「しとやかな獣」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

ある団地の一室が舞台となる物語は、凝ったカメラアングルやフォーカス、天候の変化と家族のマウント取りが交錯して、映像の楽しさから格差社会を風刺した喜劇へと結実していく。新藤兼人脚本、川島雄三監督作品。1962年製作。U-NEXTにて配信中。

 

私たちは金銭欲から抜け出せないのか。この物語は終始お金にまつわる人間の欲望が露呈する。ここで資本主義の限界などと嘆くものではない。豊かさがいつの間にか果てなき欲望の代名詞となり、人生を狂わせる恐怖へと転化される。

 

母親役の山岡久乃が良い表情をする。父親役の伊藤雄之助が侮れない警句を弄する。台詞回しが小気味良く次の展開へと誘う。昔の邦画は言葉がうまく聞き取れない場合が少なくないが、今作はそのストレスが無い。もちろん演者や録音技師の力量(アフレコかも)もあるが脚本による言葉の選択が心地よい。

 

強調される主題は貧困からの脱却である。清貧では満足しない。憎むべし貧しさを克服する背景に戦争があり、その混乱は生活の破壊なのだと訴える反戦のメッセージとなる。国家に裏切られた家族は公助なぞハナから頼らない反骨へと突き進む。しかし過信が過剰を引き寄せて事態がエスカレートすると終着は訪れる。どこで自身を見つめ直せるか、引き返す時機を失うと破滅が待っている。

 

ゴダール逝去の報せは正直驚いた。自殺幇助を選択した彼は人生の終着を自ら決断する。私たちには分からない苦痛の日々であったろう、しかし生きることを全うすることも反骨の精神ではなかろうか。彼の代名詞でもある反骨をある種裏切るような "この経緯" を良しとしない私たちの姿勢こそ反骨であり、ゴダールへの悼みだと考える。

 

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