今日から、師走。一年が、駆け足で過ぎて行く。

 

 今夜は、大切なレポートを書こう。

南相馬の、小高のことを。

 

 希望にも、足音があるんだね。

 

 10月21日の朝8時。原発20キロ圏内小高区の秋祭りを手伝い、

歌うため、小高駅のプラットフォームに降りた私の背後に、

100名近くいただろうか、制服の高校生達の足音が。

晴れやかに、力強く、背中を押してくる。

 

 こんなことは、今まで無かった。南相馬に通い始めた6年前から、今に至るまで。

3・11のあの日のまま、小高駅の自転車置き場に停められ、錆びついて行く

高校生達の自転車を、私は何度、目にしただろう。

 

 小高に、学生が戻って来た!歓びが、こみ上げた。

 

 彼らは、この4月に開校した、小高産業技術高校の生徒だった。

小高工業高校と小高商業高校が統合して出来た、新しい学校。

校歌は何と、柳美里作詞、長渕剛作曲!入学式では、長渕剛が

弾き語りで披露したそうだ。みんな、うれしかったろうなぁ。

 

 

 東日本大震災による福島第一原発の爆発で、約1万3千人の小高区の住民は、

避難生活を強いられた。県外の避難所暮らしを転々として、福島に戻っても、

避難指示区域の小高には戻れず、仮設住宅での長屋暮らしを、約6年、耐え忍んだ。

 

 昨年7月の避難指示解除後、少しずつ人が増え、今、約2千200人が、

小高に戻って暮らしている。見えない放射能への不安、除染した土の置き場、

医療、商業施設、ゴミ収集など、問題は山積みだが、生まれ育った故郷は、

やはり落ち着くという。

 

 だが、戻って来た住民のほとんどは高齢者で、子供や孫達は、既に別の土地で

暮らしている。原発事故前は、三世代同居の家庭も多かったので、子供や孫の顔が

見られぬのは、淋しいという。

 

 そんな彼らにとって、この学生達の存在は、どんなにうれしいことだろう。

町に、少しずつ活気が出て来たのを感じた。

 

 

 

 

 

 こんな駐車場も。野馬追の里らしい。甲冑競馬に野馬懸、

神旗争奪戦。千年以上続く武士の伝統、人と馬の祭。

 

 

 

 おだか秋まつりの準備が始まっていた。

目指す、「つながっぺ南相馬」の旗も。

ここで、野菜市を手伝いながら歌うのだ。いざ!

 

 

 つながっぺ南相馬代表の今野さん、事務局長の藤さん、

小高のおなじみさん達と、さぁ、働くぞ。

 

 地元の野菜農家から託された野菜を包み、値札を貼っていく。

太ったねぎが、美味しそう。

 

 

 今野さんのししとうも。

 

 

 美味しい新高梨も、ゴロゴロ。

 

 

 5個300円は、安い!

 

 

 はい、いっちょあがり。

 

 

 

 小高のドキュメンタリー映画を撮りに来ていた慶応大学、

S.A.L.の学生達も、手伝ってくれた。

 

 

 避難指示解除後、小高に戻って、鎌倉時代から続く日鷲神社を守り続ける

神主さんにスポットを当てたドキュメンタリー映画だという。

タイトルは、「音なき潮騒」。私の隣が、監督の有元優喜さん。 

 

 

 休憩時間に、祭の様子をぐるり。

台風が近づき、あいにくの雨だが、昨年より、屋台が多い。

 

 

 みんな、闘っている。

 

 

 

 歌ってもいる。

 

 

 おお、先程の高校生の仮装行列!

 

 

 女の子も、いっぱい。

 

 

 南相馬市長、桜井さんの姿も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか、ホッとするね。

 

 

 

 

 昨年よりも、若い人達の屋台が多い。

 

 

 

 子供もいる。

 

 

 茶房、発見。

 

 

  無料でお茶とお菓子を振舞ってくれた。

 

 

 

 

 

  あっという間に、満席。

 

 

 

 千倉仮設住宅の自治会長だった泉さんの奥さんと再会。

小高に戻っていたんだなぁ。美しい着物姿で、お茶を点ててくれて、感激。

 

 

 

 人気の富くじ入り投げ餅。

 

 

 美味しそう。

 

 

 

 

 両手に、美女。

 

 

 つながっぺ南相馬の今野由喜さんも一緒に。

 

 

 思えば、今野さんとは、かれこれ、5年の付き合いになる。

ギターを持って南相馬に通い始めた当初は、いろんな仮設住宅の集会所に

飛び込みで歌いに行ったりしたものだが、鹿島にある4ヵ所の仮設住宅、

千倉、西町第一、寺内塚合、友伸グラウンドの集会所で、癒しのサロンを開いていた、

つながっぺ南相馬の今野さんと出会い、いろいろサポートしてもらいながら、

そこで定期的に歌うようになった。

 

 仮設住宅には高齢者が多く、部屋に引きこもりがちになるので、同じ被災者の

女性が管理人をするサロンを開き、茶菓やマッサージチェアーで住民をもてなし、

ラジオ体操などの運動の場や、住民が自由に開ける菜園を作り、歌謡教室や

手芸教室を開いたりして、心身の健康を保ってもらうという今野さんの方針に共感し、

私はみんなで懐メロや童謡を歌ってストレスを発散する歌交流会を開いた。

 

 おかげで、普段のライブではやらない、「矢切の渡し」や

「ブルー・ライト・ヨコハマ」などが、十八番になった。

 

 

 福島の民謡を、教えてもらう場面もあった。野馬追の甲冑競馬で優勝した経験のある、

千倉の泉勝明さんが「相馬流れ山」を歌うと、女性達が、スイ~スイ、と囃す。

青空の下、疾走していく騎馬武者の姿が見えるようで、民謡の力ってすごいな、と思った。

 

 

 今野さんも、管理人の女性達もみんな被災者で、津波で家を流されたり、

原発事故で避難生活を強いられていた。被災者が被災者を支える。

被災者だからわかる視点で。人間の力って、すごい。

私は、いつの間にか、南相馬に惚れて通っている自分を感じた。

 

 

 

 

 

 そんなある日、今野さんは言った。

「震災から3年経って、そろそろ明るい歌が必要。

志賀さんが詞を書くから、ラビィさん、元気の出る曲付けてよ」

そうして生まれたのが、「希望の里小高」だった。

 

 私が通う仮設住宅には、小高の人が多かったのだが、

志賀時恵(ときしげ)さんも、小高の人。志賀さんの詞を読んだ時、

涙が止まらなくなった。そうなんだ、小高はこんなにも美しい所なんだ。

みんなで故郷を取り戻そう。そんな気持ちで作曲した。

 

 

 

 

 仮設住宅での新曲発表会。みんなの目の輝きを、今も忘れない。

2014年7月の、野馬追の季節だった。その年の冬、CDを作り、

渡すことが出来た。私の隣が、作詞者の志賀さん。

 

 

 

 

 

 

 あれから3年。仮設住宅は閉鎖になり、避難指示解除になった小高の秋祭で、

今年も歌った。私が「希望の里小高」を歌うと、すぐに歌い出し、

「ラビィさんがいつも歌っていたから」と覚えていてくれる人もいた。

 

 

 祭の二日目には、作詞者の志賀さんも来てくれた。

 

 

 志賀さんも、小高区塚原の家の修復が終わり、戻っていた。

新聞配達がまだ再開されていないので、家から片道45分、

3・5キロの道のりを歩いて、新聞を買いに行くという。

貴重な新聞だなぁ。

 

 今回は、「希望の里小高」の楽譜を作って、持って行った。

志賀さんや、何人かの人から、楽譜がほしいと言われていたのだが、

楽譜というものを書いたことがなくて、どうしたものかと頭を悩ませ、

今の今までかかってしまった。本を読み、詳しい人に教わりながら、

ようやく完成。3年越しの約束を果たすことが出来、ホッとしている。

 

 横浜から来た歌声喫茶の人達も、「希望の里小高」を気に入って、

自分達のイベントに歌いに来ないかと誘ってくれて、うれしかった。

右から、代表の木村早苗さん、ピアノ弾き語りの原口陽子さん。

私の左隣は、小高の孝子さんと美也子さん。

 

 

 野菜市で、今野さんがラジカセを持って来て、「希望の里小高」をかけたら、

何だかすごく、今の小高に合っていて、ああ、これからの歌だなぁ、と思った。

 

 この曲は、志賀さん、今野さん、私の三本の矢。

誰一人欠けても生まれなかった、希望の歌。

 

 小高に戻って、故郷の復興を目指す人々の応援歌となると共に、

外の人達に小高を知ってもらうきっかけになるといいな、と思う。

 

 願わくば、若い人達にも、そう、あの高校生達にも歌ってもらいたいな。

きっとみんなの、希望になると思うよ。

 

 小高よ、いとしの南相馬よ、これからも通い続ける。

 

 共に、歩んで行こう。

 

 人類の未来に向かって。

 

 

●希望の里小高 (作詞: 志賀時恵 作曲:蓮沼ラビィ)

 

 

 

 

 P.S. 東京農工大学講師で、地酒と食文化を学ぶ会の林丈雄さんが、

「福島の地酒文化を楽しむ会」というのをやっていて、ソムリエ教授よろしく、

一般には知られていない、うまい地酒をたくさん紹介してくれた。

 

 

 

 一日目に六種類、堪能したのだが、志賀さんに、一杯飲もうよと誘われ、

二日目も入ってしまった。

 

 

 私のお気に入りは、「豊久仁5年熟成 ひやおろし生詰」。

 

 

 5年熟成した日本酒は、白ワインのごとき味わい。

ラベルも、洒落ているよね。福島の画家の絵だという。

 

 

 

 志賀さんは、「小さな酒屋 無濾過生原酒」を気に入っていた。

うん、これも、辛口で、香り豊かで美味しかった。

 

 

 皆さんも、福島の地酒、飲んでみてくださいね!

 

 

 

 

~近日ライブ~

 

 いよいよ年内、あと2本!

 

 ●12月17日(日)新宿御苑前・Live&Bar Ruto

 

 蓮沼ラビィ誕生54年記念ライブ「命の火で温め合おう」

 

 出演: 蓮沼ラビィ、黄秀彦、小林薫、えどにしき

 開場:17:30 開演:18:00

 料金: 2500円(1ドリンク+軽食+ケーキ付)

 

 

 

●12月30日(土)新宿御苑前・Live&Bar Ruto

 えどにしき企画
 「第4回 Ruto紅白歌合戦」

 開場予定 16:30
 開演予定 17:00
 お客さま料金予定 2000円+1ドリンク・軽食=2500円

 

 ※出演者、詳細、決まり次第、お知らせします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 台