ー第一夜 消えた灯り、戻る灯りー
銀座の夜に通い始めて、四十二年になる。
入社したばかりの私は、まだスーツが身体に馴染まず、ネクタイの結び目もどこかぎこちなかった。そんな頃、大先輩に連れられて入った並木通りのバー「クール」が、私の銀座の原点だ。
重い扉を押すと、冷えた空気と低い照明、そして氷の触れ合う澄んだ音が迎えてくれた。カウンターの木目は深く、グラスの底で琥珀色が静かに揺れていた。あの夜から、私は銀座という街に少しずつ教えられてきたのだと思う。
並木通りは、変わらないようでいて、確実に姿を変えていく。
消えていく店、残る店、名前だけが記憶に残る店。
それでも夜になれば、どこかで必ず灯りがともる。
先日、二十年続いた洋菓子屋「ピエスモンテ」のショーケースに、突然の閉店を告げる紙が貼られているのを見た。あの柔らかな灯りが消えた夜、並木通りはいつもより静かに感じられた。だが、数日後、再び営業を始めるという知らせが届いた。消えたはずの灯りが戻ることも、この街では珍しくない。
銀座は、夜にだけ本音を語る街だ。
カウンター越しに交わされた言葉も、ショーケースに映る人影も、すべてが静かに時代を映している。
私はただ、その灯りを見つめ続けてきただけなのかもしれない。
<第二夜につづく>