きょうは私の友人が二十歳ころ書いたという自由詩を一編ご紹介します。
ずっと気になって頭から離れなかったので本人の承諾のもと、ここに公開します。
「この道」
彷徨うこの道はピアノの鍵盤のごとく連なり 流れてゆく
道ゆく途中 私は肘当てのついた質素な上着を着た少年に出会った
私は少年にきいてみた
「ファンタジーシティはどこにあるのかね」
その百年も生きたような目をした少年は無表情に丘を指さし
「あの丘のむこうだよ」
「ありがとう」
少年に別れを告げ ほそくゆるやかに登る道を歩いてゆくと
丘の上には古びた木の扉があった
私は扉を開ける
「あっ」
そこは一面に野ぎくの原がひろがり その黄色と空の青のコントラストが鮮やかで 遠くに海も見える
そして私の心を晴れやかにした
私は思わず 自分の黒のベレー帽を思いっきり空にほうり投げた
そのベレー帽は 青い空に黒い穴をあけた
すると 野ぎくの花びらが いっせいに空に舞い上がった
野ぎくの花びらは 空に雲をつくり 雨を降らせた
雨は私を濡らし 丘を濡らし 小さな流れをつくった
その流れは丘を下り 遠く 海に流れていくように見える
私が海に下ると もうすでに雲はどこかに消え去り 空には太陽が照り輝いている
青い空は水平線で 海の青とひとつになった
しばらくすると水平線に雲が湧き立ち 雲は空を覆いつくす
「ああ」
この雲はまた丘に登り 山へ登り また雨を降らすのだろうか
「生々流転」
これが私の道
(紫水)