「ビニー/信じる男」 | やっぱり映画が好き

やっぱり映画が好き

正統派ではない映画論。
しかし邪道ではなく異端でもない。

【ネタバレ】あります。すみません、気を付けてください。

 

今もなお廃れる事なくボクシングを題材にした作品は世に出てくる。私もそれはそれは好きであり、世間の評判に関係なく映画館へ足を運ぶのはただの殴り合いではなく勝負の世界、勝っても負けてもそこに選手や家族、周りのサポーターそれぞれに人生の瞬間がリングという舞台の上に集約されるドラマに魅力を感じるからなのだ。

 

実話に基づいたこの作品は幾分誇張されているだろうが実話であれ虚構であれ、やはりボクシングを媒介にした喜怒哀楽の物語は面白く、リングにおけるファイトシーンと並んで描かれている家族の食卓の場面が印象深い。ビニーの家族はすべからく一堂に会食する。決して裕福ではないビニー達の食卓は、座ったら後ろ通られへんがなってな狭い空間であり、そこで交わされる日常会話で彼らの感情が交錯するとともに、冒頭では単なる自惚れイキリ野郎という印象だった主人公ビニーの背負うモノ "家族からの期待" が次第にみえてくる。そしてラストのビニーの言葉。ここに主題がギュッと詰まっている。モラルや理性ではなく本能として彼は生きることへの手段を選択して結果を導き出す。過程で文句を言う奴は逃げる理由を探しているだけだ、逃げることは容易い選択なのだとストイックに己を責め立てる。これが果たして正解なのか。そう考える時点で理性が働いている。ところが彼は家族やトレーナーが理性で説得することに対して真っ向から否定しない。対立することではなく自身の行動をみせること、言葉ではなく真摯な態度によって周りもまた勝負の世界に引き込まれていく。残酷であり愛情深い。ここに至る人間描写が名場面として数多く描かれる。一つひとつ取り上げるとネタバレも甚だしくなるので割愛。

 

ビニー役のマイルズ・テラーの復帰へと向かう姿が非常に痛々しい。彼の出世作「セッション」しかり、虐待・苦痛に堪える表情がスゴく似合ってる、おまけに車の交通事故に遭いやすい…ん、これは偶然。そしてなんたってアーロン・エッカートのトレーナーの演技に太鼓判。でっぷりとした腹、そしてあのハゲっぷりはヅラなのか、剃ったのか、他の追随を許すべからず名脇役の道へと突き進んでいるよね。そうそう余談、嫌味なプロモーター親子の息子が頭にのせてるヅラの安っぽさ加減がイイ塩梅、自称ヅラウオッチャーの私はこういう細かい演出好きなんです。

 

私が最近の実話モノに対して危惧している "その後のテロップ&スナップ写真"(略称テロ・スナ)、今回はテロップそのものがなく終幕します、グッジョブ。そして当時の報道映像がエンドロールに挿入されるも特典映像のようなご本人インタビューではないので嫌ではない、くどくない。エンディング曲もイイ。脚本・監督のベン・ヤンガーによる実に細かいさじ加減が見事、この味好きだなぁ。私にとってベン・ヤンガー監督作品はこれが初めてだが、次の作品では "いつもの…" と通ぶってワンアップ目指してみます。

 

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