海外市場で活躍できる「グローバル人材」になるための方法について解説します。
今日においても増加し続ける日本企業の海外進出。コロナ禍でも着実に成功する企業もいれば、さまざまな制約や行動の変化に足元をすくわれて失敗してしまう企業もあります。その成否を分けると言われているのが、「戦略」と「人材」です。「戦略」とは海外ビジネスを成功へと導くための基礎となるべく市場調査を行い、政治や思想、人種、嗜好や経済だけでなく戦争や感染症、カントリーリスクなど可能な限りのリスク予測と対応を考慮した事業を構築するということであり、もう一つの「人材」とは現地で能力が発揮できる人材、いわゆる「グローバル人材」の確保が求められます。
近年、日本では英語などの外国語偏重の教育プログラムを売りとする高校や大学が増えてきました。その目的は「グローバル人材育成」のためだと言います。では、その言葉が本当に意味するところはいったい何なのでしょうか?
実は、現代では国際情勢やビジネスモデルの変化により、「グローバル化」の定義が変わりつつあります。アナタの海外ビジネスを成功させる「グローバル人材」について検討します。
世界ではグローバル化が加速しています。国と国を分けている隔たり・障壁が小さくなっています。インターネットを中心としたテクノロジーの発展によって、移動時間の減少やコミュニケーション方法の多様化などが進み、国境を超えたヒト・モノ・カネの動きが流動化された結果でしょう。 例えば日本の製造業やIT産業はより人件費の安価な東南アジアやその他のアジア諸国に拠点を移しつつあり、それら海外事業を管理する人材が求められることとなりました
さらにはインターネットの普及により、今まで以上に海外の情報を手に入れること用意になるとともに、情報を発信することも容易となりました。WEBサービスも多様化し、国境を超えたオンラインショッピング「越境EC」の普及も進んでいます。インターネットの普及は新興国各国にも好影響を与え、各国の経済成長を後押ししている状況です。また、各国で中間層や富裕層が増加するとともに、格安航空会社(LCC)の台頭によりヒトの移動も容易になりました。
以前はグローバル化と言えば、「アメリカ化」と同義であると考えられていました。しかしリーマンショック以後、アメリカの世界に与える影響力は衰え、中国やインドなどの新興国が世界に影響力を持ち始めています。さらに新型コロナウイルス感染の拡大によって、これまでに以上に「オンライン」の重要性が増しましたが、逆説的にヒトと直に会える「オフライン」の価値も見直されています。そういった意味でも「グローバル化」は、より複雑な形態へと変化しているといってよいでしょう。
いずれにせよ、新型コロナ禍以降も、日系企業も含めて世界中の企業が新たな市場を求めてグローバルマーケットを渇望していることは変わりありません。今回は海外で戦える「真のグローバル人材」になるための方法について解説します。
1.人材のダイバーシティ(多様性)を受容する。
島国である日本は考え方や思想や習慣などすべてにおいて我が国独自の文化を発展させてきました。陸で隣国とつながっている他国と異なり、海外からの移民や難民も少なく生きていく上で、日本語さえ使えれば日本で生きていくことに不自由はしません。
その中で断言できるのは「多様性(ダイバーシティ)」を受け入れることのできる日本人はあまり多くないということです。そういう人材は、海外に行っても「郷に入れば郷に従え」の気持ちになれず、「日本はこうだから、現地もこうあるべき」という発想で取り組むことが多いと思います。それは日本独自の文化や商習慣が組織の効率性の向上や情報伝達の風通しを良くするなど有利に働くこともありますが、一方では現地のやり方になじめず組織内で孤立してしまうといった具合に不利に働く場合もあります。とりわけ海外に来ても日本のやり方や考え方を変えられない方は、現地の方と衝突することも珍しくはなく、時には現地人を見下した態度をとってしまったがゆえに思わぬトラブルに発展してしまうこともあります。
このように日本では上手くいった方法を導入しようとしても海外現地でも成功するとは限りません。あくまでも我々は海外現地ではよそ者であることをまず理解しなければいけません。さらに、そこには日本とは異なる文化や商習慣が根付いており、現地の人たちが生活しているのです。
そこに「日本はこうだから、現地もこうあるべき」という姿勢で行ったら現地の人はどう思うでしょうか? もちろん受け入れられないでしょう。現地への理解がある上で、日本で培ったノウハウをローカライズすることが重要になります。
外国との協働や連携失くして日本のこれからの発展はあり得ません。まずは異文化に理解を持てる「多様性(ダイバーシティ)」を持ったグローバル人材の確保が日本にとって喫緊の課題となっています。
2. 海外で働いてみたいという意識を持つ。
誰もが最初から海外で働けるだけの語学力があり異文化への理解もあり、グローバルな課題に対して、主体性を持ちリーダーシップを発揮できるような人材になれるわけではありません。一言でグローバル人材といっても人には学業での成績や仕事の真面目さということだけでなく、海外で働くことに対する向き不向きという問題もあります。現地の生活環境になじめるかや外国人と対等に付き合っていけるかなど目に見える成績や日ごろの勤務態度では測れない部分もあります。そこで、潜在的にグローバル人材になりうる人材かどうかを判断する有効な手段の一つとして、「自分は海外で働きたい、機会があれば海外に行ってみたい、海外でチャレンジしてみたい」といった「モチベーション」を持っているかどうかです。たとえ語学力が低い人であっても、語学力や営業成績が高くても「モチベーション」がない人材よりは、よほど海外で働くための心の準備ができているといえます。
なぜならコミュニケーション能力を含めた語学力やビジネススキルは、後追いで習得することが可能です。一方、長い時間をかけて培われていくモチベーションや動機といったものは、そもそも海外で働きたいという情熱や意識がない人にとっては生み出すのが難しい資質ですので、まずは海外を一度でも意識したことがあるかどうかを自身の心に問いかけてみることが重要です。
3.国際資格を持つ
グローバル人材になるための最も近道となるのは、グローバル企業と呼ばれる海外での事業実績がある企業に就職や転職することです。今までの業務経験や海外で働きたいという気持ち、それと国際的に認められる資格を持っていれば、海外への転職や、外資系企業への就職に有利に働きます。海外・外資系企業での仕事に役立つ国際的な資格にはどんな種類があるか、金融・会計関連、IT系、語学系の国際資格の情報に加えて、それらの資格がどのような求人に生かせるかもご紹介します。
1.MBA
欧米企業では、MBAホルダーは経営全般の知識を持った人材として認識されており、昇進や幹部候補生の採用では、MBAが基準の一つとなっています。MBAの本当の価値は「自ら考える力が鍛えられること」「人脈形成」、そして「ビジネスリーダーとしての意識向上」にあり、それこそ今の日本が求めるグローバル人材の在り方の1つであり、あらゆる外資企業や海外展開を行っている企業にとって採用したい資格です。経営学修士(Master of Business Administration、MBA)は、経営学の大学院修士課程を修了すると授与される学位です。組織の経営にとって必要とされる人的資源管理、財務会計、オペレーション、マーケティング、情報などのテーマを体系的に学ぶことができます。他の分野の修士号とは異なり、職業的能力の習得を意味する専門職学位(Professional Degree)に位置づけられており、MBAホルダーは経営のプロフェッショナルとしての活躍が期待されています。
2.米国公認会計士
米国公認会計士(U.S. Certified Public Accountant、U.S.CPA)資格は、アメリカのAICPA(The American Institute of Certified Public Accountants)により実施される試験で、試験合格により米国各州が認定する公認会計士のライセンスを取得する資格を得ることができます。会計を始め、経理、財務、税務、法務などビジネスに生かせる様々な専門知識が英語で出題されるため、専門知識と英語力の証明としても広く認知されています。日本のCPA(Certified Public Accountant)と区別するためにU.S.CPAまたはUSCPAと呼ばれています。
米国公認会計士(U.S.CPAまたはCPA)を生かせる求人は、管理・事務職の仕事が最も多く、続いてはコンサルタント・金融・不動産専門職、企画・経営の順となります。管理・事務職関連の仕事を目指している方、コンサルタント・金融・不動産専門職への転職を考えている方は、U.S.CPAを取得するとチャンスが広がる可能性があります。
3.米国税理士
米国税理士(Enrolled Agent、EA)資格は、米国の内国歳入庁(Internal Revenue Service、IRS)が認可する税理士免許で、アメリカの国家資格の一つです。試験は英語で実施されるため、税務に関する専門知識および英語能力が証明できる資格です。アメリカはもちろん、日本や海外で税務業務や国際税務、経営コンサルティングなどにも活躍できます。
4.アソシエート・エキスパート
アソシエート・エキスパート(Associate Expert、AE またはJunior Professional Officer、JPO)は、国際機関と各国政府の取り決めに基づき、一定期間、各国から国際機関に派遣される非正規の専門職員のことです。国際機関への派遣にあたっては、外務省が管轄する国家資格への合格が必要です。試験合格者は国際公務員として世界各地の国際機関に派遣され、幅広い分野で活躍することができます。
5.CIW
CIW(Certified Internet Webprofessional)とは、アメリカのCertification Partner社により運営されているインターネットとウェブ標準のスキルを、職種ごとの区分で認定する国際資格です。IT関連情報サービスおよびWEBビジネス業界で働く人のための資格で、情報技術やWEB標準に関する能力を証明します。
6.MCP資格
MCP資格制度(Microsoft Certification Program、マイクロソフト認定プロフェッショナル)は、マイクロソフト社が認定し、マイクロソフト社のサーバや開発環境などの製品に関する技術的な知識や、実務能力を評価認定する民間資格です。システムエンジニア、システムインテグレータ、コンサルタント、プログラマ、トレーナーなど、システム関連技術者を目指している方に広く知られる、人気の資格です。
7.IBMプロフェッショナル資格認定制度
IBMプロフェッショナル資格認定制度(旧IBM技術者認定制度)は、IBM社が実施し、最新のIBMテクノロジーとソリューションへの専門知識を実証し、国際的に通用する高度な技術力と専門性を証明する全世界共通の資格制度です。ネットワークサービスの設定、保守、セキュリティ、システム管理などに生かせる国際資格になります。
8.ノベル認定技術者
ノベル認定技術者(Certified Novell Engineer、CNE)は、ネットワークオペレーティングシステムの市場で高いシェアを有するノベル社が認定する、ネットワーク構築とサポート管理に関する能力を評価する資格で、NetWareを中心とするノベル製品のスキルレベルを認定します。情報システムやSI(System Integration)事業者などをはじめ、システム構築やサポートに携わる技術者に人気の資格です。
9.オラクル認定技術者制度
オラクル認定技術者制度(ORACLE MASTER)は、オラクル社が実施するOracle製品に関する技術者を認定する制度です。データベース管理・運用に関する高度な知識が問われる専門性の高い資格で、システム関連企業または企業のシステム開発部門などで生かすことができます。
10.PE
PE(プロフェッショナルエンジニア/Professional Engineer)は、全米試験協議会(NCEES)の試験に基づく米国の公的な資格です。PEには技術倫理が厳しく要求されます。アメリカでエンジニアとして働く場合、PE資格が必要になりますが、アメリカ国外でもPE資格は高く評価されているため、国際的に活躍する技術者を目指している方には有用な資格の一つになります。日本国内では、日本PE・PF試験協議会(JPEC)が試験を実施しています。
11.シスコ技術者認定
シスコ技術者認定(CCNA)は、シスコシステムズ(Cisco Systems, Inc.)が実施するネットワーク関連技術やソリューション能力を証明する国際資格です。シスコ技術者認定を取得するためにはネットワークの構築・運用・管理・保守、セキュリティ管理、データの分析統計などネットワークエンジニアに必要とされる高度な専門知識が求められます。
12.ITIL認定試験
ITIL(Information Technology Infrastructure Library)認定試験は、ITサービスマネジメントに関するスキルを判定する指標として使用される国際的な資格の一つです。ITIL認定試験はイギリス商務局(Office of Government Commerce、OGC)により実施され、日本だけではなく世界中で認知されています。ITIL認定資格を所有している方はIT関連サービスマネジメントやシステム運用管理業務などに生かすことができます。
13.PMP
PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル/Project Management Professional)は、米国のPMI(Project Management Institute)が主催するプロジェクトマネジメントに関する国際資格です。PMPは、プロジェクトマネジメントに関する知識、教育、経験を測り、様々な分野のマネジメント能力・専門知識を有していることを証明します。プロジェクトマネジメントは、IT業界をはじめ様々な業界で注目されているため、PMP資格保有者はその知識・能力を生かして幅広く活躍することができます。
14.CISA
CISA (Certified Information Systems Auditor)は、情報システムの監査および、セキュリティ、コントロールに関する高度な知識、技能と経験を認定する国際的な資格です。日本語では「公認情報システム監査人」と呼びます。CISAはISACA(The Information SystemsAudit and Control Association, Inc. 情報システムコントロール協会)が主催し、情報システム監査およびコントロールの専門資格として欧米の企業で広く認知されています。CISAを取得した後でも資格を維持するために「常に専門知識を収集している」ことが重視されるのが特徴で、資格保有者は継続教育活動を毎年実践し、報告する必要があることから実践的な資格としての評価を得ています。
15.TOEIC
TOEICテスト(Test Of English for International Communication)通称トーイックは、英語のコミュニケーション能力を測る世界共通の試験です。TOEICテストでは、リスニング(聴解)とリーディング(読解)の英語能力が測定されます。一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会により年に10回実施されるため、受験機会が多いことが特徴です。TOEICテストは、多くの企業で採用・昇進の基準として使用されていることから、ビジネスパーソンの間でも人気の高い資格試験です。
16.IELTS
IELTS(International English Language Testing System)通称アイエルツは、海外留学や海外で活躍するために英語能力を測る英語検定試験の一つです。IELTSはオーストラリア、イギリス、カナダなど世界の多くの教育機関で受け入れられ、アメリカでもTOEFLテストの代わりIELTSが入学審査の基準として使用可能な教育機関の数が3,000を超えています。また、イギリス、オーストラリア、カナダなどへの海外移住申請にはIELTSが必要です。日本国内では公益財団法人日本英語検定協会が試験を実施・運営しています。
17.日本語教育能力検定試験
日本語教育能力検定試験(Japanese Language Teaching Competency Test)は、公益財団法人日本国際教育支援協会(Japan Educational Exchanges and Services、JEES)が主催し実施する民間資格です。国内外の教育機関で日本語教員を目指し学習している方、日本語教育関連の仕事に携わっている方に必要な基礎的な知識・能力を検定する資格です。
18.漢語水平考試 (HSK)
漢語水平考試 (Hanyu Shuiping Kaoshi、HSK)は中国政府が認定する世界共通基準の中国語資格です。HSKは、様々な国と地域で実施され、世界的な認知度も高い資格試験です。中国語母語話者以外の中国語学習者を対象とし、中国語能力を測る指標として中国国内の大学や海外の企業で採用や研修の評価基準としてよく使用されます。日本国内ではHSK日本実施委員会が主催として筆記試験と口頭試験を実施します。
19.通訳案内士試験
通訳案内士試験は、日本政府観光局(Japan National Tourism Organization、JNTO)が実施する国家資格で、仕事として報酬を受けて、外国語を用いて外国人に旅行に関する案内をするために必要な資格です。通訳案内士の試験は、単に外国語の能力を測る資格だけではなく、日本の地理、歴史、産業、経済、政治、文化、日本に関する知識も幅広く求められます。
20.国際秘書検定
国際秘書(Certified Bilingual Secretary、CBS)検定は、一般社団法人日本秘書協会が実施する民間資格で、英語と日本語をコミュニケーションの手段として使いこなし、実務処理能力に加え人間性にも優れた秘書業務のプロフェッショナル育成を目的としています。外資系企業などでのバイリンガルで国際的な業務においてCBS、準CBSの認定を受けた人々が多く活躍しています。
海外で就職や転職するには、英語力を証明するための語学に関する資格とその他の専門性を求められる資格があると選べる仕事の幅が広がると同時に、人材の希少性を評価して給与アップにもつながりやすい傾向にあります。 海外で仕事をしたい場合は語学に関する資格と他の専門性を活かせる資格を取ることをお勧めします。