ー最終章 泡の向こうの未来ー

 

ソーダ水の泡を、しばらく眺めるようになった。

琥珀色の重みとは違い、
透明な泡は、軽やかに立ち上り、静かに消える。
それでも確かに、グラスの底から未来へ向かって昇っていく。

私は二年間、泡だけを見ていた。

酒を断ち、身体と向き合い、
夜との距離を測り直す時間だった。
かつて「ひとりバブル」と呼ばれた男が、
今は静かな炭酸水を口にする。

だが不思議なことに、
銀座は以前よりも近く感じられた。

灯りは少し減ったかもしれない。
店は入れ替わり、
並木通りもコリドー街も、時代の波を受けている。

けれど、銀座は終わらない。

この街は、幾度も再生してきた。
バブルの熱狂のあとも、
コロナの静寂のあとも、
消えたはずの灯りを、何度も取り戻してきた。

泡は弾ける。
だが、また新しい泡が生まれる。

銀座も同じだ。

若い背中がカウンターに座り、
新しいオーナーが扉を開き、
静かな女性たちが夜を磨く。

私は、かつてのように朝まで梯子をしない。
ブルーラベルを傾けることもない。
だが、グラスの向こうに立ち上る泡を見ながら、
この街の未来を思う。

再生とは、派手な復活ではない。
小さな灯りを、消さずに守ることだ。

売り上げにならない客を迎える心。
病の話を静かに聞く姿勢。
氷を置く音の変わらぬ美しさ。

それが銀座の本質なら、
この街はまだ大丈夫だ。

泡はやがて消える。
だが、その瞬間に光を宿す。

私もまた、
与えられた時間の中で、
静かに泡を見つめ続けようと思う。

並木通りの灯りが、今夜も揺れている。

その向こうには、
きっと、まだ見ぬ未来がある。

 

《完》