「この店主がおもしろいんです。
脱サラしなければ、はじまらない。
そう言って、まず会社をやめたのです。
それから何を始めようか、と考えて、
一番手っ取り早い飲食業のラーメン屋を開業したんだよ」
ここの店主は醤油に、こだわった。
どれだけの醤油を試しただろうか、
研究に研究を重ねた。挑戦に挑戦を重ねた。
やっと見つけたときの感動と喜びはなかった。
灯台下暗しだった。この街の地元産の醤油が一番だった。
他のどの醤油も、イワシの味が強くて臭かった。
煮込んでいると、塩が乾燥し蓋などにこびりついた。
この醤油は違っていた。味わいのある深い醤油だった。
10分くらいして、
カウンター越しにラーメンが手渡された。
一口食べた。
「えっ、なにこれ、醤油ラーメンってこんなに美味いの」
何かが突出している訳ではない。
鶏ガラなのか、煮干しなのか、わからない。
素朴な、重厚な味わいのスープ。
すばらしい香りのちぢれ麺、
口でとろけそうなチャーシュー、
文句のつけどころがなかった。
短編小説;感謝の形もらいっぱなしではいけないよ。得したと思っても