げ型」の設計は、定年後に一から探すより楽ですので、生涯現役的な雰囲気がマッチする人には、こちらも生涯にわたりいい拠り所となりそうな気もします。
盛和塾は親睦ではなく信奉の共同体だった
日本での近い先行例として有名なのが盛和塾ですが、これを単純な「経営者同士の親睦の場」と呼ぶには、無理があります。
京セラ創業者の稲盛和夫氏が塾長を務めたこの塾は1983年に発足し、最盛期には国内56塾・海外48塾、塾生は約1万4千人規模まで広がりました。
ただし例会の中心は、稲盛氏の講話、塾生による経営体験発表、そして稲盛氏からの評価という構図で、対等な情報交換というより師弟関係に近いものでした。
京セラフィロソフィは塾生にとって教典に近い位置づけで、稲盛氏が神格化され「拝み奉る」ような雰囲気があったことは複数の記録が指摘しています。
黒字化に成功した塾生をそれでも稲盛氏が厳しく叱り、当の本人が落胆したという逸話が、稲盛氏自身の講話の中で紹介されているほどです。ベテラン塾生が新人を厳しく指導する上下関係もあり、それが合わずに去った塾生もいたとされています。
今からならば、盛和塾よりもNVIDIAのジェンスン・ファン塾に入りたいかもしれません(笑)
もっとも、稲盛氏抜きで各支部が運営する自主例会や、稲盛氏がJAL会長に就任した際に塾生有志が自然発生的に結成した応援団のように、対等な連帯が働いていた場面もありました。
それでも全体を支えていた核は、一人の経営哲学への信奉です。だからこそ稲盛氏の高齢化を理由に、2019年末で全国組織としての活動は終了しました。
HamptonやYPOが審査基準やファシリテーター、卒業後の受け皿という仕組みで持続性を作っているのに対し、盛和塾は一人のカリスマへの信奉によって強い結束と実践力を生んだ代わりに、代わりのきかない依存を抱えていたということです。
社会貢献とGood Eldersに見る新しい動き
経験と時間に余裕のある人が集まる場は、社会貢献の担い手を生む回路にもなります。NPO法人「二枚目の名刺」は2009年の設立以来、社会課題の解決に取り組むNPOや企業と、それを支援したい社会人をプロボノで結びつけてきました。経験値の高い経営者ほど、支援の受け手にも担い手にもなりやすい存在です。
より新しい動きとしては、マーケターの佐藤尚之氏が2023年に立ち上げた「Good Elders」があります。50歳以上限定というシンプルな入会条件のコミュニティで、参加者が自分の生活や考えをブログに書き続ける場を提供しています。
若い世代の目を気にせず書けることが好評で、始動から9カ月で1,650本を超える記事が投稿されたといいます。教養や実務ではなく「同世代しかいない安心感」だけで場が回るという、これまでの経営者コミュニティとは違う設計思想が興味深いところです。
50代から身の置き方をどう設計するか
ここまでの事例を並べると、今回対象とした層にマッチするコミュニティにはいくつかの共通条件が見えてきます。
参加者の水準をあらかじめ揃える何らかの審査制であること、
現役を卒業しても帰属先を失わない設計になっていること、
単一の指導者やカリスマに依存せず組織として存続できること、
経験を社会に還元する出口を持っていること、
です。
そして、やっぱり一番大事なのは、定年を迎えてから探すのではなく、まだ現役で働いている50代のうちに動き出しておくことだとも再認識できました。
SIMICの研究が示すとおり、退職前の所属そのものよりも、それが退職後の所属をつなぐ土台になるかどうかが問われます。
そして、重松さんの投稿への反応を見る限り、求められているのはひとつの高級クラブではなく、審査制のピアグループ、趣味を入り口にした緩い集まり、Good Eldersのような同世代限定の場が、それぞれ別の温度感で並行して、急速に伸びていくのだろうな、と思います。




