杉さんから、昆虫の写真が送られてきました。今度は黒い甲虫が元気にアスファルトの上を這い回っています。世の中には地表徘徊性昆虫というものがおり、その類かと思われました。
杉さんはラインで写真を送ってくるので、だいたいコメントが添えられていて、「ザトウクジラの下あごみたいな模様」、という、けっこうマニアックな例えで昆虫の特徴を表現をしてきたため、まず、ザトウクジラのあごってそんなだったか…、と、ザトウクジラの下あごが写った写真をググって調べねばなりませんでした。
さて、同定をするにあたって、ルックスからゴミムシかシデムシの仲間かとあたりをつけて検索を始めました。
いろいろなところで写真を見くらべて、一番似ているのはオオゴミムシ(Lesticus magnus)だと思いましたが、この仲間は種の同定が難しく、決定的な情報に行き当たりませんでした。種分化の激しい昆虫の世界にありがちですが、ありふれた昆虫であっても、まだ分類が完成していないのかもしれません。
ゴミムシの類はオサムシ科に属しており、オサムシ亜科、ナガゴミムシ亜科、ゴモクムシ亜科など細かく分けられるものの、オサムシ科と別科に分けられたシデムシ科の種を含めてよく似ています。
地表を這い回る昆虫の形が似てしまうのは、翅を動かす飛翔筋が退化しており、なで肩だからです。ちなみにオサムシのオサ(筬)とは、昔の機織り機で使われた紡錘形の形をした道具に由来しています。
こういった地表徘徊性の昆虫は肉食のものが多くて、噛む力も強く性格も獰猛で、カマキリやカエルを襲ったり、小動物の遺体に群がります。生活スタイルや食性が似ていると、進化系統的に離れていても、似たようなルックスになってしまうのでしょう。
系統的に離れた生物が、同じような生活に適応してとてもよく似た形態をもつようになることを、平行進化といいます。
例えばオオゴミムシは、ゴモクムシ亜科に置かれるゴミムシとは亜科レベルで異なっているので、きっとかなりの遠縁なはずなんですが、本当にそっくりです。
生物進化の道筋を明らかにするのは、ほんとうに難しいことが分かります。