正規と非正規の身分的格差
■非正規とは
正規社員と非正規社員という形が90年代に明確になった。
高度成長期には人材獲得難もあり、それまで非正規というのは学生や旦那の稼ぎを支えるパートのおばちゃんだったので大きな変化だった。
ただ「自分の働き方が選べる!」
と言うスローガンで導入されたものの安定正社員になりたい非正規が多い。つまり非正規しかなかったのである。「自由な選択」ではなく選択肢がなかったのであろう。また、非正規はもはや学生等だけではなく、生涯それで生活という社会人や自立した独身女性が現在の非正規社員である。非正規で生涯を終える人生モデルでモノを考えないと、「自分の働き方が選べる!」「だから自己責任だ!」という詭弁になる。
・メーデー:非正規労働者ら定年後雇用訴え 全国で集会(2013/5/1毎日新聞)
それでいて、もはや非正規を断って正規だけで回していける現場ではない。工場や店舗など皆何らかの非正規なしに稼動しない。
■正社員だけは守りたいという背景
そして学校卒業後の入社で生涯年収が確定する流動性のないサラリーマン社会と多数の保証のない非正規という大きな労働身分が実質できあがっている。
「非正規は自己責任だ!」と言いながら「正規社員は65歳まで雇用義務化!大変だから守ってやる」という形が出来上がっている。これも詭弁である。
・日本の正社員解雇、厳しい規制が足かせ(2013/2/22産経新聞)
非正規は自己責任だ! →矛盾← 正規社員は65歳まで雇用義務化!
これは21世紀に日本列島で観察された労働身分制と言えよう。守られている正社員に守られる理由があまりなく、受験→大学→入社(身分決定)という世界であり、本質的な自由競争は受験にしかない。
律令制の『良賎の法』にせよ、江戸時代の「士農工商」にせよ、その心は「全体の秩序と安定性を自由より重視」ということであろうか。序列による秩序安定は、閉じた世界では可能である。また腐っても鯛で、官位というもののありがたさも日本史上永らく残った。それは身分への憧れである。
律令時代の日本 21世紀の日本
良民・賎民 正規・非正規
非正規も安い使い捨て労働として導入されたものであって、正社員雇用を守るためのバッファである。全員正社員にすると長期的コストが重すぎ会社が傾くリスクがあるため、非正規を導入した。「自由主義」とは全く関係のない詭弁だ。
*産業がゼネコン型になっていくのも、正社員雇用コストが重すぎるからである。それゆえゼネコン体制によってそのコストを各社で分散して1つのプロジェクトを実施する。
限定正社員の行方
派遣法等改正による派遣社員保証は逆に「雇い止め」を日常化させる誤った政策である。
・大学、5年でクビ? 非常勤講師、雇い止めの動き(2013/6/15朝日新聞)
・契約社員ですが、会社から雇い止めを受けました。(弁護士ドットコム)
こうした正規・非正規の大きな格差(待遇差)を無視できなくなり、折衷として注目されているのが「限定正社員」と言えよう。中間身分を作ってこれを緩和するということか。
・いまなぜ解雇規制の緩和なのか その背景&論点を整理する(2013/6/15ダイヤモンド)
・「限定正社員」どんな制度? 解雇ルールで労使対立(2013/5/25日本経済)
建前上は「非正規が正規になりやすい」「正規へのステップ」というスローガンである。本音は多すぎる正社員の削減であろう。頓挫した「金銭解雇」の焼き直しである。
・首相、解雇の金銭解決「検討」 発言を修正(2013/4/3日本経済)
つまり二つの身分では格差が目立ちすぎるので、身分段階を多くする。
正社員 ← 65歳まで雇用義務化(生涯保証!)
限定正社員
派遣社員等 ← 5年で雇い止め/別の現場へ
だが、本質的問題は正社員が多すぎることで、正社員保証撤廃の暫定措置というのが「限定正社員」だろう。
そのうち労働者冠位十二階を本気で作るかもな。
身分制としても持続不可能
ただ日々労苦して身分制の構築を行っている連中は大事なことを知っておく必要がある。
保証身分が非保証身分より少ない時に初めて身分制ピラミッドは維持できる。現在のように終身雇用・社会保障等が保証された正社員が多すぎる現在の構造では、持続可能ではなく崩れていくしかない。「士農工商」は武士が百姓より少ないから成り立つのである。
正社員3281万人 ←→ 非正規1870万人
身分制秩序を愛する人よ!これでは身分制は完成しないゾ!
そして保証されている人間を減らせないなら、やはり低成長時代に経済的にも機能しない。
経済原理の逸脱
人材が不足すれば労賃が上がるという市場原理がある。
*黒死病で欧州人口が激減すると、労賃が上昇し、人海戦術である封建制が成り立たなくなった。それゆえアフリカ奴隷・植民地・技術革新による産業革命が起こってきた。
・外食産業、出店攻勢でバイト不足 他業種と人材奪い合いに(2013/6/17産経新聞)
*日本の成長期に高卒は「金の卵」と呼ばれ、激しい人材獲得競争の末に地方出身者用の貸切
列車まで登場した
*バブル期の人材獲得競争では、会社は経費で風俗にまで連れていって入社させようと努力し
ていた
また芸人ガリガリガリクソンのラーメン屋が近隣のラーメン屋より一段と安い時給で最終的に倒産したように、賃金もまた競争アイテムである。それが市場原理である。
・ガリガリガリクソン プロデュースのラーメン店が“クーデター閉店”(2013/2/27スポニチ)
■人材不足でも賃金上がらない
しかし看護・介護・建設作業など、不足しているにも関わらず賃金が上がらない経済分野がある。これは市場経済として歪んでいるからである。どうしても上がらないように市場原理を無効化しているのである。
・インドネシア、フィリピン、ベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて(厚労省)
・低賃金に揺れる介護職員(公明党)
・建設業35%、人手不足 被災7県は64% 復興に支障(2013/2/15朝日新聞)
人材不足だが絶対低賃金で働かせたい?それなら奴隷制か第三世界からの移民労働しかない。
介護は尊い仕事だああ! あなたのかわいい息子にやらせますか?うんにゃ。
のりぴーも介護は辞めたよ
そのうちドストエフスキーの『罪と罰』みたいになる
さらに昨今の労働市場には経済原理・市場原理の逸脱がある。これは現行制度が経済的妥当性なく、身分制的発想で作られていることを物語る。
・経済学の常識からみると派遣社員の賃金は正社員より高くすべき(2011/10/17ダイヤモンド)
経済原理 スポット料金=高い ←→ 年間サービス料金=安い
歪んだ雇用 短期労働=単価も安い ←→ 生涯保証労働=単価に直すと高い
福利厚生なし 公務員や正社員
交通費自前 (年金・退職金・福利厚生・交通費)
賃金比較 非正規年収196.4万円 ←→ 正規年収317万円(福利厚生退職金除く)
比重の大きい正規社員をこのような保証で守り続ければ、経済は高コスト体質の低迷となる。デフレになって当たり前である。それでいて非正規をもってしてもグローバル価格競争には勝てない。そもそも「非正規を導入すれば中国の人件費に勝てる」というものではない。
最初から時間稼ぎに過ぎない。
ただ抜本的改革をやるとすべての勤労者に嫌われるリスクがあるため、政治家も誰も何もできないだけである。いつか壊れた時にオーバーホールすることができるだろう。
文化ステレオタイプによる各国解決法
マシンが故障した!どうする?
ドイツ人 →徹底的に調査し完全に修理する(完璧主義)
アメリカ人 →部品を交換して済ませる(修理コストを嫌う)
ロシア人 →マシンごと取り替える(修理する能力がない)
日本人 →だましだまし使う(いつか手遅れの事故に)
■どうやって賃金を下げるか→サービス残業
しかし現在の正社員もこの世の春を謳歌しているわけではない。
だが経済低迷においても正社員の基本給を下げるのは難しい。
どうしたら下げられるか。
答えは簡単。
労働時間を長くすれば、単位労働価格は安くなる。また時給で働くことの多い非正規も単位労働価格の低下に貢献している。
だから過労死は、実質的賃下げのための便法の結果と言えるかもしれない。
日本の会社も、経済組織として何ら変わりなく、低迷期に給料を守る余裕などない。正社員の解雇が難しいなら、別の方法で目的を達成しなければならない。
そして正社員の一部は、解雇されるくらいなら過労死するまで働いてしまう。
どうしても解雇したい場合には、日本独特の方法で自主退職に持っていく。それは陰湿とされている。
終身雇用というシステム自体に無理がきているのに、建前上守ろうとすると、大きな歪み・狂気が生じてしまうということだ。
さらに官尊民卑
こうした民間労働市場の「身分化」にはさらに公職員・国策企業正社員という身分が負荷されている。
「大き過ぎて潰せない(Too Big To Fail)」ではなく「絶対公金で救う」各種の国策企業がある。電力会社などは社員の福利厚生用のスポーツ用具から社宅の費用まで電気代に入れてしまうのだ。総括原価方式では公務員と同じであるし、給与と福利厚生が保証された私企業というのはおかしい。「電気を握った俺たちに保証を!電気は人質!」である。
・<関西電力>社宅空き室維持費 電気料金に(2013/6/16毎日新聞)
また、ちなみに地方では、地方公務員の方が地方民間企業より賃金も高いというイメージがある。これは手当ても含めた総額での話かもしれないが。確かに土建屋と公務員しかいない町で、土建屋より給料待遇が良さそうである。同等でもダメで「保証がある分」下げろというのが不満の声の背後にあるのだろう。当然、地方によっては国家公務員より低いところもある。また、警察・消防・自衛隊などは職務性質上、この議論の枠外である。外郭団体の天下り等制度外の「身内保障(公務員の絆)」も公務員が思う以上に憎まれている。
・地方公務員“高給”の実態…国家公務員と“逆転現象” (2013/1/25zakzak)
地方中小企業=リスク ←→ 地方公務員=生涯保証
ボーナス減 保証された上にさらに賃金も良い!
リストラ・倒産 地元民間企業平均より良い!
経済原理に反する構造には持続可能性がない。
また休暇取得を法律で厳しく奨励した場合、必ずその恩恵に預かれるのが公務員である。民間では労働法令違反は契約違反でも犯罪とも思われていないから、建前を固めても効果などない。
これだけ経済合理性が歪んでいる内需が、そう簡単にデフレから立ち直れるわけがない。さながら一人の現場作業員に数人の中間者がぶらさがって飯を食っている(紅顔座食)ような、コスト高体質である。これはパイが拡大していく高度成長期だけ可能な体制である。
恩情的な生涯保障からドライな契約原理へ
とにかく、すべての労働者の身分保証を撤廃するか、すべてを守るか。そうでないと身分ができてしまう。
労働身分制 ← → すべてに保障なし
労働を「ご恩と奉公」ではなく契約原理と民間保険で作っていくべきではないか。
■欧米の「自己責任」は「言われないことはやらない(契約外だから)」
イギリスはまさに「自己責任」の国だが、だからこそ「言われないことはやらない」「職務内容に書かれてないことは拒否」という自己責任である。夜9時まで働かせただけでニュースになる。「自己責任なのでそれはできません」ということになる。日本の親父社長には厄介だ。
だから欧米の求人では職務内容が極めて微細である。また「ホワイトカラーは全員社長候補!」などというゼネラリスト(専門なし)は少ない。マーケター(Marketer)という語はあるが、マーケティング担当という語は異例である。それは日本のゼネラリストが各種の職務(担当)を転々とするゼネラリストだからである。経理から広報へという異動もある。欧米では余程零細でない限り、それは考えにくい。
つまり欧米では専門職化・技能職化による分掌が著しく、資格も多い。中世ギルドの伝統もあるのだろう。海外に行って欧米人や非日本人を雇う経営者はその旨、注意すべきである。「滅私奉公」はガラパゴス思想だからである。
戦時中に日本軍に捕虜になった米兵が「捕虜の国際法上の権利」を要求したことを思い起こすべきだ。「てやんでえ!権利権利と言いやがる」という脳みそでは「自己責任権利社会」など無理だ。
だから現在の日本の「自己責任でしかも滅私奉公」というのは、二枚舌の詭弁である。
■日本もブラック企業のおかげで、どんどんドライになる
幸い、「死ぬまで働け/死んだら自己責任だ」と言う経営者らの発言のおかげで「ご恩と奉公」は急速にしらけつつある。日本でもドライな関係となっていくだろう。
*毛利元就の身代わりとなって死んだ武将の一族を毛利は幕末まで面倒を見続けた。これなら「ご恩と奉公」は機能する。
・死ぬまで働け ワタミ社内冊子(2013/6/11ガジェット通信
)
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そうなれば「制度上休暇はあるが休暇は取るな」という契約逸脱はできない。「wage and benefits(賃金と福利厚生)」は契約上は支払い代金と同じ対価である。現在ここが機能していないのは「一生お世話になり養ってもらう」という「ご恩と奉公」の感覚のせいである。だがいつでもクビになるのが当たり前なら「滅私奉公」も完全に崩壊する。自己責任を標榜する社長は、これを知っておくべきである。
*それゆえ派遣社員に対してはサービス残業はない。それをすると派遣元会社(外注先)を騙す契約違反という意識が日本企業にもあるからである。
長期的な人口減少トレンドは
2030年頃から日本で減少一方の人口減少が起こる。
「人材不足だが絶対低賃金で働かせたい」という経営者の願いはますます困難となる。現場というのは絶対必要なのである。手配師はいるが現場要員がいないのではプロジェクトは実行できない。ゼネコン型の中間層の多い体制では立ち行かなくなる。大きな産業改革が必要ではないか?
これに対して女性の大胆な活用か移民政策しかないが「どちらも嫌」というのが現在である。
人口縮小に合せて事業を縮小するというなら、日本経済にはマイナスの圧力がかかる。2030年までに経済妥当性のある労働制度を作っておいた方がいい。現在は建前と詭弁でごまかしたものだ。