「ここで『到着』みたいだね。肝心の滝は―――かなり下の方だけど」


ユーリが用心深く木の柵の向こう側を覗き込み、磯良もそれに倣って下を覗き込んだ。
生い茂った木の葉の所為で全貌は見えないが、水量はさほど多くは無いが落差のある滝が下方に見えた。


「何だ、こんな遠くから見下ろすだけか。俺が昔来た時は、滝壺まで行ける獣道が続いてたんだけどなぁ」


「でもここから滝壺まではほとんど崖だよ。道があっても普通の人には危ないんじゃ―…あ、
 もしかしてここ、柵の下のこの草が薄くなってる所、これがその獣道だったんじゃない?」


「ああ、そうかも知んねぇな。」


「……………。」


そこで ふっ とユーリが黙り込み会話が途切れた。
磯良は軽口を利こうと口を開いたが、流れ落ちる滝をじっと見下ろすユーリの横顔をちらと
盗み見ると、手持ち無沙汰そうに煙草に火を点けようとして―――止めた。
滝の轟音のみが遥か下から響きわたる。


「――――…なあ、ユーリ」


「この柵、木で出来てて低いけど…間違って落ちるって事は無さそうだね」


淡々と呟くユーリが言うとおり、申し訳程度の柵ではあっても高さは大人の腰辺りまであり、
壊れていたり腐って脆くなっている所は無く、新しく作り直された痕跡も無かった。
自主的にしろ他動的にしろ『柵を越える』という行為をしなければここから滝に落ちる事は
無いだろう。
地元の警察も一応は事故と自殺の両面で調べて「ほぼ自殺」としたからには、
争った形跡などが無かった為のようだ。