あまり暑いと、どんなに規則正しい生活をしている生徒でも、机に伏してしまうものがでる。
人の身体とは体力の消耗を防ぐべく、自動的に省エネモードに入るものなのである。
7月半ば、30度を超えるかと思われる暑い昼下がり、昼食を摂ったばかりの5時間目に「恒常性」について授業をしていると、数人の生徒が机に伏して頭頂部をこちらに向けていた。
健気に何度となく身体を起こすものの、目に力がない。こんな生徒を叱っては、可哀想というものである。
私は持っていたチョークを置き、睡魔の巣窟と化した教室の雰囲気を変えるために生徒に小咄を始めた。
「何人か眠そうな生徒がいるけれど、私は眠気を感じている男の子を確かめる方法を知っています。男の子は眠くなると、お○ん○んが起つんです。」
はっとして生徒がこちらをむく。私はさらに、
「おねしょしないように、そうなるんです。」
「ちいちゃい時は、それがまだ上手にできないから、おねしょするんです。」、と、言ってやった。
思い当たる節のある男子生徒は、目からウロコといった表情で私を見つめる。
私はそれまで半開きだったのがウソのように見開いた男子生徒の瞳を見つめ、
「大丈夫だよ、君たち。たとえ数学や物理の授業でそうなったとしても、けっして異常なことではないのだ。正常な反応なんだよ。人知れず悩んでいなくてもいいんだよ。」、とテレパシーを送った。
一般に、男の子はおねしょが終わるのが、女の子に比べて遅い。だがそれは、仕方がないというべきであるから、世のお母さんたちは、もしもボーイのおねしょが続いたとしても、叱ってはいけない。耐えて洗濯をしながら成長を待ち、そしておねしょが止んだときには赤飯くらい炊いて欲しいものだ。
「ほら、簡単に言えば、切り替え式になっているから。」、という説明を最後に私は授業に戻し、睡魔のいなくなった教室で無事に授業を終えたのだった。
終礼後、一人の男子生徒が私に駆け寄り、こう質問をしてきた。
「じゃあ先生、ちゃんとトイレに行ってから授業を受ければ困らないと言うことですか?」
私は、「そういうことになるね。」、と答えて男子生徒を黙らせると、教科書とえんま帳を片手に颯爽と教室を後にした。