えっ、なにこれ、醤油ラーメンってこんなに美味いの | こっちにいらっしゃい

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春と秋に挟まれた季節の夏になると、青い空と強い日差しを二列に互生した、子供の手のひらサイズと大人の手のひらサイズの、そんなケヤキの葉身が日かげの空間を醸し出してくれる。ときおり一斉に始まるセミの合唱が耳を突く‥‥。

「この店主がおもしろいんです。

 

脱サラしなければ、はじまらない。

 

そう言って、まず会社をやめたのです。

 

それから何を始めようか、と考えて、

 

一番手っ取り早い飲食業のラーメン屋を開業したんだよ」

 

ここの店主は醤油に、こだわった。

 

どれだけの醤油を試しただろうか、

 

研究に研究を重ねた。挑戦に挑戦を重ねた。

 

やっと見つけたときの感動と喜びはなかった。

 

灯台下暗しだった。この街の地元産の醤油が一番だった。

 

他のどの醤油も、イワシの味が強くて臭かった。

 

煮込んでいると、塩が乾燥し蓋などにこびりついた。

 

この醤油は違っていた。味わいのある深い醤油だった。

 

10分くらいして、

 

カウンター越しにラーメンが手渡された。

 

一口食べた。

 

「えっ、なにこれ、醤油ラーメンってこんなに美味いの」

 

何かが突出している訳ではない。

 

鶏ガラなのか、煮干しなのか、わからない。

 

素朴な、重厚な味わいのスープ。

 

すばらしい香りのちぢれ麺、

 

口でとろけそうなチャーシュー、

 

文句のつけどころがなかった。

 

短編小説;感謝の形もらいっぱなしではいけないよ。得したと思っても