最近はテレビを見ても碌なニュースがない、というか、もしかしてニュースと

いうものはロクでもないことの方がバリューが高いのかもしれません。

(マスコミが競い合って金儲けに奔走している結果かも)

 

しかしながら悪いニュースばかりに接していると、世の中、身の回りがそんな

価値観で満ちている、と変な誤解が蔓延してしまいますので、今回はちょっと

ばかり、爽やかな話を紹介してみたくなりました。

 

以前NHKの朝のニュースで放送された、〝あるリーダー″の話ですが、彼の

人生※ には虚飾はなく、また彼の肉声は得られていません。

なぜかというとサルだから。しかし、彼の生涯に触れて多くの人が感化され、

ある刺激を受けたのは確かなようです。

(※以下、すべて擬人化いたします。そうしないと何の意味か分からなく

 なるから。例: 猿生→人生 オス→男)

 

彼の名前はベンツ。番組ではベンツが行方不明になった後での放送でした。

行方不明になったときは35歳(人間の年齢で100歳以上)。

 

別府の近く、高崎山自然動物園のサルですが、最初にボスになったときの年が

9歳の時。これは通常、群れのボスになる年が20歳といわれる中で、異例の

早さであった。それを支えていたのは大きな体。大きく気品のある姿にいつしか、

ドイツの高級車・ベンツの名前が与えられた。彼は700匹以上を数えたB群の

頂点に君臨する。

 

しかし好事魔多し。別のグループ(C群)のサル・リズに恋をして、一週間も

相手の群れに入りびたり、自分の群れをほったらかしにしてしまったため、

仲間からキックアウトされてしまう。群れのボスはただ強けりゃいいというもの

ではないらしい。人望があり、尊敬を集める対象でなければならないのだ。

 

やむなくリズの群れに入るも、「お金も権力もないあなたなんか知らない」と

言われたかは知りませんが、金の切れ目となんとやらでリズとも分かれてしまう。

 ダウン     

哀れベンツ、C群の最下層から人生のやり直し。そこは日々の餌にも事欠く

ような厳しい世界。他人の毛づくろいを行って、群れの信頼を一つひとつ

勝ち得なければならない。

 

しかしベンツはここで頑張った。人間にも踏ん張りどころがあると思うが、

サルも同じようだ。他の群れとの抗争で、先頭になって戦い、それを見て

いた群れの若い衆も加勢。結果、当時高崎山にいた最大の群れ(800匹

クラス)を解散に追い込む。

(ほとんど任侠の世界)

 

これらの、チームに対する貢献が認められ、20年の年月を経てベンツは

このC群のボスに推挙されるのでした。 またこの、二つのグループの

頂点に立つということは、高崎山の観察では〝初″となる快挙。

 

こういった波乱万丈なストーリーがやがて広く人間に知られるようになり、

関東では無名ですが、九州では大変な人気を博する人物だったのかも

しれません。

 

彼を間近で見守っていた飼育員氏も、自身の若いころと照らし合わせて、

ベンツの生き方に感化された一人でした。

 

そして最後にベンツはふらりと群れを離れ、姿を消す。大がかりな捜索が

行われたが、とうとう見つからず仕舞い。ある年配の女性が「年をとっても

みんなに慕われるようなそういう生き方」に憧れるといい、また「自分の

最後を見せたくないんじゃないか ボスらしく弱ったところを」と自身に重ね

忖度する。

 

逆境に打ち克ち、老いても仲間からの信頼を失わなかった伝説のサル

高倉健のような、男の中の男。 寡黙さが人の心を掴むのかもしれない。

 

出典 NHKおはよう日本(平成26年1月頃)