「非常宣言」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

娯楽映画の醍醐味を遺憾なく発揮する物語は、ハイジャック勃発のパニックと危機状況下における愚かな分断という主題で進行する。この "パニックと分断" は正統派な物語構成であり、そこから同盟国の外交手段や自国の隠蔽体質へと紐づけされていくスケールの大きさが緊張感を持続させる。

 

これよりほんのりネタバレあります。ご注意ください。

 

ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン、豪華俳優がそれぞれ見せ場を用意されているが、なんたってソン・ガンホの所作が抜きん出ている。彼は自身の役割として観客を喜ばせる性分を備えている。確信犯さながら "このリアクション待ってたでしょ" ソン・ガンホ定食を堪能できるのだ。これだけで満足度MAXである。

 

冒頭より緊迫する "致死ウィルス" への恐怖、その実行犯がかなり前半で退場するので、この後始末どうなるのかと訝しんでいたら、未知なるウィルス感染への恐怖が瞬く間に伝播していき人の心の弱さへと物語の主軸が移行していく。"テロ" という無差別な暴力よりも恐ろしいのは、共存よりも分断を優先する社会構造の崩壊であり、自己責任なる現代社会の悪癖が根底にある。人命を救う行為へと駆り立てる勇敢な人に自己犠牲が伴う重苦しさが世情を象徴している。

 

この難局を解決へと導いた人々が、もれなく表舞台から降ろされて英雄視されず、企業や国家、組織の力が堅持されるのは皮肉を込めたメッセージであろう。後遺症や辞職、そこに希望ある未来は提示されていないし、権力に唾を吐く反骨精神もやり過ごされてしまい、結局うっすらと家族愛が見えてくる程度ではもどかしい。チョン・ドヨン演じる国土交通省大臣の背景にもプライベートな家族事情が見えてくれば、庶民を支えるべき社会の問題点へと導いたかもしれない。大臣の思わせぶりな物憂い顔で終幕では首を傾げてしまう。実は勝手な予想で、事件をきっかけに赤の他人だった主要人物がコンタクトを取り合って最終対面する「ダイ・ハード」のような展開を期待していたんだけどね。そういえば「ダイ・ハード」も "家族愛" が主題だった。

 

これだけ迅速に動き回る登場人物はリアリティーの欠如なのか、それともこういう決断力の早さに私たちは憧れるのだろうか。私は政治家が事ある度に発する "スピード感を持って" という言葉が好きじゃない。なんだか "ナポリ風…" みたいな感じで、雰囲気だけでごまかそうとしてないかい、と苦言を呈したくなる。今作でも責任を負いたくない権力側が一向に動かない描写は的を得ている。しかし雰囲気でごまかすと言えば、エンドクレジットの曲でドビュッシー "月の光" が奏でられるが、そんな伏線あったのかな、と勘繰ってしまう。これは深読みし過ぎかな。

 

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