投資を長く続けていると、「もっと早く乗り換えておけばよかった」と思うことがある。
私の場合、それが日本株だった。
ここ10年ほどを振り返れば、投資の主役は明らかに米国株だった。
S&P500、NASDAQ、GAFAM、Magnificent 7。
一方の日本株は長い間パッとしなかった。
日経平均は1989年につけた最高値を30年以上更新できず、「人口が減る日本に成長余地はない」「日本株より米国株」といった話を何度も聞いた。
そんな中、私は日本株をかなり多く持っていた。
ここで「日本企業の復活を予想していた」とでも書ければ格好いいのだが、残念ながらそんなことはない。
理由はもっと単純だ。
売るのが面倒だったので、そのまま持っていた。
米国株に乗り換える方が合理的に見えた
当時の状況を考えれば、日本株を売って米国株へ移すという判断には十分な合理性があったと思う。
実際、私自身もS&P500やNASDAQへの投資を増やしていった。
ただ、だからといって昔から持っている日本株を全部売って乗り換えることまではしなかった。
「そのうち整理しよう」
と思いながら、何年も経った。
要するに、投資家として俊敏だったわけではない。
むしろ完全に周回遅れだった。
ところが、ここ数年で景色が大きく変わった。
日本株が急上昇し、日経平均は長年超えられなかったバブル期の最高値を突破。その後も上昇した。
長年持っていた個別株にも、大きく値上がりするものが出てきた。
たとえば2019年に買ったアシックスは、その後大きく上昇した。スシローやゼンショーなど、長く保有している銘柄にも大きく伸びたものがある。
ただし、これらを事前に予想していたわけではない。
本当に、ただ持っていただけだ。
これは成功談というより「予想することの難しさ」の話
だから、この経験を「私の銘柄選びが正しかった」という話にはしたくない。
むしろ逆だ。
私が感じたのは、
未来の勝者を事前に当てるのは、やっぱり難しい
ということだった。
もし数年前の私がもっと機敏な投資家だったら、
「日本株は成長しない」
「米国企業の方が圧倒的に優秀だ」
と判断して、日本株を整理していた可能性がある。
その判断は、当時得られた情報から考えれば決しておかしくなかったと思う。
しかし、そうしていたら、その後の日本株上昇の恩恵も受けられなかった。
反対に私は、積極的な判断をしなかった。
そして結果として、長い停滞の後にやってきた上昇局面にも居合わせることができた。
これは投資の才能というより、かなりの部分が偶然だと思う。
「周回遅れ」が悪いとは限らない
そこで思った。
投資では常に「今、一番伸びているもの」に乗っている必要はないのかもしれない。
米国株が強ければ米国株。
NASDAQが強ければNASDAQ。
AI株が強ければAI株。
次はインドだと思えばインド株。
それを正確に繰り返せる人なら、素晴らしいリターンを得られるだろう。
しかし私には、たぶん無理だ。
なぜなら乗り換えるためには、
「これから上がるもの」
だけでなく、
「今持っているものは、もうそれほど上がらない」
ということまで当てなければならないからだ。
アシックスを例にすれば、2019年に「この会社の株価は数年後にこれほど上がる」と予想できたわけではない。
同じように、今低迷している企業や市場の中にも、10年後の勝者がいるかもしれない。
私にはそれを見分ける自信はない。
だったら、無理に全部を見分けなくてもいいのではないか。
労働市場では短所、投資では長所?
そして、もう一つ面白いと思うことがある。
私は自分自身、かなり面倒くさがりだと思う。
テキトーなところもあるし、興味がないことにはかなり鈍感だ。
「もっとこまめにチェックしよう」
「きちんと整理しよう」
と思っていても、結局放置してしまうことも多い。
普通、こういう性格は褒められない。
少なくとも労働市場では、
鈍感、何もしない、怠け者、面倒くさがり。
どれも基本的にはマイナス評価だろう。
仕事なら、状況の変化に素早く気づき、考え、判断し、行動する人の方が評価される。
「何もしませんでした」
と言って評価される会社員は、まずいない。
ところが投資の世界に入ると、これが時々180度ひっくり返る。
株価が暴落しても鈍感。
ニュースを見ても何もしない。
他人が儲けていても気にしない。
ポートフォリオを毎日のようにいじるのも面倒。
だから売らない。
そして10年経つ。
……あれ? むしろその方がよかったのでは?
となることがある。
これは面白い。
もちろん、本当に何も考えないことを勧めているわけではない。
倒産しそうな会社を「面倒だから」という理由で持ち続けるのは違う。
しかし、長期的に価値を生み続ける企業や、広く分散されたインデックスを持っているのであれば、
「余計なことをしない」という能力には、かなりの価値がある。
鈍感力は長期投資の武器になる?
考えてみれば、投資では人間の優秀さが裏目に出ることがある。
頭のいい人ほどたくさんの情報を集める。
分析する。
将来を予想する。
そして行動する。
もちろん、それで成功する人もいる。
しかし行動する回数が増えれば、間違える回数も増える。
一方、鈍感な人間は、
「まあいいか」
と放置する。
その結果、企業が本当に大きく化けたときにも、まだ株主でいる。
私自身、以前ならこの性格を投資家としての怠慢だと思っていた。
最近は少し考え方が変わった。
もしかすると、この「鈍感力」は長期投資ではかなり強い武器なのではないか。
そして何より、
テキトーで面倒くさがり屋の自分には、長期投資という方法そのものが意外と合っているのかもしれない。
と思うようになった。
仕事では「もっと早くやれ」「もっと考えろ」「ちゃんとフォローしろ」と言われるような性格が、投資では「余計なことをしない」という長所になる。
同じ人間なのに、場所が変わるだけで短所と長所が逆転する。
私はそこが面白いと思う。
「何もしない」は意外と難しい
とはいえ、「長期投資なんだから、買って持っておけばいい」と言うのは簡単だ。
10年、20年という期間では、意外と難しい。
その間には、
「日本株は終わった」
「米国株一択だ」
「これからは新興国だ」
「この業界に未来はない」
といった話が何度も出てくる。
そして、そのたびに自分のポートフォリオをいじりたくなる。
でも、そこで一度考えてみる。
本当に状況が変わったのか。それとも、単に最近上がっていないだけなのか。
後者なら、何もしないという選択肢もある。
次の勝者を当てなくてもいい
今回の経験から、自分の投資について少し考え方が変わった。
以前は、
「これから最も上がる資産は何だろう」
と考えることが多かった。
今は、
「次の勝者を全部当てる必要はない」
と思うようになった。
S&P500も持つ。
NASDAQも持つ。
日本の優良企業も持つ。
少し金も持つ。
そして生活に必要な現金は確保する。
どれが次の10年間で一番上がるのかは分からない。
分からないのだから、無理に全部を当てにいかない。
一度これはと思って買ったものについては、投資した理由そのものが崩れない限り、簡単には手放さない。
それくらいでいいのかもしれない。
周回遅れでも走り続ける
投資の世界では、毎日のように順位表を見せられる。
今年はNASDAQが何%上昇した。
日本株は何%。
金は何%。
自分より儲かっている人を見ると、追いつきたくなる。
でも長期投資は100メートル走ではない。
何十年も走る競技だ。
途中で一時的に周回遅れになったとしても、それが最終順位とは限らない。
私は長い間、日本株を多く持ったまま「もっと米国株に移しておけばよかったかな」と思っていた。
それでも面倒なので、そのままにしていた。
すると、いつの間にか景色が変わった。
もちろん次も同じことが起こる保証はない。
今回の結果には運もかなりあった。
だからこれは、「私の投資法が正しかった」という話ではない。
むしろ私が学んだのは、もっと地味なことだ。
投資では、正しい判断をすることと同じくらい、不要な判断をしないことが大切なのかもしれない。
そして世の中では短所だと思っていた自分の「鈍感さ」や「面倒くさがり」が、投資の世界では意外な長所になることもある。
周回遅れに見えても、焦ってコースを変える必要はない。
自分のペースで走り続けていたら、いつの間にか景色が変わっていることもある。
少なくとも今回、私はそういう経験をした。
テキトーで、鈍感で、面倒くさがり。
そんな人間でも、それがプラスに働く世界がある。
それもまた、長期投資の面白さなのだと思う。