「ブラックベリー」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

1990年代のカナダ・オンタリオ州ウォータールーを舞台にスマートフォンの礎を築いた携帯端末ブラックベリーを開発したマイクと盟友ダグが創業するリサーチ・イン・モーション(RIM)社の栄枯を映し出す実話に基づいた物語。2023年製作。日本劇場未公開。Netflix 等で配信中。

 

富と名声を得るためなのか、自尊心のこだわりなのか、一度やみくもに加速した革新的な企業の成長と衰退、娯楽色に満ちた構成はマイクとダグの心情をうまく捉えている。志を共にした二人の間に経営や政治といった不純物が紛れ込んでくる。やがて二人は決別する。開発者と顧客の相互関係もそこで途絶え、マイクは時流に理解を示さない独占に固執してしまい、世に登場するiPhoneが突きつける脅威にも意に介さない誤謬を犯してしまう。

 

オタクな小道具や美術に歓喜する私たちの遊び心は技術者の研究心にも通じており、ここで企業が邁進する実績重視の合理性を皮肉っている。無駄や非効率ってなんだろう。それを排除すれば良い製品が提供できるのだろうか。否、その先には必ずや驕りが跋扈する。本質を見失った裸の王様の末路、"聞く力" を持たざる孤独に苛まれる。

 

物語構成は巧いのだが、もう少しグルーヴ感があればと欲張ってしまう。かなり練り込んでいてツボを心得ている反面、常套な展開に見えなくもない、"じゃあどうすりゃいいの" と反駁したくなるだろうが、"事実と違う" と "脚色" は似て非なるもの、"失敗してもケガの功名" というエピソードにグルーヴ感は潜んでいる。そしてマイクとダグの親密さをさらに積み重ねていけば、後半の展開も違った局面を描けたのではないだろうか。ラストのマイクのシルエットも悪くないけど冒頭があってのお定まりの域を出ていない。

 

今作のマット・ジョンソン監督は俳優としてダグも演じている。このダグの表情がイイ。ダグこそ世間のモノサシを気にしない真の楽しさを追求する人だろう。世間の注目は何かしらを犠牲にする。マイクはその轍を踏んだ。ダグは世間ではなく人とのつながりを大切にする。それが職場の風紀を乱すことでもお構いなし。こうであらねば、という常識は押し付けがましい価値観であり、ダグは "自由" というある側面 "無責任" と誤解されがちな奔放さを信念を持って行動する。ブラックベリーという製品にも奔放さは兼ね備えていた。だから魅力ある評価を得たにも関わらずそのブランドに盲信してしまったアイロニーにマイクは気付いたのだろうか。

 

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