“ウ○コ野郎”の話【後編】 | メンズビギ マルイシティ横浜店 GM(ゼネラルマネージャー)の極私的ブログ

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さて、本題に入るその前に…

どなたにも誕生日があると思うが、
幸い私にも年に一回だけある。
私の場合は先月8月にあった。

本当かどうか分からないが、
仁田も私と同じ8月生まれだという。

私の場合、この歳ぐらいになると
特に自分自身への感慨深さはないが、
親への感謝の気持ちが自然に涌き上がり、
“僕を生んでくれてありがとう”
と、毎年母親に電話することにしている。

そしてもう一つ…
スタッフがプレゼントをくれることにも
とても感謝している。

今年の店長中西からのプレゼントには
意表を突かれ、思わず感動してしまった。

私の誕生日から数日後のその日…
彼は休みにもかかわらず、
担当する顧客が来店されるということで、
午前中だけ店に顔を出した。

酷暑の真っ只中というのに、
“恋愛の伝道師”の名に恥じぬよう、
キチンとネクタイを締め、
スリーピースを着てきたのである。

接客が終わった後、

「この後、どっか行くの?」

と私が聞くと、

「はい、夕方の予定まで時間があるので、
久し振りにK農園に行ってこようと思います」

「えっ!? こんな暑いのにその格好で?」

K農園というのは、
顧客のK様のご実家が経営する農園である。

何度か差し入れで頂いた野菜の味に、
私はすっかり虜になってしまったが、
横浜郊外にある直売所でしか買えないのだ。

翌日出勤した中西は、

「GM、遅くなりましたが、
お誕生日おめでとうございます!
今は収穫時期ではないそうなので、
これしか買えませんでした…」

と、私に差し出したのがコレだ。


想像してみて欲しい…

命に関わる危険な暑さの中、
見渡すかぎりの畑の農道を、
玉のような汗を垂れ流しながら、
キチッとネクタイを締め、
野菜がいっぱい入った袋を手に提げた
スリーピーススタイルの青年の姿を!

わざわざそこまで行かないと
手に入らないモノを、
自らの大切な時間と体を使って
プレゼントしてくれた中西の気遣いに、
私は感無量になってしまった。

しかもそれが野菜だなんて、
意表を突くにもほどがある。
これこそ私が提唱する本当のオシャレだ。

後日ご来店されたK様に、
その時の状況を伺ってみた。

その、あまりにも場違いなドレスアップ姿で
突然訪れた中西に圧倒されたK様は、
思わず中西を自宅に招き入れ、
お茶を差し出したそうだ。
そして向かい合わせに座った後、
今からどんだけ深刻で込み入った話を
切り出されるのかと身構えたそうである。

中西をよく知る私には、
そのシーンが容易に想像でき、
思わず笑ってしまった。
これではまるで、
『お父さん、娘さんを僕に下さい!』
のシーンではないかと。


ところで…
中西の素晴らしさは誰にでも優しく、
天然で実直なところである。
一言で云えば、イイ奴なのだ。

イイ奴…
実はここに落とし穴がある。

イイ奴の周りには、
必ずといっていいほど
そのイイ奴の行為によって、
振り回される者がいる。

私もその洗礼を受けたことがある。
これは本人に悪意がない分、
よけいに始末におえない。

例えばこうだ。
私は昔からエレベーターの中が苦手だ。
エレベーター自体が苦手なのではない。
あの狭く閉ざされた空間の中で、
知らない人と乗り合わせた時の
なんとも言えない気まずさが苦手なのだ。

仮に一緒に知人が乗っていたとしても、
とても個人的な会話をする気になれない。
エレベーターに乗ってる時間なんて、
たかが知れている。
だから私は酒も飲んでないシラフの時は、
グッと無言でやり過ごすことにしている。

私は自意識過剰のクセに案外シャイなのだ。

ある日の朝の出勤時…
従業員用エレベーターに
たまたま中西と乗り合わせたことがある。
もちろん周りは
レディースブランドの若いスタッフを含め
ほとんど知らない人ばかりだ。
朝だから皆テンションも低い。

しかし、イイ奴というのは
不思議といつも同じテンションで元気がいい。

「GM、おはようございます!
いやぁ、GMが作ったお店のディスプレイや
レイアウトはいつも見事です!天才です!
どうやったらあんな風にできるようになるんでしょうか!」

「……」

私は心の中で、

『もう止めてくれ~、頼むから止めてくれ~
何で今ここで、そんな話持ち出すんだよ~』

と中西を呪った。

“へぇ~、この人GMって言うんだ~”
“へぇ~、このオヤジが天才なの~?”

という若い女子特有の残酷な視線が、
ドア付近に立つ私の背中に突き刺さる。

私は恥ずかしさを通り越し、
吐き気を覚えた。

『中西よ、いったいオレが
オマエに何をしたというんだ…
せめて天気の話題にしてくれ…』

こういう時に限ってエレベーターは満員で、
お店がある7階まで各階に停まるのだ。
その度に降りる人の邪魔にならないよう
一旦エレベーターの外に
出ては乗るを繰り返した私は、
俯き加減で極力顔を見られないようにした。

永遠にも感じられた7階までの時間に
やっと解放された私は、
その後中西に何と言えばいいのだろう?

私は“イイ奴”に褒められただけのだ。
そこには悪意が微塵も感じられないのである。

ここで怒ったり叱ったりするものなら、
“イイ奴界の住人”からみれば、
私は極悪非道の人間になってしまう。

きっとこれは私が若かった頃、
よくエレベーターに一緒に乗り合わせた
同僚や後輩に対し、

『お前、鼻毛が出てるぞ!』

とウソをついて困らせた天罰かもしれない…
と思い、
私は天才のままでいることを選んだ。


そういえば、
先月の誕生日当日の朝のことだ。
私がお店に着くなり
先に出勤していた中西が、
開店前の静まりかえったフロア中に
響き渡るような声で、

「GM、お誕生日おめでとうございます!」

と言った途端、
周りのショップスタッフが一斉に振り返った。

「あ、あ…ありがと…」

私は小さな声で答えるのが精一杯だった。
そしてこれがエレベーターの中でなくて
ホントに良かったと心の底から思った。


ということで今回は、
“ウ○コ野郎”の話は
どっかに吹っ飛んでしまった…。


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                         「The Band」
  “The Night They Drove Old Dixie Down”

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メンズビギ  マルイシティ横浜店  GMより

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