「マーシャル・ロー」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

1990年代湾岸戦争以後のアメリカ、FBI特別捜査官ハバード(デンゼル・ワシントン)と同僚のフランク(トニー・シャルーブ)はバスジャックの現場に到着する。その車中で爆破されたのはペンキ爆弾であり人質となった乗客が青いペンキにまみれただけで犯人は逃走してしまう。その後犯人からのメッセージが捜査員に届く。「彼を釈放しろ」いったい "彼" は誰なのか、検討がつかぬハバードたちに国家安全保障局のエリース(アネット・ベニング)と名乗る女性が捜査現場に現れる。彼女を訝しむフランクたちは共に捜査するも歯車が噛み合わない中、容疑者が浮上する…1998年製作。エドワード・ズウィック監督作品。ディズニープラスにて配信中。

 

移民国家であるアメリカは、軍事面における他国介入で禍根を残す。米国民に訴える正義はまやかしに過ぎず、戦場となった他国ではアメリカへの恨みを助長する。弱者に耳を貸さぬ軍事大国はやがてテロの犠牲となり、民衆は不安に苛まれテロ首謀者への制裁に賛同する。ここから民族への偏見や差別を許容する悪夢が跋扈する。人びとの分断は、戦争よりも静かに平穏を蝕んでいく。そこに終息はなく、果てに己しか信用出来ないコミュニティー崩壊へと突き進んでいく。

 

物語はテロという無差別暴力から民衆を守る "強きアメリカ" のプロパガンダではなく、後半展開する人種差別や分断でしか保安を確保できないという恣意的な横暴を描いていく。終盤、真犯人を見つけて一件落着的なクライムサスペンス調は鼻白むが、自国への批判を主眼に据えたローレンス・ライトの脚本は気骨がある。

 

この作品は2001年の9.11以前に作り上げている。テロや戦争は非人道的であると明言する姿勢は現在のイスラエル・パレスチナ紛争にも通底する。争いで物事は決して解決しない。そこで犠牲になるのは権力者ではなく民衆の命である。過去の歴史から鑑みても明白な事実が危機的な局面ではなぜか看過される。感情という玉石混交は、時代を経ても様相は変わらない。戦争反対。これは永劫に続く人びとの声である。

 

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