第二夜 ― 扉の向こうの灯り ―

 

ある日、何気なくめくった雑誌の片隅に、小さな広告を見つけた。
「銀座に、新しいバーを開店します。」

その数行が、妙に胸に残った。
並木通りには、いつも新しい灯りがともる。だが、その灯りがどこまで続くかは、誰にもわからない。

あれから十五年。
その店のカウンターに、私は今も座っている。
オーナーとは、すっかり長い付き合いになった。

開店当初は、まだどこか初々しさがあった。
グラスを置く手元に、わずかな緊張が見え隠れしていた。だが年月は人を育てる。氷を割る音も、ボトルを傾ける所作も、いつしか迷いのないものになっていった。

そして、あの静まり返った季節がやってきた。

街から灯りが消えた。
銀座の夜が、こんなにも暗くなるとは思わなかった。
扉は閉ざされ、カウンターの椅子は静かに並んだままだった。

手に入りにくくなっていた大型の空気清浄機を、どうにか工面して店に運んだことがある。ほんの小さなことだが、再び扉を開ける日のための準備だった。
その代わり、昼間の営業を始めるというので、微力ながら協力した。昼の銀座はどこか照れくさく、夜とは違う顔をしていた。

灯りを絶やさないために、人はそれぞれの形で支え合う。
それは派手な物語ではない。だが、確かな温度がある。

十五年という時間は、気がつけば静かに積み重なっていた。
カウンター越しの会話は、時代の変化をやわらかく受け止めながら続いている。

あの雑誌の小さな広告から始まった灯りは、今も揺れている。
銀座の夜は、たくましい。
そして、その灯りの向こうには、いつも人の気配がある。

 

<第三夜につづく>