「不都合な自由」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

主人公クリスは無実の罪で20年の服役生活を課せられる。仮釈放となって自由を手に入れた彼は、弟の家に居候をして職探しを始めるがなかなか上手くいかない。クリスの心の支えは彼の早期出所を訴え続けた女性キャロルなのだが、彼女はクリスの学生時代の教師であり夫や娘を持つ既婚者なので、恋人の対象とはなり得ない立場であった…

日本未公開作品。2017年製作。Netflixにて配信中。

 

拠り所を求めるクリスの恋心は、もどかしい日常しか手に入らない。前科者に対する社会の蔑みや身内との隔たりによる孤独によって、次第に苛まれる彼はコミュニティの端へと追いやられていく。彼が住む田舎の閉鎖的な街並みがうら寂しさを助長する。

 

孤独への恐れは社会に内包される課題である。もちろん皆平等という訳にはいかないのは承知しており、ここで問われるのは偏見という色眼鏡が互いの距離感を危うくする状況である。近づいていいのか否か、処世術はマニュアル化し難く、人それぞれが経験を踏み失敗を重ねながら適応していく。服役囚はその時間が奪われて取り戻せない。親近者がケアできなければ誰が救いの手を差し伸べるのか、窮状を看過する側が弱者を助ける人に "偽善" と中傷する社会は闇が深い。

 

終盤、キャロルの娘である高校生ヒルディの "仕掛け" が想定以上の映像表現へ辿り着く。ヒルディはここで愛憎の果ての "許し" を提示する。彼女もまた(クリスに対して)叶わぬ恋心を抱いていた。それに気付いたクリスは憤ることなく微笑ましい表情を見せる。ここでクリスは自身の悩みを揉みほぐす、立ち直るきっかけを見出していく。高校生ヒルディ役のケイトリン・デヴァーが良い演技を見せてくれる。

 

クリス役のジェイ・デュプラスは弟マーク・デュプラスと共にデュプラス・ブラザーズ・プロダクションズにて映像製作を継続しており、今作も製作として参加している。地味な作品が多いけど、良い脚本や演者によって完成度を高めている。厳しい現実を背景に心の優しさと憤りを内在するドラマは、古今東西問わず共感できる。多様性への寛容さは、行きつ戻りつする感情の積み重ねからくる。ファストなコンテンツでは積み重ねることなく消費だけ繰り返す。何が楽しいのか、と師走の夜は更けていく。

 

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