グーグルはどこへ行く
検索エンジンで一世を風靡し、次々と新しいITの世界を提示してきたグーグルは、中国からの全面撤退をにおわせ話題となっている。グーグルのシステムがハックされて知的財産が盗まれ、また中国人権活動家のGmailに侵入されたということがいわれている。
・グーグル、中国からの全面撤退も視野(2010.01.13産経新聞)
・<グーグル>米、中国に公式懸念表明へ(2010.01.16毎日新聞)
・社説:グーグル検閲 中国の品位の問題だ(2010.01.15毎日新聞)
・Chinese authorities behind Google attack, researcher claims(2010.01.15COMPUTERWORLD)
マイクロソフト等も含め、中国に進出した企業は中国の「法」すなわち全体主義的な言論統制にも協力してきた。欧米は一部のリベラルを除いてチベット問題にも目をつぶってきた。日本の場合、チベット問題で激高したのはタカ派と呼ばれた人達で、リベラルは黙り込んでいた。普段人権に熱心なリベラル派にもかかわらず。皮肉なことだ。
日本も含めた先進諸国が行き詰っている中、世界経済を牽引する勢いの中国でのビジネスにあやかることは、未曾有の経済危機によってますます切実となっている。
つまり、中国が肥え太るようになっていかないと先進諸国も困るわけだ。中国の覇権的地位を認めて目をつぶっていこうというのが、各国の現実主義的な思惑であろうか。
そんな中で、グーグルが声をあげたのは異例という感じがする。それは中国での市場とビジネスを失う可能性もはらむからである。ちなみに中国の検索エンジンのシェアでは中国の「百度(バイドゥ)」が6割以上のシェアを獲得し、グーグルは劣勢らしい。
日本のニュースではあまりどぎつい表現はないが、欧米ニュースでは、マルウェアの精巧さから中国政府自体が関与したともされている。単にセキュリティが破られた程度ではなく、完全に侵入されたらしい。中国人権活動家のメールの監視という目的もまた中国当局らしい。中国当局はこの後どう出るであろうか。
中国は資本主義国家というには歪んだシステムだ。だのに世界がうらやむ経済発展を継続し、また技術の進歩や経済の豊かさが増す中で、全体主義・思想言論統制の体制をとっている。つまり、いままで皆が目をつぶっているだけで、もともとわれわれの生きる世界・理想とする世界とはまったく異なる世界のまま君臨しているのだ。
権力によるメールの改ざん・政治批判の除去、権力に都合の悪いことは一切隠蔽されるという世界は、われわれの理想からすれば地獄である。
先進諸国は対中輸出への依存はやめられないだろう。しかし、中国というものが世界に組み込まれた誤魔化しがたい大きな矛盾として育っていくのは確実だ。
日本の「嫌中」など
現在では日本の「嫌中」は鳴りを潜めている。かつては靖国問題を契機に「嫌中」が沸騰し、毒ギョーザ事件などもこれに輪をかけた。
日本の「嫌中ムード」は、小泉首相が去ることで転機を迎え、福田首相時代には「日中互恵」の波によって下火にはなっている。今では中国の反日家は中国当局から監視され、「日中互恵ムード」の中で、中国人の対日好感度のほうが、日本人の対中好感度を上回るほどになっている。「日中互恵」は政治的なもので、北京オリンピックで中国は「日本海」表記の世界地図を上映し韓国人の怒りをかった。
東アジアの国々の距離はそれぞれ変化してきているということなのか?
従軍慰安婦問題など歴史問題での安倍首相の押さえ込まれ方をみると、中韓というより最終的には欧米が日本の「嫌中ムード」やナショナリズムを牽制したかんじだった。
あのタカ派的な高まりの背後には、日本人があまり熟知してない緊迫した中台関係もあった。日本だけのナショナリズムの高まりとか、そういう単純なものではない。つまり中国の執拗な外交戦略のおかげで国際的に孤立した台湾の独立派にとって、日本人の「嫌中ムード」を応援することは有益なのだ。台湾も狡猾に生き残っていかねばならない。あの高まりはただの学術的史実だとか歴史認識云々ではない。
また朝鮮半島分断をアメリカのせいと捉えた韓国の反米化も顕著であった。
たしかに東アジア情勢は「太平の眠り」とはまったくいえない状況でもあった。経済以外の側面はわれわれの想像以上に頑迷でキナ臭い。たしかに当時は「タカ派ムード」が盛り上がる時勢の素地はあった。しかし多くの日本人は台湾海峡や東シナ海など自分達に無関係な世界だと思っている。
<いろいろ議論が沸騰した小泉時代と東アジア周辺>
・1993年:北朝鮮がノドンの発射実験
・1995年:中国が台湾近海で大規模軍事演習
・1997年:イギリスが中国に香港返還
・1997年:中国・江沢民国家主席が「一国二制度」による中国統一に言及
台湾・李登輝総統が「一国二制度」を拒否
・1998年:米クリントン大統領が台湾独立不支持表明
・1998年:北朝鮮がテポドン1号発射実験
・2000年:中国が「台湾白書」で統一交渉拒否の場合の武力行使に言及
・2000年:台湾で陳総統誕生(初の政権交代)
・2001年4月:小泉政権誕生
・2001年4月:「新しい歴史教科書をつくる会」教科書が教科書検定合格
・2001年8月:小泉首相が靖国参拝
・2002年1月:米ブッシュ大統領が北朝鮮を「悪の枢軸」とする
・2002年4月:小泉首相が靖国参拝
・2002年7月:靖国神社「遊就館」完成
・2002年9月:小泉首相が北朝鮮訪問・「拉致問題」が大きな議論に
・2002年11月:在韓米軍法廷アメリカ兵無罪により韓国で反米機運
・2002年12月:韓国で盧武鉉大統領選出
・2002年12月:福田官房長官の懇談会が国立追悼施設案の報告書
・2003年1月:小泉首相が靖国参拝
・2003年3月:中国で胡錦濤が国家主席に就任
・2003年6月:日本で『有事関連三法』成立*中国反発
・2003年6月:中国が"TAIWAN"併記パスポートを分裂活動と批判
・2003年8月:台湾の李前総統が「台湾を国名に」台湾独立意思が鮮明化
・2003年10月:台湾で新憲法制定を求める独立派の大規模デモ
・2003年10月:中国がEUに対中武器輸出解除を要請
・2003年12月:米ブッシュ大統領が台湾独立反対を表明
・2004年:中台双方がそれぞれ大規模軍事演習で威嚇
・2004年3月:韓国で日本統治時代の親日派子孫排斥法成立
・2004年11月:韓国・盧武鉉大統領が北朝鮮主張に理解を示す
・2004年12月:小泉首相が女系天皇等を議論する有識者会議設置
・2005年2月:北朝鮮が核兵器保有宣言
・2005年3月:韓国・盧武鉉大統領が日本植民地支配の謝罪と賠償要求
・2005年3月:中国が『反国家分裂法』で台湾独立への武力行使を法制化
・2005年3月:島根県が「竹島の日」条例
・2005年4月:中国で大規模な反日デモ
・2005年6月:韓国・盧武鉉大統領の発言で米が韓米同盟を危惧
・2005年8月:靖国神社で「英霊にこたえる会」主催の慰霊祭
*台湾総督府国策顧問の金美齢も参加
・2005年11月:有識者会議が女性天皇・女系天皇容認を打ち出し大きな議論に
・2005年:台湾が実効支配する南沙諸島に軍事基地建設開始
・2006年:台湾の陳総統が「台湾」名義での国連加盟に言及
・2006年:台湾の陳総統が小泉首相の靖国参拝を賞賛
・2006年4月:ワシントンポストが韓国による島根県自衛隊攻撃検討を暴露
・2006年7月:北朝鮮がテポドン等発射
・2006年8月:小泉首相が靖国参拝
・2006年8月:韓国が「日本海」改め東海表記の世界地図作成開始
・2006年9月:皇族男子・悠仁親王の誕生で「女性天皇問題」下火に
・2006年9月:小泉政権・総裁任期により退陣
・2007年3月:安倍首相の慰安婦発言が欧米から批判されはじめる
・2007年6月:台湾の李前総統が靖国神社参拝(兄が合祀されている)
・2007年6月:安倍首相がEUの対中武器輸出解禁に反対表明
<鷹派ムードの失速>
・2006年5月:経済同友会が小泉首相に靖国参拝再考を促す
・2006年7月:「昭和天皇メモ」・合祀が天皇意思に反することが判明
・2007年5月:扶桑社が「新しい歴史教科書をつくる会」との関係解消
・2007年7月:安倍政権が参院大敗
・2007年7月:米下院が慰安婦での日本批判決議を成立させる
・2007年9月:「世界華商大会」が神戸・大阪で開催
・2007年9月:福田政権誕生
・2007年12月:福田首相が「台湾独立反対」を誤訳とし「支持しない」に訂正
・2007年12月:韓国で反北親米派の李明博大統領選出
・2008年3月:チベット騒乱
・2008年5月:台湾で非独立派の馬英九総統選出
・2008年5月:中国四川大地震で日本救援隊の好印象報道
・2008年5月:中国・胡錦濤国家主席が来日「日中互恵ムード」に
・2008年7月:中国製ギョーザ中毒の事実公表を福田首相が控えていたことが判明
・2008年10月:米が北朝鮮の「テロ支援国家」指定を解除
・2008年10月:国連人権委が慰安婦問題で日本政府の認識と謝罪を勧告
人権に目をつぶる欧米
中国がオリンピックと万博をもらって世界経済大国の道筋を行くという筋書きがあったとすれば、それは順調に進んでいる。かつてナポレオンは中国を「眠れる獅子」と表現したこともあるが、欧米人の中国という大国の扱いは小国日本とは異なる。
しかし、中国が次第に民主化するだとか、そういう願望は妄想でしかないことも明らかにはなってきた。「天安門事件」の際には、中国内政の暗部も盛んに欧米メディアに登場したが、今では沿岸部の豊かな3億人を目指したビジネスでみんな頭が一杯だ。われわれが手にする日常の消耗品も、世界経済の中で中国が組み込まれた形となっている。
ところで人権・自由などという「近代」のシロモノは、西欧産であった。日本は占領軍の指導で歪んだ部分を矯正されたような形で戦後を歩みだした。
欧米、とりわけ欧州は世界の人権・自由よりもユーロ圏という狭い世界での均衡が最大の関心事なのだ。だからEUは中国に武器を売りチベット問題で目をつぶった。彼らは東アジアの緊張関係は対岸の火事なのだ。
グーグルの一件は、欧米のジレンマを改めて象徴するものだ。日本の方はもともと人権・自由は舶来産でしかないから実はジレンマなどない。日本の「嫌中ムード」もいつの間にか議論もなく下火になる程度のものだった。しかしグーグルの一件はどこへ行くだろうか?
情報革命はパソコンの爆発的な普及に支えられたが、そのパソコンの用途はインターネットであった。グーグルはインターネットの新しい可能性を示せる企業としてITバブル崩壊をものとせずに勃興した。
インターネットは「自由」に更なる可能性を与えるものであるが、反人権・反自由という体制で国家予算を投じてインターネットやメールを監視している中国とはいったい何なのか?こうした中国にあやかることだけが世界の進歩なのか?
経済危機からの脱却にもがいている最中だからこそ、これがために中国輸出にすがりつくからこそ、われわれは中国の姿をもっと見つめるべきではないか。東アジアは不安定要因をかかえこんだ地域だが、日本はそこに座して生き残っていかなければいけない。