石油というマテリアリズム | 日本の構造と世界の最適化

日本の構造と世界の最適化

戦後システムの老朽化といまだ見えぬ「新しい世界」。
古いシステムが自ら自己改革することなどできず、
いっそ「破綻」させ「やむなく転換」させるのが現実的か。


ロックフェラー財閥の陰謀論などは巷によくある。しかし陰謀論が全部本当ならば世界は悪い意味でもっと安定しているはずである。ちょうど奴隷制度が安定しているように。


ところで石油というか油は不思議なマテリアルである。
それは単純に物質・資源・商品でありながら、価格を通じて世界を動かしている。誰もそこから逃げることは
できない。


また昨今の日本経済は原発停止により石油動向のインパクトが増しているはずである。


我々は石油文明の人間


青銅器文明→鉄器文明 --- →石油文明


マテリアルなものを通じて歴史を分析することは客観的な所作であろう。そしてマテリアルなものは有限かつ所在が限定されている。それゆえ通商交易は人類の必然となる。


現在は依然として石油文明と言えよう。

再生エネルギーのほとんどは発電を念頭としているが、石油には石油化学・素材産業という観点もある。石油なしではプラスチック・ビニール、化学繊維など20世紀を彩る科学技術と生活は維持できない。


石油という物質にアクセスできない人々は負け犬となり貧困に甘んじることになる。石油を輸入する力のない国は貧国となる。


石油以前から油は歴史を動かす


■油の経済/織田信長とゴマ油

織田信長の祖父は、ゴマ油の元締めである京都大山崎につながる尾張・津島とその一帯を獲得することで経済力をつけていく。中世・戦国時代の日本の油は「ゴマ油」であり中世の油座の独占があった。織田弾正忠家の力は油座にあったとも言える。しかし戦国期の終焉に向けて「菜種油」が一世を風靡する。「菜種油」の方が安かった点も普及を促進した。
大山崎油座(wikipedia)
*大山崎の神人は製造を独占していたが、仕入れや販売も独占ネットワークを構築していた。
*大阪住吉を筆頭とする菜種油事業は秀吉の大阪都市成立により拡大・ゴマ油を駆逐していく
*江戸時代の灯油(菜種油)は19世紀に米一升100文に対し4倍の400文


■油の経済/植民地主義とパーム油

産業革命によって機械油・潤滑油というマテリアルが必要となる。そこで英国商人によって普及したのは「パーム油」である。パーム油は、食用油マーガリン石鹸などの用途がある。ユニリーバの起源もパーム油にある。パーム油は単位面積あたりの生産性がぴか一で大豆の15倍・菜種の10倍もあり毎年の種まきが不要で経済性が高い。パーム油が大英帝国などの植民地プランテーションの動機の一つでもあった。
*西欧の西アフリカ諸国との交易目的は、奴隷、象牙、パーム油などがあった。
*オランダが東南アジアへオイルパームを持ち込み栽培開始(1848年)
*現在ではインドネシアとマレーシアの生産量がトップクラス
*パーム油が「自然に優しい」という宣伝は、単一栽培による熱帯雨林破壊・半強制労働もあって批判の声
もある。
・パーム油ってなに?(ボルネオ保全トラスト・ジャパン)


■油の経済/マッコウクジラと鯨油

また幕末にイギリスやアメリカの船舶が日本近海に出現していたのは「鯨油」目的もあった。蝋と灯油のために鯨(マッコウクジラ)が必要となっていた。「鯨油」による灯油は家庭用でありガス灯や工業では石炭油・石炭ガスも利用されていた。鯨油の用途は幅広く20世紀にはニトログリセリンの原材料にもなる。
*小説『白鯨』(1851年)捕鯨船の乗組員の話
*米国捕鯨業の規模ピーク(1858年)
鯨油(wikipedia)


つまり石油時代の前から、「油」自体は重要な産品であった。


石油の台頭・第二次産業革命


■石油の登場/独占企業の典型スタンダードオイル

石油の採掘も、当初は「灯油」を目当てとしたものであった。当然「鯨油」より圧倒的に安いことが普及を促したようである。
*石油からケロシン油精製(1852年)アルコールの蒸留を応用した精製であった。
米南北戦争(1861年~)により東海岸の捕鯨業が停止状態となり、代替としてか石油採掘への投資が活発化
していく。
*米石油採掘は、ゴールドラッシュに似た米国型零細ベンチャー乱立として始まった。


米国ではロックフェラーがスタンダードオイルを設立(1870年)し、石油の精製設備と流通網の集約を目論んで拡大していく。これも石油製「灯油」の需要拡大の流れに乗ったものであった。スタンダードオイルは1878年までに全米精製能力の90%を掌握する結果となり、州の大企業規制をかいくぐったトラスト方式や鉄道網の支配により競合を叩きのめず手法で一人勝ちとなり、独占禁止の世論が高まる中でスタンダードオイルは1911年に解体され34社にばらばらになる。
・1892年ロイヤル・ダッチ・シェルがインドネシアで石油開発・ロックフェラーと競合
・1900年に「ドラム缶」発明
・1909年イギリスがイランでの石油開発(BPの起源)
*多くの零細事業者/投資家がゴールドラッシュのように採掘に乗り出していったのと対照的に、ロックフェラ
ーは精製の方に着目したとされる。
*鉄道規制を望む世論も高まり州際通商委員会による運賃規制等が強化された。これにより鉄道株が急落した
ことも1907年米恐慌の原因となった。
スタンダードオイル(wikipedia)


特筆すべき点は、スタンダードオイルは独占力で高価格を享受したというより価格引下げ(58セント→26セント)で競合零細を踏み潰していくシェア重視の姿勢であったことである。


またガソリンや天然ガスは石油採掘や灯油を精製する過程で生じる副産物で「こんなカス」と捨てていた。
*ロックフェラーは他の事業者とは異なりこの廃棄物の再利用を試みる。


やがてガソリン・エンジンと自動車が石油の需要を拡大させてゆく。
内燃機関の開発は当初は石炭ガスを念頭にして進んでいた。
*ドイツのダイムラーとベンツがそれぞれガソリン自動車を開発(1885年)富裕層向け
*フォード・モデルT発売(1908年)大量生産システム・大衆向け乗用車
*しかし1920年代までは蒸気自動車はまだ健在だった


■第一次大戦と第二次産業革命

第一次大戦(1914年)において米国には欧州への穀物輸出で農業バブルが訪れる。これは農地バブルも勃発し更に農業技術にもカネが流れ込んでいった。


第一次大戦後には蒸気エンジンのトラックは姿を消し、ガソリン・エンジンによるトラックが大々的に普及する。また自動車の普及は荷馬車用泥道を舗装道路へと作り直していく。


鉄道が支配していた陸の孤島が点在するような広大な米国は、自動車とハイウェイの発達によって地方都市開発が進んで再び激変していき、20世紀モダニズムと「狂騒の20年代」という長期好景気と大衆消費社会(自動車・映画・ラジオ)の台頭が顕著になっていく。
狂騒の20年代(wikipedia)
*他方で鉄道買収合戦の末にICC(州際通商委員会)が設立されて米国鉄道は運賃などの政治統制に服するようになり、フリードマンに言わせれば新規参入を阻害する停滞したカルテルに堕落していく。
*1932年にテキサス州鉄道委員会が油田を掌握して石油価格を統制・公認カルテル


世界経済の原動力は、石炭/蒸気機関の大英帝国から石油/自動車のアメリカへバトンタッチされていく。これ第二次産業革命ともされる。

*道路建設も、石油掘削関連のアスファルトというマテリアルに依存する。


        石炭/蒸気機関/鉄道 → 石油/自動車/ハイウェイ


当時の産油国はかなり限られており、米国(シェア80%で1位)、ソ連(バクー油田で2位)ルーマニア、イラン、インドネシア(英蘭)であり、北海油田も中東油田はまだ開発途上であった
*第二次大戦が始まってソ連がルーマニアを占領したのは石油のためであり、ドイツと対立しやがて独ソ戦争となる。


日米開戦の原因の一つは、日独伊三国同盟以降に米国との関係が急激に悪化し、米国が石油禁輸に踏み切った(1941年8月1日)点がある。それから5ヶ月経たない内に日本は真珠湾攻撃を行う。
*戦前の日本の石油輸入先は米国だったので日中戦争が継続できなくなった。東南アジア英蘭の石油を目指して南方作戦を展開した。
・1940年9月:日独伊三国同盟
・1941年6月:日蘭会商が決裂(石油調達挫折)
・1941年8月:米国の対日石油禁輸(その時点で日本の石油備蓄1年半)
・1941年10月:東条英機内閣成立
・1941年12月:マレー作戦・真珠湾攻撃


20世紀においてはガソリンが切れた時にゲームオーバーである。


石油価格と戦後世界


■石油メジャー(国際カルテル)とその崩壊=「安い原油」時代1バレル2ドル

欧米の石油メジャーはセブン・シスターズと呼ばれる7社によるカルテルであった(米系5社・英蘭2社)。


これは旧オスマン帝国領内の石油資源開発を英米で喧嘩をせずに独占する仕組みでもあった。単なる利益狙いというより英米による中東管理という国際政治バランスの確立の意味も大きかったようである。
国際石油資本(wikipedia)


それゆえか国際カルテルにもかかわらず石油価格は1960年代まで低位安定していた。米政権が価格引き上げを狙う石油会社を脅していたこともあり、自由に値を吊り上げることが難しい政治的事業でもあった。
*1959年米アイゼンハワー政権が国内石油業者の保護(下落防止)のため石油輸入制限


世界の石油需要の拡大と新たな油田の発見による供給過剰により、石油価格は更に低下していくが、外国資本に利益を吸い取られる産油国に不満がたまっていくこととなった。


■中東戦争とOPECの誕生「高い原油」時代1バレル11~39ドル

1960年代にOPEC(石油輸出国機構)が結成され、英米石油メジャーの支配に風穴が開く。

*1959年アラブ産油国会議でベネズエラ提唱のテキサス州鉄道委員会カルテル方式が注目。


OPECは、中東戦争(1973年~)でイスラエルに同調する欧米を牽制する際に大きく存在感を誇示した。OPECによる価格吊り上げ(3カ月で3ドル→11.65ドル)はオイルショックとインフレを巻き起こす。欧米企業の資源支配に対する資源ナショナリズムの勃興と言えるものであった。
オイルショック(Hatena Keyword)


また先進国で代替エネルギーの議論が高まった時代でもある。原子力発電は原子力潜水艦の技術の転用として米ソを始め研究と実用化が始まっていたがスリーマイル島原発事故(1979年)は米国における「代替エネルギー=原子力」の流れを頓挫させる方向となった。


同時に1979年にはイラン革命が勃発。1980年イラン・イラク戦争により石油不安が再び顕在化。第二次オイルショックにより石油価格が高騰する(18ドル→39ドル)。


■レーガン時代とOPEC弱体化1985年~「安い原油」時代1バレル20ドル以下

他方でソ連は1979年から89年までアフガン侵攻の泥沼にはまっていたが、高い石油から安い石油の時代の中での戦争であった。実際、ソ連の石油生産は1988年にはピークに到達したとされている。


またレーガン政権はソ連に打撃を与えるためサウジアラビア(ソ連のアフガン侵攻を嫌悪)に石油価格引き下げを要請し、サウジアラビアは増産を開始する(1985年)。
*レーガン政権の主要課題はインフレの撃滅でもあり、高金利政策により70年代のインフレをようやく退治するが、ドル高により米国輸出産業が打撃を受け、他方で日本の対米輸出躍進。


さらに1986年にはチェルノブイリ原発事故が発生し、ソ連の石油離脱は絶望的となる。
チェルノブイリ原子力発電所事故(wikipedia)


■ソ連崩壊・90年代「安い原油」時代・最終的に1バレル10ドルの底値到達

こうした石油動向もあってか1991年にソ連が崩壊する。


石油本位制であったソ連共産経済は、石油消費増に増産が追いつかず、国際経済の中でバナナ・リパブリック化して消耗した結果ともされる。これはソ連からの石油に頼っていた東欧にソ連離脱の動きをもたらすものでもあった。
What Really Killed Soviet Union? Oil Shock?(thetyee)


こうした安い石油の打撃は続き1998年には原油価格は1バレル9.8ドルに達し、ロシアは債務不履行となった。
*1990年イラクがクウェート侵攻その後湾岸戦争
*1997年アジア通貨危機で新興国ブーム一旦中断(日本を含むアジアの石油需要が世界8割)
*1997年サウジアラビアがベネズエラと石油生産方針で対立
1998年ロシア財政危機(wikipedia)


■中国WTO加盟と新興国「高い石油」時代 1バレル25~65ドル/147ドルへ


   1バレル 10ドル → 25ドル → 65ドル →→ 147ドル


ロシアの経済危機においてエリツィン大統領は米国とサウジに支援を要請し、石油価格は再び引き上げられることになる。


また中国のWTO加盟(2001年)は世界経済の転機であった。


その高成長は他の新興国とも連動して資源食糧の需要を急増させていく。10数年前に1バレル10ドル程度の世界があったとは信じられない様相となる。当然、資源国が世界経済で台頭していく。SWF(政府系ファンド)がロシアや産油国で組成されて世界金融に影響を及ぼすようになる。
北極圏に吹き荒れる、資源ナショナリズム(2008/12/19日経BP)
「資源ナショナリズム」に苦しむ鉱山会社、高リスク地域に進出(2012/03/12ロイター)
世界の政府系ファンド(SWF)(WEB金融新聞)

他方で米国はITバブル崩壊(2002年)を金融緩和・不動産投資促進で乗り切り、イラク戦争(2003年)も行うが、長期にわたる金融緩和が「サブプライム・ローン危機(2006年~)」を育ててしまうことになる。こうした先進国の金融緩和のマネーが新興国の開発に流れ込むという循環で世界経済が活況を呈し資源が逼迫していく。日本でも2007年にはマンホールのフタが盗まれるくらい資源高騰が波及していた。
*映画『不都合な真実』(2006年)石油エネルギーへの風当たり強くなる


「ロシア・グルジア戦争(2008年)」は、石油資源国として鼻息が荒くなったロシアが欧米追従を止め再び攻勢に出ていることを示すものであった。米国はロシア=イランを迂回する親米嫌露のアゼルバイジャン=トルのパイプラインを企図しておりグルジアを応援していた。しかしグルジア経済はロシアのガス・パイプライに依存しており、ロシアに屈服する。
南オセチア紛争 (2008年)(wikipedia)


日本がデフレに陥る中での世界経済の躍進において、石油資源の生産の限界が懸念され、資源はこれから値上がりしかないように思われた。


■世界金融危機(2008年)のショック 1バレル30ドルへ急落


    1バレル 147ドル → 30ドル  →→ 100ドル


ところがである。

米国発の不動産金融バブルが破裂すると、全世界にその衝撃が波及し、資源価格が一旦急落する。


米国向け輸出で急成長を遂げていた中国は今度は国内不動産投資を促進するが、これはゾンビ都市というバブルを育ててしまうこととなり、高度成長期を終えた中国の需要は失速していく。


BP原油流出事故(2010年)は米国における石油への嫌悪を増長したことだろう。そして米国で新たな掘削技術によるシェールガス革命が進んでいく。


世界金融危機からの回復で石油は1バレル100ドルへ戻し、その後更に上昇を続けていく観があった。


その後、日本で福島原発事故(2013年)が勃発し、代替エネルギーとしての原子力への嫌悪が広がった。日本は再び火力発電に戻したわけだが、中国経済迷も続き先進国が日本型デフレを恐れる中で石油の需要が鈍かった。「アラブの春」以降、中東は不安定化していたにもかかわらず「安い石油」というトレンドは動かなかった。


■2014年異常な石油下落とロシアの苦境1バレル100ドルから50ドル以下へ


     1バレル 100ドル → 50ドル以下


米国のシェールガス革命は、中東石油脱却や貿易赤字解消という意味で大きな期待をもたらし増産が進んでいた。金融量的緩和によるインフレやガソリン高騰への米国内不満を鎮める上でも、シェールガス革命は希望であり、米国が再び資源輸出大国として君臨するとして盛り上がっていた。
シェールガス革命(wikipedia)
「シェール革命」で米国の貿易収支が"劇的"改善へ(2014/8/8マイナビニュース

そして2014年に石油価格が50%下落するという異常事態に見舞われる。


その原因は、米国が石油輸入に背を向け始めシェールガスに執心していることへの対抗として、サウジアラビが「肉を切らせて骨を断つ」戦略・に出て増産を始めたことが原因とされる。考えてみればカルテル支配の骨子は「価格よりもシェア重視」なのである。


それは米国でのエネルギー開発投資に打撃を与えただけでなく、ウクライナ問題などで攻撃的な姿勢を維持するロシアにも大きな打撃をもたらすものとなった。もちろんサウジアラビアに比べれば小生産者であるイランもベネズエラも打撃を受けている。そして小生産者であった「イスラム国」という勢力も打撃を受けているはずである。
OPEC Losing Its Grip? No, The Saudis Are Partying Like It's 1981(Forbes)


ロシア経済は危機的状況となり、ルーブル急落を止めるために金利を異常に引き上げる事態となった。こうした措置の副作用もまた大きく、ウクライナ問題による経済制裁もありロシア経済は不況に突入する。
・2014年3月:ロシア軍がクリミア半島侵攻
「原油価格」でロシアを追い詰める「新冷戦」の構造(2014/09/19新潮社フォーサイト)
ロシア経済:ルーブルの急落を懸念 背景には原油価格の暴落(2014/12/20U-NOTE)
EU、ロシアに対する追加経済制裁を準備へ-外相理事会(2015/01/30 Bloomberg)

主権国家とマテリアリズム


石油に生活が振り回され、石油が国際政治すら支配する。それは主権国家には潜在的な脅威である。ガソリンが切れた時に国家は停止し戦争は負ける。「主権国家は対等・独立だ!」と叫んでも、世界を支配しているのはマテリアルであり、資源も市場も各国に均等に分配されているわけではない。
*ウクライナはロシアと対立しているが、ロシアにエネルギーを依存し、しかも代金滞納状態にある。欧米や日本は、ウクライナの滞納金を肩代わりしてマーシャル・プランでもくれやるのか?
*米国はウクライナに武器供与することばかり考えているようだが、ロシアへのエネルギー依存がある限りウクライナがロシアから解放されることはない。マテリアルな問題なのだ。


またナショナリズムと資源が結びつく場合、損をするのは資源輸入国である。石油というマテリアルは供給側のカルテル的な思惑の影響を受けており、純粋な市場経済からほど遠い。それゆえ自由競争やグローバリズムの理想は、ナショナルな資源争奪戦争を避けるための一つの方向であろう。

*インドネシアの日本に対する見方は欧米とは異なり、戦争中に日本から国家主義を学び、イスラム主義=共産主義=国家主義を柱として戦後出発した。
*しかしインドネシアがナショナリズムによって「資源ではなく付加価値品を買ってくれ」と言えば、日本は「ナショナリズムの仲間よ!」と言うわけにはいかない。日本企業は困ることになる。自己のナショナリズムは純愛といってもいいほどだが他人のナショナリズムは困るのである。

インドネシア新規制で資源調達に新たな試練(2012/05/24東洋経済)


例えば日本が再び開戦したとしよう。

石油備蓄はやはり1年足らずなので、産油国を敵にするといずれガス欠で負ける。これが現実だ。「サムライ精神があれば燃料がなくても戦車が動く!うおおお!ゼロ戦!戦艦大和!(いつの時代の兵器だよ)」というのは安っぽいオカルトである。


「うおお中国と戦争だ!」という場合、それは米国の統帥権の範疇にある。サウジアラビアは米国の友人であり、米国が嫌悪する行動はサウジアラビア等の禁輸措置も招きかねない。
*日中戦争に対し欧米が対日経済制裁を行い、蒋介石を支援したことが先の戦争の原因としてある。
*現在の日韓の対立は、日中の対立とは異なり米国には困った事態になっている。日韓米で中ロ北朝鮮に対抗するのが米国の戦略だから。同盟国の仲たがいという状態であり、その内容は権益の衝突(東シナ海ガス田)ではなく情緒的紛争である。


ある意味、石油という不安定な資源に対する一つの回答が、日本では代替エネルギーとしての原子力発電であった。産油国にとって原子力も石油の代替エネルギーであり商売仇であるから、原発事故によって日本が原子力を石油に戻してゆくことは産油国にとって歓迎すべきことである。
*日本語では「代替エネルギー」には原子力は通常含まない


代替エネルギーの情緒と経済性に要注意


代替エネルギーは、石油文明の糾弾と併せて情緒的に盛り上がる傾向がある。


石油が高騰する時、代替エネルギーが進展しやすい。だが石油が下落を続けると代替エネルギーはコストが高すぎて経済性がなくなる。


   石油下落=代替エネルギー不利 ←→ 石油高騰・代替エネルギー有利
     米共和党政権                  米民主党政権

     エネルギー自由主義             新エネルギー国家補助


■ステキ社会主義の失敗

再生可能エネルギー等は、将来の石油枯渇をにらんで進める必要はある。しかし、それは十数年で日本経済が代替できるようなシロモノではない。研究は絶対必要だが、導入は慎重でなければならないし、何もかもステキなことは国庫負担というステキ社会主義も失敗する。
バイオ燃料頼みの危うさ 穀物高騰や生産効率が課題(2012/10/22日本経済新聞)
【日本版コラム】大失敗だった太陽光発電推進 ドイツの教訓に学ぶ(2012/5/28WSJ)
「回らない風車」訴訟、早大への賠償命令確定 最高裁(2011/06/10朝日新聞)
バイオマス発電の光と影 未利用木材、人気沸騰に危うさ (2013/12/10日本経済新聞)
固定買取制度は最初から破綻が見えていた(2014/10/21WEDGE)


木炭から石炭へ、そして石炭から石油へ。こうした変化は、品質と経済性において優れていたから実現した。つまり石炭より石油の方が安かった。代替エネルギーが石油に代替するほど経済性があるかどうかが問われる
*だから石油のコストが跳ね上がると石炭が再び息を吹き返す。中国や米国では石炭発電もいまだに存在している。
原子力のコストは、今や政治的コストではないかと思われ確かに高くなっている。再稼動の権限や判断が空気に流され読めないとなれば原子力コストは高いだろう。またメルトダウンを前提とした安全対策を取れないとなれば交通事故を前提としないのでエアバックを装着しない自動車を作るのと同じことになる。


情緒に浮かれ補助金をばらまくと思わぬ失敗がある。また補助金バブルとその崩壊もある。固定買取制など愚の骨頂で経済性がない。電力会社が値上げを要求して怒っている人も多いが、代替エネルギーも補助金等がなければ高いものである。何でもかんでも国費でまかなえば赤字は止まらない。そして電気が止まればあなたも止まる
*国費投入で経済が良くなるなら、社会主義計画経済は成功しているはずである。
関西電力 再値上げ申請に消費者から怒りの声(2015/02/12エネプレ)
長野で大規模停電 送電原因か?最大38万世帯、新幹線も運転見合わせ(2015/03/02)


■マテリアルな観点/物質的前提

左翼が弱者救済の情緒に浮かれ、右翼が愛国的民族主義の情緒におぼれ、庶民がステキ感動!魂のベートーベン!擬似科学・サルでも金持ちになれる方法!に溺れ、ストレスを抱えた連中が暴力に溺れる昨今の日本であるが、渋いマテリアルな観点が乏しいのは問題だ。


あなた自身が物質であり、あなたの細胞は物質のインプットとアウトプットを繰り返している。そして日本経済の運命も金銭計算と物質的前提という渋い問題に左右されている。