新日鉄住金さんの見学が終わり、ガイドをしていただいた社員さんから
会社発行の機関紙「季刊 新日鉄住金」 をいただきました。
「帰りの飛行機で読んでください」とのこと。帰りの飛行機ではなかったが
出張先の朝食の時間が空いていた時に読んでみて、ビックリ。
クオリティーが高く、ナショナル・ジオグラフィック マガジン級の内容である。
鉄に関して熱く語るその内容に迷いなし!
地球上に安定的に分布する鉄鉱石。この資源だけは採ってもとっても
無尽蔵という感じ、なにしろ鉄は地球の1/3を占めるのだそうです。
その内容を全て語りつくすことはできないが、自分がへ~!と思った事だけ
書いてみます。
① 体が鉄分を必要とする理由
そういえばホウレンソウやレバーを食べると鉄分が補給出来て貧血によい、
などというが、鉄が生体にどのように影響を及ぼすか、ということに深く
考えを巡らすことはなかった。理由はわからんが、鉄分は体を健康にして
くれる、それで十分だった。
人間が生きていくために必要な酸素。本誌によると鉄分はその運搬に
なくてはならない役割を果たしているそうだ。人体の鉄の多くは血中の
ヘモグロビン中に存在している。いいかえるとヘモグロビンは鉄を中心
とした構造をもっている(そう)。したがって肺から得た酸素をそれが
体の隅々へ運んでくれる。
もう一点は鉄分は体の活動するエネルギーを作り出すために、電子を
効率的に伝達している。鉄イオンを介して電子を受け取り、ゆっくり酸化
還元反応をすすめることで体はエネルギーを得ているのだ(そうだ)。
②日本の刀鍛冶は凄かった
頭に烏帽子をかぶりながらとってんかってん、赤々とした鉄をやっとこで
はさみながら、叩き鍛える刀鍛冶の職人。鉄が冷めてくると再び、木炭の
火の中に入れなおし、温めなおす・・・
よくテレビで見る、ステレオタイプな日本刀を作る作業風景であるが、この
中に「成分調整」と「熱処理」の作業が含まれていることを、先人は感覚的に
知っていた。
鉄が他の金属元素と違ってスゴイのは、作りようによってさまざまな
特性を持たすことができることだ。これを『変態』という。昆虫でも、
幼虫⇒さなぎ⇒成虫(蝶)のように、同じ種でありながら、形態を変えること
を変態という。人間の場合は、意味合いが変わってくるので割愛するが
(さらにいうと意味合いがかなり本来と違っている)、変態というのは
金属元素である鉄にも起きる現象である。
高温の鋼を何度も折り返し叩いて不純物を取り除き、炭素量を均一化
(鍛錬)、最後に刃側に薄く、棟側(棟=むね、刃の反対側)へは厚く
土を塗って水で冷やすと、土の薄い方は水の影響を受けやすく急速に
冷える(焼き入れ)、反対に厚く塗った方はゆっくり冷える(焼きなまし)。
一本の刀の表裏に硬さ(焼き入れ)=キレと、靭性(焼きなまし)=折れにくさ
の両方の性質を与えているから日本刀は凄いのである。昔の職人は
長い歴史と鍛錬を経て自然科学が明らかにした真理を体得していたのだった。
これを近代の科学でいうと鉄-炭素の二元系状態図に表される。
こういったことを感覚的に知っていたことに驚くとともに職人技の奥の深さに
感心する。ちなみに、わたしの友人がメーカーの入社試験を受けた時、
入社試験にこの状態図がでた、と言っていたのを思い出した。工業で活躍する
エンジニアにとって基礎中の基礎なのでしょう。
③マルテンサイトとは
わたし達の工具業界で唯一、鉄の状態で出てくる用語がマルテンサイト(変態)。
何かというと「マルテンサイトは硬い」と、硬さの代名詞であるが、上の状態図では
残念ながらマルテンサイトに関する記載がない。インターネットで下記のように
組織が状態図で変わっていく様を描写したのがあったので貼ってみる。
マルテンが出てくるのは上記図でいうと左側(炭素0.5w%、温度700度あたり)
あたりである。オーステナイトの急冷でマルテンサイトとなる。
高温で安定のオーステナイトは面心立方格子(FCC)であり、常温で安定の
フェライトは体心立方格子(BCC)である。
オーステナイトはというと、高温で炭素原子が鉄と仲良く同居している状態を
指すのだが、急冷するとその結晶中から炭素を追い出さなければならなく
なる(拡散変態)。
しかし追い出せずにいた炭素が、鉄結晶内にとどまり、体心立方格子の
準安定な状態となる。これがマルテンサイトであり、FCC⇒BCCの構造上、
強くなる。これが硬くなるということなのです。
顕微鏡で見ると見た目からして組織が変わっているのがわかる。
その形状が『麻の葉』に似ていることから『麻留田(マルテン)』という
当て字がある(wikiより)。
鉄という金属元素と炭素の特性を利用した熱処理という技術。
あー不思議だ。
④シアノバクテリアの活動 ~20から30億年前~
地球上で初期の生命体が活動を始めていた、今から20~30億年前。
初期の地球は酸素のない、嫌気的な環境であった。
この時期に初めて繁栄した生命体がシアノバクテリア。シアノバクテリア
は光のエネルギーを使って水と二酸化炭素から有機物を作り出し、
酸素を輩出する光合成をおこなう。シアノバクテリアのおかげで地球の
海水や大気中に酸素が増え、地球の表層では一気に酸化状態が
すすんだ。その結果、二価の鉄イオンとして海中に溶けていた鉄が、
三価となり、三価は水に溶けないため海中に沈殿した。これが現在、
世界の古い地層で鉄鉱石を多く産出している「縞状鉄鉱層」の
誕生の話である。(以上 季刊 新日鉄住金より)
縞状となる理由。時期時期においてバクテリアの活動状態にもばらつき
があったと推察され、それが鉄の層(活動が盛ん)と通常の堆積物(盛ん
でない)が交互に繰り返され縞状になったと考えられる。
その他、鉄の破壊の元になる『転位』に関してのわかりやすい説明があった。
もはや大学専門のレベルである。毎回こんなふうに鉄について熱く語る
『季刊 新日鉄住金』、恐るべし。次号に期待したいが、非売品だけに
手に入れられず残念~!