■今日は、難関本とかではなく、買い直し本の話を。

確か、西部古書会館での古書展「杉並書友会」だったかと思います。

そこで、北上さんの解説した単行本作品を発見したんですが、

それは、またの機会に。

今回は、その時買った別な文庫の件。

 

高円寺の会場、外の100円均一コーナーを見ていた時。

黄色い文庫表紙が何冊か固まっていたので、見てみると、

「ギャビン・ライアルか」

ハヤカワ文庫版。

古書店や古本まつりでは目立って分かりやすいんですよね。

『深夜プラス1』とか、何冊かあったかと思います。

まあ、正直、古書店などではよく見かけるので、いつでも買える系の文庫です。

が、この時、ふっと思い浮かんだんです。

「そういや、北上さんが解説書いてる作品があったな」

確かこれだった気が。

と手に取ったのが

『拳銃を持つヴィーナス』

めくると、やっぱりこれだ。解説北上さん。

そして思い出したんですよね。

ずっと以前に古書で買って持っていたんですが、

それはカバー無しだったんです。

「折角だから、カバーありを買っておくか!」

北上さん解説文庫をズラッと並べた時、一冊だけカバー無しというのも

なんか申し訳ない。

まあ、実はその前に、北上さんの解説単行本を発見していたので、

気が大きくなっていたというのもあります。

はい。自分へのご褒美。

なので、買い直しました。

この作品は、2冊持ち、ということになります。

これまでも持っているのに買っちゃった“ダブリ本”は

数多くあるので珍しくもないですが、

これは、帰宅後にダブリが発覚して、落ち込む、ということはなく、

納得の上でのダブリ本。

なので、今回、取り上げたという次第。

いやあ、驚くほど皆さんには何の関係も無い前振り(笑)

しかも長い(笑笑)

 

■ま、それはさておき『拳銃を持つヴィーナス』とはどんな作品かというと、

主人公は美術品密輸業者のギルバート・ケンプ。

女富豪から、買い集めた名画を、美術品の輸出規制が無いスイスに運んでくれ、

という依頼を受けます。

簡単な仕事のはずが、途中、恐るべき手際の襲撃者によって、

セザンヌの名画を奪われてしまう。

そしてケンプの奪還と反撃が始まる……というお話。

■さて、気になる北上さんの解説は?

 

「ギャビン・ライアルの作品はイギリス冒険小説界で

    特異な位置を占めている。

 それはライアルの描くヒーローが

 すべてリアリストであるという一点だ」

 

おう。さすが北上さん。

「あまたある海外の冒険小説とは、ちょっと違うよ」

と、巧みに興味を掻き立てて来ます。

で? で? 特異ってどんなとこ?

むろん僕は、まんまと乗せられます。

北上さんによると、ハモンド・イネスや、アリステア・マクリーン、

ジャック・ヒギンズ、デズモンド・バグリイといった

レジェンドたちの各主人公とは違い、

 

「“正義”や“男の甘い夢”から、ライアルのヒーローは

 例外なく切り離されている。

 彼らは正義を信じたり、あるいは夢見る男ではない。

 したがって、本来の冒険小説が持つロマンの香りから

 彼らはいつも遠く隔たっている」

 

おお、そうだったっけ?

随分前に読んだから、正直、全く覚えとらん(すいません)。

でも、確かにバグリイやヒギンズの主人公は、皆、心に傷を負っていたり、

過去を背負っていたりして、

ある事件や任務を機に痛みと向き合い、立ち上がる……というイメージ。

ライアルのヒーローは、そうではない、ということらしい。

ふむふむ。

『拳銃を持つヴィーナス』のケンプは、任務の失敗から反撃に立ち上がるけど、

そうじゃないの?

と、思って読み進めようとすると、

 

「二十九歳の時に書かれた処女長篇『ちがった空』が好例」

 

と、いきなりデビュー作の話へ。

うむむ、見事。

巧みにその著者の他の作品に言及して、読みたくさせる北上魔術であります。

『ちがった空』がどうして、その好例なのかは、読んで頂いて。

ライアルのヒーローの違いについて読んでいくと、

 

「ライアルの描く男は例外なく法すれすれ、

 あるいは法を犯す仕事をしている男たちだ」

「挫折したはみ出し者」

「彼らは醒めた目で現実に対峙する」

 

その代わり、ライアルのヒーローたちは、

プロの意地を賭けて敵と徹底的に戦う。

そしてリアリストだからこそ、

 

「手を汚すことを全く辞さない」

 

なるほど。

ロマンチストではないから、勝つことに徹するといったことでしょうか。

 

「ギャビン・ライアルの小説が胸に残るのは、

 夢物語ではなく、

 そういうふうに鬱屈した日々にいる男、

 リアリスト・ヒーローを彫り深く活写したことにある」

 

ふーむ。

そうか、マクリーンのヒーローや、ヒギンズの男たちとは違うのか。

(マクリーンとか、ヒギンズとか、ライアルとか読んだはずだけど

 あらすじ読んでも全く思い出せないため、

 自分の中で比較のしようがないのであります 恥)

その他、北上さん解説では

70年代以降のライアル作品『死者を鞭打て』『裏切りの国』、『影の護衛』など

作風の変化にも触れてくれていますが、

それは是非、入手して読んで頂いて。

 

★ついでに、今、北上さんの『冒険小説論』を読んでみたら、

これでは書き足りなかったのか(笑)、一章を割いて「ライアル論」を書いてました。

ライアルの80年代作品まで言及し、謎解き、スパイ小説という変遷について

北上さん流に分析していて、これまた読みごたえ満点!

こちらも是非、読んでみてください。

(今は、創元推理文庫で手にに入れられます)

 

いずれにしても、王道レジェンドたちのロマンチスト系と、ライアルのリアリスト系、

読み比べて見たくなりました。

覚悟のダブリ本、やってよかった(笑)