北岡元『インテリジェンス入門』慶應義塾大学出版会、2009年(第2版)。 初版の2003年時点では、日本語で「インテリジェンスの教科書」として利用できる書籍は本書しか存在しなかった。間違いなく重要文献。

私は過去に、ノートにメモを取りながら読む精読も行っている。

 

以下、読書メモ

まず第1部では、海外のインテリジェンスの辞書を参照し、「インテリジェンス」の定義から始める。

その結果、インテリジェンスとは「判断・行動するために必要な知識」である、という現在でもそのまま通用する普遍的な定義を明らかにする。

その後、インテリジェンス・サイクルのモデルを検討しながら、本書を貫くキーワードを次々と展開していく。

「初めにリクワイアメントありき」「利益の自覚」「初めにカスタマーの利益ありき」「利益の競合関係」「命令・影響の関係」

インテリジェンスの議論をするならば、上記のキーワードを含む本書の第1部を繰り返し読んで、「思考の枠組み」を作っていかなければならない。常に立ち返るべき基本が、ここにはある。

 

続く第2部は、第1部を土台として具体的な論点に踏み込んでいく。

インテリジェンスの体制のあり方、カスタマーと情報サイドの最初の接触であるリクワイアメント伝達、カスタマーと情報サイドの関係、インフォメーションの収集手法、情報分析、インテリジェンスの保全と情報公開、サードパーティルール、インテリジェンスに関わる人間のキャリアパスや人事、など。

多岐に渡る議論が行われるので、さすがに内容はそこまで深くはないものの、それでも一通りは読んでおきたい。個人的には、「迷ったら帰って来たい」議論をしばしば含んでいる、と、思う。

 

第3部は国家レベルのインテリジェンス・コミュニティについて、50ページほどを割いて、それなりに多くの論点を含んだ議論が展開される。

その後、民間のビジネス・インテリジェンスについても。

 

第4部は、ちょっと内容が古くなってしまっているかもだけど、冷戦終結以降の脅威の拡散・多様化、利害関係の複雑化を受けて、インテリジェンスを取り巻く環境が変化し、新しい形のインテリジェンス・サイクルとネットワーク化の重要性を強調して、本書は締めくくられている。

 

本書の初版が刊行されてから20年が経っているけど、その重要性は変わらず、インテリジェンスに関心があるならば、1度と言わず繰り返し読むべき名著。最早「古典」の域に達していると言ってもよいであろう。今回も再読の価値がある読書だった。