産業の活性化・自由化の推進といっても、日本全国でそれを実施することには大きな抵抗感がつきまとう。例えば日本全体をマカオにすることは、政治的・社会的に不可能であろう。
しかし日本全体が硬直していくことは死に至る病であろう。春夏秋冬のように循環していくこと・変化し続けていくことこそが強さであろう。
*スペイン帝国・大英帝国は滅び去り、アメリカは揺らいでいる。完成されてしまったものは衰退するしかない。
『最も強い者が生き残るのではなく、 最も賢い者が生き延びるでもない。 唯一生き残るのは、変化できる者である』 チャールズ・ダーウィン
そこで「経済特区」という形態は有効であろう。
・「アベノミクス戦略特区」の創設を提言 産業競争力会議(2013/4/4Jcast)
・3大都市圏にアベノミクス戦略特区…政府検討(2013/4/16読売新聞)
これまでの経済特区は
■小泉特区は
小泉政権の構造改革特区の「どぶろく特区」のようなイメージ先行で終わらないようにする必要があるだろう。PDCAを回したらどうだろうか?小泉特区がデフレを終焉させるようなインパクトのある経済的効果が生まれたのだろうか?小泉政権というのは金融の不良債権処理を実現させたというところで役割を終え、残りは自由化の掛け声だけで派遣法自由化以外には産業に切り込むような具体的なものはなかったと言えるのではないか。
・小泉政権の構造改革特別地域(wikipedia)
*政府は小泉特区に具体的な方向を付けず民間の提案を待つ姿勢だったが、企業も無関心
*小泉特区は政府が自治体に規制緩和メニューを提供するような後見的・消極的なもので小粒すぎる
■菅特区は
菅政権の「21の国家戦略プロジェクト」の「総合特区」はまったく黙殺されたのみであるし、誰も何も期待しなかったというところではないか。小泉特区の修正版と言えたが、インパクトはなかった。要するに地域の自立性に任せるという姿勢ではうまく動かない。省庁と自治体が複雑な折衝を続けるようなものでは、経済・金融・税におけるアピールは失われる。
・新成長戦略における「7つの成長分野」と「21の国家戦略プロジェクト」(2010ロイター)
*「総合特区」は認定作業に多くの時間が費やされたようである
安倍特区は異次元か
さて安倍政権の「アベノミクス戦略特区」は、小泉特区・菅特区よりはマシなのであろうか?かつての経済特区の反省に上に立っているものであろうか?
成功した地区が今後の日本経済のモデルとなるような実験的な成果のあるものとならないと、菅特区程度のものに終わるだろう。
結局のところ、日銀が証券債券等ストック資産を高く誘導できるとしても、日本国内に旨味のある投資地域が生まれなければ内需活性化にはならない。
金融をふくらませた後は、産業の筋肉が増していく必要がある。そうでないと特定資産の名目価値だけが膨れ上がるバブルになる。また物価上昇が起こっても利益が拡大せず雇用・賃金も伸びないスタグフレーションになる。
エンジンのかからない耕運機のように、ただ何度も点火を試みるだけでは、バリバリと動き出してはいかない。異次元緩和という形で「燃料満タン」にするというのと、素晴らしく走るかどうかは別問題だ。燃料が満タンでも、ダメなエンジンと素晴らしいエンジンは走り方が大きく異なる。
■地域直接投資の拡大が必要
マネーが地域直接投資となり、事業拡大となり、雇用拡大となり、雇用競争となって初めて賃金水準も上昇する。そのように誘導する必要がある。
資産投資や海外工場の建設は、投機と産業流出につながる道だ。列島内への設備投資の拡大を招かないと、いつまでも内需停滞からも脱却できない。
また地域直接投資は、有価証券と異なり、簡単には引き上げられない長期投資となる点が相場投資より意味がある点である。1997年の「アジア通貨危機」にこりた東南アジア諸国が外国直接投資(FDI)の方式を好んでいるのもそのためであろう。ストック資産の短期的高騰だけでは足りない。
*直接投資は、キャピタルゲインやインカムゲインよりも雇用創出効果が大きい
地域直接投資 ←→ 相場投資(日銀により株高・REIT高・債券高は保証)
インフラ投資・営業所 インカムゲイン・キャピタルゲイン/
雇用創出 変動によっては随時投げ捨て
こうなると、土地取得から認可に至るまで例外制度を作る必要がある。
海外投資家が目を付けるようなものは、日銀低金利を利用して資金を調達し日本企業も投資競争していけるはずであろう。
自由貿易地域としてのペナン島の例
■マレーシアのペナン島
マレーシアはマハティール首相の経済振興策以降、経済開発が着々と進んでいる。マハティール首相は「ルックイースト」で日本を手本にしていた。だが今度は日本がマレーシアを手本にすべきかもしれない。
ペナン島はマレーシアにおけるFTZ(自由貿易地域)として経済の牽引車となっている。
・世界の中のマレーシア 熊谷聡 日本貿易振興機構アジア経済研究所 研究員
インドと中国を海路で接続する中継地としては、古来はシンガポールではなくペナン島であった。東南アジアには様々な民族・部族・宗教があるが、資源と商品作物に恵まれ、競争が激しかった。
・7世紀頃にはペナン島はインド・中国をつなぐ航海補給地に
~以降香辛料貿易で栄える
・1750年:マレーのクダ王国が海賊の根城となったペナン島攻撃
~タイ(シャム族)とマレーの対立もあり海賊根絶できず
・1876年:イギリスがペナン島植民化後に自由貿易港に。
~オランダが植民したインドネシアのバタヴィアとの競争に勝ち、海峡交易を独占。
・1806年:ナポレオン大陸封鎖令でペナン島香辛料プランテーション計画頓挫
~東インド会社がペナン島開発から手を引く/ビルマとタイが南下開始
・1819年:シンガポール建設によりペナン島の地位後退
・1861年:米南北戦争で缶詰一般化・石炭と錫の交易でペナン島復活
・1869年:スエズ運河開設によりマラッカ海峡地位復活・ペナン島交易増大
・1900年:ペナン島が錫輸送で活況/コーヒー暴落には天然ゴムで代替
・1941年:日本の「マレー作戦」で占領・日本海軍の重要拠点に。ドイツ軍Uボートも寄航。
・1969年:マレーシア民族紛争・マレー人と華僑の流血惨事。ペナン政局も混迷
・その後FTZ(自由貿易地域)を設定しエレクトロニクス産業誘致等が成功。
東南アジアのシリコンバレーと呼ばれるほどに。
マレーシアはマレー民族や華僑などの民族を擁する極めてアジア的な他民族連邦国家であり、州は世襲スルタンが統治するというイスラム伝統領邦でもある。つまり考え方によっては、日本人以上に保守的な国にもなりえる。
しかしFTZ(自由貿易地域)ペナン島を持つことで、ペナン州はマレーシアGDPの10%という最大の稼ぎ頭となっている。これはインパクトがある実例であろう。
■鎖国下の日本にも「長崎の出島」があった
日本のFTZは現在沖縄のみ。沖縄は軍事拠点としての性格が強すぎて日本経済に波及する刺激剤としての自由貿易地域としては弱い。
*米軍がすべて撤退しても、沖縄はやはり軍事拠点であり続けるだろう。
日本は鎖国という時代はあったものの、そこでも長崎の出島という特別交易地があった。
・1543年:ポルトガル商船が種子島に漂着
・1580年:キリシタン大名大村純忠が長崎開港
~ポルトガルが中国マカオ経由の絹貿易独占
・1634年:徳川幕府がポルトガル商人管理のため長崎の出島(人工島)建設
・1639年:徳川幕府がポルトガル商人追放
・1641年:徳川幕府がオランダ商人と長崎交易開始
~中国・インドの物産、絹、砂糖、鹿皮・鮫皮
アベノミクス特区が小泉特区、菅特区のようなもので終わらないためには、長崎の出島のような特別地域が必要ではないか?
国家直轄による特別区
これまでの経済特区の「地域の実情に合わせる」という地域主導ではうまくいかない。
地域は、原発誘致などの戦後型方式に慣れきってきた。要するに、地域は国からカネや保証が降りてくるのを期待しているだけであって、「自由」を与えられても使いこなせず、アイデアもない。地方公務員が小さな公営事業を作るのであれば最悪である。また東京に本社のない零細地域企業に任せるのでは小粒すぎてインパクトがない。
*また地方議員は国会議員の下請けとして公共工事で具体的な采配をする
むしろ経済特区は、地域の都合を無視するためにも、地方自治を廃した国家直轄地域として強権で特殊地域を創設し、内外の事業家にアピールすべきであろう。
各省庁の煩雑な手続き・地方のしがらみ・自治体公職員の手続き・そういったものが企業側の投資意欲を減退させているはずである。だとすれば、省庁や自治体がデザインする官製の方向は取らないほうがいい。
■東京ディズニーランドの成功は
ところで東京ディズニーランド誕生の背後には、埋め立て地開発から始まり寄り合い所帯の中で激しい暗躍闘争があったという。漁業権の放棄を迫るために大量のカネがばらまかれる等、逆説的に言えば鳴り物入りの大開発は夥しい利害関係者の衝突でインパクトのない失敗した開発になっていきかねない難しさがある。こうした無数の利害関係を「大きな目的」のために遮断できなければインパクトのある開発はなしえない。結果的にはディズニーランドは成功だったのではないか。
・ドロドロ!? ディズニーランド建設秘話(BusinessJournal)
■大阪の数々の失敗は
60年代に始まった大阪のバイオ都市構想「彩都」は、独立行政法人都市再生機構の思惑が壊れて「負の遺産」となっているという。自治体職員や独立行政法人の思惑で特区などやらないほうがいい。たくさんの失敗例があり、これを民間が広く批判点検というPDCAを回して反面教師として参考にすべきだ。
*彩都はニュータウン建設が本音でバイオはネタにすぎず武田薬品すら誘致できなかった
*大阪府の茨木市・箕面市にも何か持たせてやりたいという政治的理屈でビジネス上の利点は2の次の開発だったに違いない。工場集中禁止のような政治的分配は資本主義を殺すものである。
・【北摂】大阪府無駄物件図鑑「国際文化公園都市・彩都」(大阪DEEP案内)
・今尚「負の遺産」を返済中/3セク負債に税金を投入中の大阪市問題(wikipedia)
無数の利害関係者の調整に任せるだけでは国家的に自由化・活性化にメスを入れるようなものは作れないのではないか?
国家の直轄による一国二制度的「長崎の出島」
つまり、軍事基地を国家が直轄運営する感覚でお膳立てを進めるべきではないか?
*国家の国防権が不明瞭であるため、沖縄等で米軍基地への地方の反対があるわけである
*国、県、市町村の想いが食い違うと調整は大変厄介で長期にわたるものになる
経済特区は、国が借り上げた上で、地方自治を排除したシンプルな直轄管理とし、他の日本国内とは全く異なる特例自由化措置を次々と打ち出し「長崎の出島」のように大胆にやるべきだろう。投資を呼び込むのである。
*東京は23区を東京都直轄としたことが都市として大きな発展を保証した。小自治体を内部にちりばめると二重行政等の無駄なしがらみの多い大阪のようになってしまっていただろう。
規制緩和云々の特別申請書類の山を参加者に要求し「へえ、あんたやりたいの」と官僚的に処理させるのではなく、最初から当該地区が通常の日本とは異なる治外法権地域にしてしまうことだ。
「一国二制度」の覚悟でやる。そこまでやると「異次元」である。
こういう政策は通常は「国賊!」とも言われかねないが、右寄りタカ派という認知をされている安倍政権であれば実施可能である。
デフレを生じさせている原因、グローバル化と少子高齢化は大きな重荷なので、これを払拭するには驚くべきショック療法が必要となる。
戦後型しがらみから抜けられない不便な港湾、狭すぎる国際展示場など世界ハブとしての日本の地位は70年代以降恐ろしく低下してきている。海外展開も行っているメーカの日本人にとって、神戸港ですら「手続きが遅すぎる」港となっている。欺瞞や言い訳をせず、ダメなところを潰してゆくべきではないか。日本の地位を取り戻す必要がある。
・東京ビッグサイトは「世界で68位」(2013/3/22WIRED)
展示場面積
ドイツ ハノーヴァー 47万平方メートル(世界一)
イタリア ミラノ 34万平方メートル
中国 広州 33万平方メートル(アジア最大)
フランス パリ 24万平方メートル
アメリカ シカゴ 24万平方メートル
中国 上海 20万平方メートル
日本東京ビッグサイト 8万平方メートル(日本最大ち、ちいせえ)
*出展お断り状態/客は外国展示場に流出中
↓
このままでは世界的イベントは日本で開催されなくなる
まとめて言えば、日本の中にペナン島やシンガポールを作る気で国家主導で民間の地域投資促進をやるべきである。そして官僚に事業を握らせないことである。
また東北復興の加速のためには、煩雑な利権調整を必要とする補助金をばらまくよりも「期限付き無税地域」という「驚きの特典」により民間資金を呼び込むべきである。資金と物量を呼び込めない公金だけの復興では、復興速度も遅くなる。震災地域を無税化することは、当該地域が受けたダメージを考えればちっとも不公平ではない。
・「復興遅れている」66% 宮城県民意識調査(2013/3/16河北新報)