■2025年10/9(木)

『ヒルナンデス』の会議や、イベント企画の打ち合わせの後、

「久しぶりに、あそこを覗いてみるか」

と大江戸線に乗って上野御徒町駅へ。

地上へ出て、不忍池沿いをぐるっと回って、辿り着いたのは

『古書ほうろう』さん。

ここは、僕好みの本が並んでるんですよねー。

 

入って左手の棚は奥まで文学・歴史系だったか。

レジ前の低めの棚には古めの文庫が並んでいて、

確か今やお宝の!角川文庫の悪党パーカーシリーズなんかも見た記憶が。

そして右手の小部屋で見つけたのが、団鬼六の絶筆というノンフィクション

『落日の譜 雁金準一物語』!

伊藤博文に愛され、次期本因坊確実と言われた囲碁界の悲運の天才棋士が

一度野に下った後、本因坊に挑むべく一世一代の勝負「大正大争碁」に挑む実話。

 

さらに、そうだ! 奥の突き当りが映画関連コーナーで、

ず――ッと探していた北上さん推しの小説『飛べ!フェニックス』を発見!

小躍りしたのを思い出しました。もちろん、踊ったのは心の中ですが。

砂漠に不時着した飛行機の乗員たちが、

残骸を改造した飛行機で脱出に挑むというサバイバルストーリー。

 

■お店の外観を見て、そんな感慨にひたりつつ、

入口の格安本コーナーを見ていると、赤い表紙の雑誌が。

「お!」

ハヤカワ・ミステリマガジン 2020年9月号か。

手に取ると、表紙に

「ハヤカワ文庫創刊50周年」

という文字が前面に踊っとる。

おっ、この手の企画は、北上さんが関わっているんじゃないの?

と見ていくと……来た!

「エッセイ わたしとハヤカワ文庫」の執筆者一覧に

「北上次郎」!

「おお。久しぶりに来てよかった」

 

これが100円はありがたい!収穫、収穫!

久しぶりに覗いてみて良かった。

 

で、早速読んでみると……まさかの間違いが!

いや、北上さんの記憶違いを見つけてしまったのであります!

 

一人ずつ見開き2ページで、それぞれのハヤカワ文庫に関する思い出や

心に残る文庫作品についてエッセイを書いていて、

北上さんのタイトルは

「ディック・フランシスと『重賞』のこと」

 

「池袋・芳林堂書店二階文庫売り場の特設平台に、

 ハヤカワ・ミステリ文庫がずらりと並んだ日のことは

 いまも鮮明に覚えている」

 

という書き出しで始まります。

クリスティー『そして誰もいなくなった』や

リチャード・スターク『悪党パーカー/人狩り』など30冊が並んだ光景は

圧巻だったそうですが、

その時、北上さんは、なぜか

 

「ショックだった」

 

というんです。

というのも、その30冊の中にディック・フランシスの『重賞』が

入っていたから。

競馬シリーズは第一作『本命』から13作目『転倒』まで、

ずっとポケミスで発行されていたのに

14作目の『重賞』からは文庫で刊行されることになったと察し、

 

「ということは、本棚でフランシス本の大きさが揃わない!」

 

ということになり、「ショックだった」と。

そんなことかい!(笑)

とツッコミつつ、いや、でも、分かるわー。

僕も「悪党パーカー」シリーズを集めてる時、困りましたもん。

ハヤカワ文庫やら角川文庫やら散らばっている上、

さらにポケミスもあって、サイズがバラバラ。

最初、文庫から入ったので、文庫サイズの棚に並べていたら、

ポケミスにもあるんか、いや、そっちがメイン? となって

買い揃えていったものの

「入らん!」

挙句、今は、本棚の上にブックエンドを立てて、

まとめている状態。

高さバラバラ。

色んなサイズで出すの、本好き泣かせなんですよねー。

 

一カ所にまとめづらくてバラバラに仕舞うと、

どこに置いたか分からなくなって、結局、家のどこかにあると分かってるのに

二度買いすることに、という経験ありません?

本棚がカオスになる隠れた原因。

文庫シリーズだったのに、売れ出したら、急にハードカバーにして、

単価利益上げようとするの、やめてほしいわー(笑)

 

■さて、それが北上さんのハヤカワ文庫の一つ目の思い出で、

次に挙げているのが、

初めて書いたハヤカワ文庫作品のこと。

それがフランシス『利腕』。

 

「フランシスの分岐点となった『利腕』の解説を私に振ってくれたのは

 誰だったのだろう。」

 

北上さんによると、『小説推理』にミステリー時評を書き始めたのは

1978年1月号から。

『利腕』の刊行は1985年。

 

「つまり『利腕』の解説を書いたとき、

 私はまだ時評を書き始めて八年目の若僧にすぎない。

 よく私に振ってくれたものだと思う」

 

という感慨を記していました。

 

さらに、こんな記述も。

 

「『北上次郎解説文庫リスト』を見ていて驚いたのが、

 オースン・スコット・カード『消えた少年たち』の解説を

 私が書いていたことだ。

 本当に私なの?」

「まったく覚えていません」

 

と、のたまった挙句(笑)、

自分に縁のないSF作品で、作者の他作品を読んでないことを

ぶっちゃけて

 

「それでよく引き受けたものだ。」

「果たして(自分の解説の)内容は大丈夫なのか、読み返すのが怖いので、

 そっとしておこう」

 

おーい!(笑)

解説を見たら相当熱くプッシュしてますよ!

 

「ああ、だめだ。思い出すだけで涙があふれてくる」

 

と書き出し、最後は

 

「一度読んだら忘れられない傑作である」

 

と言ってますよ!

なのに忘れちゃったんですか?(笑)

 

……と、くすくす笑いつつエッセイを読む中で、僕が

「ん?」

と、なったのが、『利腕』に続いて書いた、

北上さんのハヤカワ文庫解説作品の思い出。

 

「ちなみに同年にロバート・B・パーカー『初秋』が  

 ハヤカワ文庫に入った時の解説も私だ。」

「もしかすると(『利腕』と)同じ担当者だったのかもしれない」

「いまさらではあるけれど、お礼を言いたい。

 あの二作は解説を書きたかったのだ」

 

と書いて、その編集者への感謝をつづっているんですが、

ここに記憶違いが……!

 

というのもハヤカワ文庫『初秋』の解説は北上さんじゃないんですよね。

今、調べてみたら……そうそう、郷原宏さん。

文庫化も1985年ではなく1988年でした。

 

北上さんの解説文庫リストを見たところ、これは多分、

同じパーカーの『失投』のことではないかと。

こちら、文庫化も1985年ですし。

 

……と、ここで思い出したのが、以前、このブログで書いた、

『初秋』の単行本。

そう、北上さんが解説を書いていた! と報告した作品です。

で、今、これの発行年を見てみたら……

やっぱり! 1985年だわ!

同じ年にパーカーの文庫『失投』と単行本『初秋』の解説を書いたから、

記憶がごっちゃになっちゃったんだなぁ、きっと。

まあ、北上さんは

「覚えてません」

が、もはや「至芸」なので(笑)。

その可笑しみも含めてファンになったんですよねー。

 

■そんな中、印象的だったのが

北上さんのエッセイの最後の一節。

 

「ハヤカワ・ミステリ文庫の創刊が一九七六年四月であることを、

 いまでも覚えている理由」

 

を明かしていて、これが、意外な“共通点”のお話。

是非、入手して読んで頂ければ。

 

皆さんにも、それを見ただけで、一瞬で青春の記憶が蘇る作品や物とか

ありませんか?

そんな、少し切ない思い出を呼び覚まされるはず。

 

改めて思ったけど、解説だけでなく

北上さんはエッセイも名手だなぁ。

 

そしてエッセイは最後、こう締めくくられています。

 

「残念なのは、池袋・芳林堂書店がいまはないことだ。

 それだけが残念である」