2009/03/01
「虚空蔵(こくぞう)」とは菩薩の一尊で、智恵と慈悲の信仰の対象である。私はこの年まで虚空蔵さんを知らなかったが、新規入会したTさんのお薦めもあり、参拝することにした。
「2月22日(日)に虚空蔵祭があるので行ってみましょう。」とのお誘いだ。Tさんは小さな頃に虚空蔵祭りに行った想い出があるらしい。
大人になって自転車に乗るようになると、なぜか小さい頃の想い出の地に行ってみたくなる。私もかつて通った小中学校の通学路やマラソンコースを走り、ノスタルジックな気分に浸ったものだ。
だから私には分かった。Tさんは、きっと自転車で小さい頃の想い出の場所に行ってみたいのだ。
そこで私は虚空蔵祭へのサイクリングに賛成した。そして、なぜか虚空蔵祭で売られているという縁起物のダルマを買って、目標でも立ててみようと考えていた。
そして当日、春めいた陽気の中を浜当目に通じる瀬戸川沿いの道を、2台の自転車が走っていた。ところどころに梅が咲き、鳥のさえずりも聞こえる。なかなかのサイクリング日和だ。風は強いが追い風なので(帰りのことを考えなければ)楽しく走ることができる。
ダルマを買ったら、何をお願いしようかな(ー`´ー)うーん
と、悩みながら走っていたのだが、浜当目が近くなっても、人通りがまばらで、のぼりの一つも出てこない。
おや、おかしいぞ。お祭りがあるにしては静かすぎるな…、と思っていると、Tさんが、なにやら確認している。そしてTさんから、「虚空蔵祭は明日だった」という衝撃的な事実を聞かされた。
しかし、もとより物事にこだわらない性格の私は、お参りさえできればいいじゃないかという気持ちになり、虚空蔵参りは続行された( ̄∇ ̄) 。
浜当目に着くと、Tさんの想い出を頼りに神社探しが始まった。
浜当目はひなびた感じのする小さな海の町だが、見所はたくさんある。その昔小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が、故郷のギリシャの海岸に似ていることを理由に度々訪れていたことでも有名だし、当目山の山頂に祭られている虚空蔵尊の像も、聖徳太子の作品であるという話もあるくらいだ。
↑焼津市浜当目の虚空蔵さん 想像以上に由緒正しいものらしい。
冒頭でも触れたのだが、虚空蔵は知恵を授けてくれる菩薩である。弘法大師空海や日蓮も、修行を始めるにあたり、虚空蔵尊にお参りしている。そのためか、当目山の麓の神社には弘法大師空海の像が建てられていた。
↑お祭りの日でなくても、お参りに来ている人はたくさんいる。
浜当目といえば大崩海岸であるが、ここがギリシャの海岸に似ているとは思わなかった。ちょっと自分の中で浜当目の格が上がっていくのを感じた。大崩(下写真)は、「当目山」という山が削られてできたものである。今日の機会を利用して、登っておくのも一興だと思った。
↑夏の大崩海岸。削られているのが当目山だ。
↑当目山の入り口
Tさんも登るのに異存はないようだ。私たちは当目山の登山口に自転車を止め、虚空蔵本尊を目指して山道を登り始めた。
Tさんは、たったったっ、と、軽快な足取りで登っていく。重量級の私はのしのし一歩一歩石段を登っていく。パッと見たところ、100m以上の標高がありそうだったので無理をしなかったのだ。
体重が重いとのぼりが辛いのは、歩くのも自転車に乗るのも同じだ。しかし、歩みを止めなければ、必ず高みに上がることができる。そこが山登りの良いところだ。何というか、苦労が報われた気がするんだよねえ。
Tさんは思ったよりも急な山道が続いたためか、途中でペースが明らかに落ちてきた。ふと脇を見ると、四丁目と掘られた石碑がある。
そう言えばさっき三丁目の石碑があったな。いったい何丁目まであるのだろう。険しい山道を進んでいるところでこんな石碑を見ると、なんだか地獄へと進んでいるみたいだ。
ゼーゼー良いながら中腹まで来ると、立派な仁王門が建てられていた。老朽化が激しくて近づいてみることはできなかったが、私は感動した。遠くから阿吽の金剛力士像が見える。
すごい。なんでこんなに立派な門が建てられているのだろうと思っていたら、浜当目の虚空蔵さんは、伊勢の朝熊、京都の嵐山とともに日本三大虚空蔵尊の一つらしい。こんな立派なものが地元にあるとは、不勉強にも程があるというものだ。お参りにこれて良かった。
↑当目山の山頂から見える静岡市
ようやく頂上につくと、とても地味な建物がぽつりとたたずんでいた。日本三大虚空蔵尊の一つと言うからには、もっと立派なものにすればいいのに。お賽銭箱すらないとはもったいないぞ。観光名所になるくらいお金をかけるべきではないのか。頑張れ焼津市。
辺りを見回すと、お寺によくある高さ1mくらいの大きな鐘があった。私たちは何となく鐘をつき、浜当目の町に鐘の音を響かせると、しばらく風景を楽しんで山を下りることにした。
お参りをしたあと、ダルマを買ってテキ屋で遊んで帰る計画だったサイクリングなのだが、山登りをすることになるとは、人生なにがあるか分からないものだ。
私たちは焼津港の近くにある、「やまちゃん」でおいしい昼食をとった。「やまちゃん」とは、焼津でも評判の海鮮料理をお手頃な値段で出している店で、今、その料理を写真に撮ってこなかったのがとても悔やまれている。ああ、ここで紹介したかったなあ。お魚好きにはたまらない料理が食べられるので、お近くに行ったらぜひ行ってみてください。
帰りがけに、Tさんが当目山を見て、
「あんなところまで登ってきたんですね。」、と、感慨深げに言った。想い出のダルマと屋台は見られなかったけれど、今回のサイクリングには満足してくれている感じだった。
私としても、虚空蔵さんをお参りできたし、おいしい料理を食べられたし、何より知見が広がった。Tさんが誘ってくれたおかげと言える。
ありがとうTさん。来年はぜひ2月23日に行きましょう。
↑あとで調べたら標高は120mちょっとありました。けっこうありましたね。