磯良が台所に立ったちょうどその時、
田舎故に開け放たれ、呼び鈴もない、無用心極まりない玄関で
戸惑いながら中を覗き込んでいる人物がいた。
「えーっと…、あの~~~、すみませ――ん!」
「はいはい、どちらさんかのう?」
まるで家の主のような顔をしてホイホイと現れた老人に戸惑いながらもその人物―――…
スラリと長身で黒髪の、少女というには無理があり、大人としてはやや幼さの残る娘は
一瞬虚を突かれたような顔をした後、慌ててペコリとお辞儀をすると、
「あっ…の!すみません!!こちらはえーっと、磯良さんのお宅じゃなかったんでしたっけ!?」
「はいはい、ここは磯さんのお宅ですよ。お嬢さん磯さんを訪ねて来なさったんかね?」
「はい。知人に頼まれて届け物を持ってきたんですけど…磯良さんはお留守ですか?」
そんなやり取りをしていると、奥で聞き耳を立てていた物見高い老人達が
我慢しきれずにぞろぞろと這い出して来た。
「何じゃ何じゃ、この別嬪さん磯さんの知り合いか?」
「ほ~~~~!しかもこんな若い娘っ子とは!磯さんも隅に置けんのう!」
「まーまーまーお嬢ちゃん、入りんしゃい。中に入りんしゃい」
「えぇっ!?あ、あの、私は届け物に来ただけで――…所で磯良さんは???」
「えーからえーから!あんなの放っておいて中でわし等とお茶でも飲みながら
磯さんとの馴れ初めを聞かせてくれんかのう」
「な、馴れ初めってあのその私―――…!?(汗」
老人たちは狼狽する娘の荷物を取り、手を取り、手招きし、
「まーまーまーまー」と言いながら勝手知ったる他人の家へと娘を引き込んだ。