「mid90s ミッドナインティーズ」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

人気俳優ジョナ・ヒルが初めて脚本・監督に挑んだ青春物語。主人公スティーヴィーや兄イアン、そしてスケボーを通して友情を深めていく仲間たちの人物造形を巧みに演出。後戻りは許されない状況下に陥った彼らが踏み込むアクセルに観客が同調した時、ほんの少し世界が広がっていく。それを体感できる傑作。

 

スティーヴィーが興味を抱くスケートボードという存在は遊戯でもありスポーツでもあり自己主張でもあり精神鍛錬でもある。多面性を帯びた "分身" から何を学んでいくのか。スティーヴィーが親しみを抱くスケボー仲間との距離を少しずつ縮めていく、その過程を挿話の積み重ねで表現していく構成がみずみずしい。

 

音楽などのカルチャーの造詣が深い兄イアンの存在によって弟スティーヴィーの心情も言葉の説明なく理解できる。兄イアンは几帳面でインドア派、友人は少なく臆病な性格。そんな兄に強気な態度で制圧される弟スティーヴィーは、兄に反発するかのごとくアウトドアへと向かい友人の輪を広げる為に積極的な行動に出て女の子に対する性への興味も果敢に挑戦していく。そんなスティーヴィーの一見無鉄砲な姿に共感、そして応援したくなる。早く成長したいスティーヴィーは "兄の存在" ゆえのコンプレックスを抱く純真な少年なのだ。

 

一見無軌道なスケボー仲間にも未成熟な人としての内面が見えてくる。それぞれに悩みや将来への不安を抱く若者としてモラトリアムな時間を過ごす彼らを通して、スティーヴィーは大人への "希望" と "妥協" の道程を意識するようになる。欲言うならば、ラストは過去をプレイバックするのではなく、"あの出来事" から彼らはどう成長していくのか、いわば "祭りのあと" を描くべきだろう。

 

"青春モノ" というカテゴリーには "陰" と "陽" がある。"陽" は目標に向かって挫折や不利益を乗り越えて挑戦するサクセスストーリー、"陰" は夢を抱くも現実という障害によって何かを失っていく経験を糧として前進していく成長物語、どちらが良い悪いという優劣の判断ではなく、"ほろ苦さ" が余韻として残る後者の方が監督自身の内面が見えてくる。生活環境は変わらなくても世界(現実)が少し違って見える瞬間を胸の内にしまい込んでいる。物語を通して観客一人ひとりの胸の内をそっと開いてくれる映画の素晴らしさを改めて教えてくれる。これこそジョナ・ヒルの人柄であろう。ん?かなり持ち上げたけど、何処おろしましょ。

 

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